第12話
宇崎がやって来た。
そして俺を見て「おやっ」という顔をした。
いつもは「下がれ」と言うまで嫌がらせのように線のすぐ傍に立っている俺が、内側にいてしかも胡坐をかいて座っているからだ。
「なにを考えてるんだか」
宇崎はかがみこんで床にある下着などを拾おうとした。
――今だ!
俺は宇崎の顔をめがけて、背中に隠していた野菜の煮つけが入っていたプラスチックの容器を投げつけた。
中には俺が昨日丸一日かけて鎖の角で壁を削り取ったコンクリートの粉が入っている。
目潰しだ。
視界を奪えば、あとは流れでなんとかなると思ったのだ。
ところが宇崎は、プラスチックの容器が俺の手を離れるよりも前に、手にしていた俺の上着を顔の前に突き出した。
容器は上着に当って下に落ち、コンクリートの粉も大半は上着に付着しただけだった。
宇崎は上着を投げ捨てて言った。
「ほんと、学習しないなあ、君は。僕は小学校に上がる前から、厳しい剣の修行を続けてきたんだよ。毎日一日も欠かさずにね。それに比べて君は、格闘技どころかなんのスポーツの経験もない。そんな君が不意をつこうとしても、僕にはその前にわかってしまうんだよ。雰囲気や細かい動き、その他あれやこれやでね。嘘だと思うのなら、試してみればいいよ。何百回何千回と試みたところで、君に僕の不意なんか、つけないね」
宇崎が近づいて来た。
前に受けた木刀での連続攻撃。
前の痛みがまだ残っているというのに。
次の日やって来た宇崎が言った。
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