第22話 ウォルセアからの知らせと現状での推測
「あぁ、来ましたね。 今日は授業の前にお二人にお話がありますのでどうぞおかけ下さい」
とエドワードはキャサリンと執事のウォルターへ声をかけた。
「実はウォルセアから残り候補二人の情報が入りましてね、先にキャサリン嬢にもお伝えしておこうと思いまして」
とソファに腰かけたキャサリンと傍に控えているウォルターへ声をかける。
「まぁそうなのですか。 一体他の聖女候補とはどんな方々なのでしょう?」
と興味津々で聞くキャサリン。
「……それがですね……お一人はスモウーブ公国の第三公女ハリーテ・ドルジェ・スモウーブ殿下、もうお一方はアメフット国の宰相の娘のヒンズィール様だそうです」
「まぁそうなのですか、お会いできるのを楽しみにしていますわね」
とニコっと笑う。
かなり痩せたおかげで、輪郭も大分マシになってきたせいか元々顔立ちはそれほど悪くないキャサリンなので笑顔が似合うご令嬢となりつつある、だがそんなキャサリンをみてもエドワードの表情は晴れない。
「貴女はご存知ないようですね……ウォルター君はどうですか?」
と、指名されたウォルターは非常に困惑したようにこたえる。
「噂にすぎませんが……そのお二方もうちのお嬢様に負けず劣らずの大変有名な方ですよね……」
エドワードは頷きながら
「ええ……どちらも『ふくよかさ』に定評にある方ですね……」
と、二人は何とも言えない顔になり、それを不思議そうにキャサリンは交互に見ている。
「なにか問題でもありますの?」
「あると言えばありますし、ないと言えばないですね……とりあえず授業を始めましょうか」
と、話を打ち切り授業をはじめた。
……夕方近くなり、今日はここまでと授業を終え部屋を出て行こうとした主従へ
「ウォルター君、明日の打ち合わせをしたいと思いますので夜私の部屋へ来ていただけますか?」
と声をかける。
「畏まりました」
と恭しく礼を取ってからキャサリンをエスコートして部屋を出て行った。
* * *
深夜も差し迫る時刻に、ウォルターは一人エドワードの部屋を訪ねた。
「こんな夜遅くに申し訳ありませんね」
と、エドワードはウォルターを招き入れる。
「とんでもございません、エドワード様方にはお嬢様のためにご尽力いただいているのですから、万難を排してでも駆け付けるのは当たり前でございます。 旦那様からもくれぐれもお礼申し上げるように仰せつかってまいりました」
と、ウォルターは深々と礼をとった。
「堅苦しいのは性に合いませんし、時間も惜しいのでどうぞお座りください」
と笑顔で目の前の椅子を指さす。
「畏まりました」
とウォルターは早速腰かけた。
「話の内容は想像がついてることでしょうが、聖女候補についてです」
とエドワードが話し出す。
「一体どういう事なのでしょうか……?」
「実はですね……私の情報網にかかった話なのですが、そもそもウォルセアは『法王』聖下をトップとする宗教国家なのはご存知ですよね?」
「はい、法王聖下のみが世襲制で、しかも妻帯を許される特殊な立場になるとか」
「ええ、それで現在の法王聖下にはお子様がお一人いらっしゃいまして、今年二十歳になられるそうなのですがまだ独り身でいらっしゃるそうなのですよ」
ウォルターは、何かを悟ったようにはっとする。
「まさかそのお子様の伴侶選びの為の聖女選抜だと? いやでもさすがにあの候補の3名の中から選ばれるのはお気の毒なのでは……」
と、ウォルターは困惑する……いくらダイエット中とはいえ向うの国にはまだ情報が渡っていないはずなので、キャサリンは
「そうですね……私もなにかの嫌がらせか政敵の罠なのではないかと思い、色々探らせたんですよ……」
「では、そうではなかったと?」
「ご存知だと思いますが、神聖国ウォルセアは『主神ウォルセア』を崇めるウォルセア教を絶対として建国された国なのですが、教義の中で『暴飲暴食を許さず』という一文がありましてね、 万が一にも肥え太った国民など存在してはならない為ふくよかな令嬢など一人もいないのだそうです。」
「はぁ……」
「それでですね……これは国家機密扱いなので他言無用に願いたいのですが……次期法王聖下になられるお方は……その……ふくよかな方相手でないと……反応しないのだそうです……」
エドワードとウォルターは何とも言えない表情で顔を見合わせた。
「それは……大変な問題ですね……国内に、一人もご趣味に合う体格の女性がいらっしゃらないのではお世継ぎが作れませんし……」
とウォルターが遠い目をしているのを見ながらエドワードは
「これが我が国の問題であれば勝手にしろで済む問題なんですが、他国でしかも宗教がからんでますからね……あの国は一夫一婦制ですし、ふくよかな愛人を持つこともできませんから『聖女』という大義名分を使って伴侶として迎えるという可能性もないわけではありません……」
「しかし対外的に聖女らしからぬ御容姿の方を聖女に列聖するのはあまりよろしくないのでは……?」
「そう、そこなのですよ、私もずっと引っかかっていたのです。 いくら次期法王の伴侶を探すためであったとしても、他国につけこまれる要素をあの国の……特に『賢老会』の老獪共が簡単に容認するのかと」
「私めは政治についてはそこまで詳しくはないのですが、なにかあったのですか?」
「あなた方には知らせておりませんでしたが、かの国を前から少し探らせていましてね。 それによりますと、かの国で産出された『聖杯』と呼ばれるアイテムの使い手として聖女候補という名で適合者を選んだという報告だったのです」
「そうなのですか……聖杯とは具体的にどのような効果のあるものなのでしょうか?」
とウォルターは尋ねた。
「かの国の上層部にのみ伝えられた話では、『あらゆる病を治すことができる聖水を生み出せる』アイテムだとか」
「そ……それはなんとも凄まじい物ですね」
「ただ、その聖杯を使う代償として適合者の生命力が使われるようですが」
「そ……それはうちのお嬢様を生贄として使い潰すという事ですか……?」
ウォルターはその話を聞いた瞬間、瞳をギラギラと輝かせて怒りのオーラを纏っていた。
それを見てエドワードが意外そうに
「おや、やはり大事な主人を使い潰されるのは我慢なりませんか?」
と面白そうにウォルターへ問いかける。
「当然です! お嬢様を上手く転がして、生かさず殺さず使うのが最も効率的に私が生きていく方法なのですから勝手に他人が使い潰す計画を立てられては困ります!」
と憤慨している。
「……そうですか……。」
ここにも頭の痛い人間が……と思いながらエドワードは話を続ける。
「それでですね。 かの国の上層部には、【キャサリン嬢を優勝させて聖女にした上で『不慮の事故』にあってお亡くなりになる】というシナリオが計画されていると伝えられていたようなのですが、私の影が別の情報をつかんできてくれました」
「と、いいますと?」
「実は聖杯は、適合者の姿を見るものに合わせて自在に変えることができるアイテムなのだそうですよ」
とウォルターを見てニヤっと笑う。
「では、うちのお嬢様を聖女にした上で容姿を誤魔化す計画だと?」
「まぁそこは次期法王聖下のお好み次第ということになって、ふくよかなお方を三人ご用意したというのが真相でしょうね」
その話を聞いてウォルターは
「なぜ逆にしなかったのでしょう? 聖女にふさわしい容姿をお持ちの方に聖杯を使わせて次期様の寝所にはべらせればよろしいのでは?」
とウォルターが尋ねれば
「私もその方が話が早いのではと思ったのですが、どうも質感というか触り心地は変わらないのだそうですよ、要は幻影なのでしょうね」
とエドワードは肩をすくめた。
「なるほど……見かけだけでなく、あの肉感も備わっていないと次期様のお好みではないと」
「そういう事です」
「ですからウォルター、貴方にお願いがあるのです」
「何でございましょうか?」
「キャサリン嬢に次期法王聖下とご結婚される意思があるかどうか確認してはいただけませんか? 無いなら無いで構いませんし、あるならそれなりの準備もし直さねばいけませんから」
「わたくしめがですか!?」
「ええ、貴方にしかお願いできません。 私が聞いては勅命と誤解されますし、お父君にきいて欲しいと言ってもどうせ『可愛い娘を異国に嫁がせるなどとんでもない!』とか言うに決まってますし……」
キャサリンは気が付いていないが、彼女の父は実は娘大好き人間なのである。
仕事が忙しすぎて中々会えない愛する娘の、日々のどうでもいい情報と引き換えに侯爵家での自分の立場を上げてきたウォルターにはその場面が目に見えるように想像できた。
「旦那様なら確かにそうおっしゃることでしょうね……畏まりました」
「ではよろしくお願いいたしますね」
と、深夜の密談は終わりを告げることになったのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
・ウォルター君もエドワードにだけは頭痛いとか言われたくないと思います(笑
あの二人根っこは似たようなもんですからね。
・ある日の侯爵邸の会話
ウォル「最近お嬢様お気に入りのお菓子がありましてね」
父 「なんだと! 取り寄せるから早く教えるのだ!」
ウォル「あぁ……最近疲れのせいか物忘れが激しくなりまして……」
父 「休暇もやるし旅行いくなら費用も出すから早く教えろ!」
ウォル「最近できた王室御用達の店の……」
父 「ちょっと買い占めてくる」
ウォル「おやめください、もう報告しませんよ?」
父しょんぼり。
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