第10話 マーゴという女
その朝、マーゴはいつも以上に体がダルく眠さが抜けていかなかった。
何度か部屋の扉が叩かれていたようだったが、とても起き上がる気になれずしばらく無視していたが、ひどく喉が渇いて水を飲む為にようやく起き上がった。
「ヤダ……旅の疲れかしら……」
毎日任務を遂行するための計画を立て、神経をすり減らしながらじっと機会を伺い、あの面倒な召喚勇者であるゴトーの機嫌も取らなくてはいけない毎日に体調も優れなくなるというものだ。
身支度を整えながらマーゴは、定時連絡を送らなくてはいけないがその前にゴトーの様子を見に行かねばならないかしら、そんな事を考えていると、またしてもトントンとドアを叩く音がする。 ゴトーだろうか?
「はい」
とりあえず返事をしてみると、どうやら相手はあのレイとかいう子供のようだ。
「あ……あの、マーゴさん……その、朝早くにすみません……」
その煮え切らない声にいら立ちを覚えて
「なに? 用があるなら早くいってくれない?」
と返事を返した。
「あ……あの、ゴトー様はご一緒にいらっしゃいますか……?」
と、おかしなことを聞いてくる。
「は? 部屋にいないの?」
「はい……荷物もなくなっているようです」
マーゴは驚いた、まさか気づかれた? イヤ昨日もそんな素振りは欠片もなかった……ならば誘拐? 誘拐犯がわざわざ荷物まで持っていくのか? とドンドン思考が混乱してきて
「アンタ一体なにやってたのよ! 護衛なら護衛らしくずっと見張ってれば良かったじゃない!」
いら立ちから理不尽な八つ当たりをしてしまうが相手はどうせ始末する子供だ、良心など欠片も痛まない。
「す……すみません……僕探してきます!」
と慌てて立ち去ろうとしている気配がする。
「ち、ちょっと待ちなさい! 私一人置いていく気じゃないでしょうね!」
慌ててマーゴはレイを引き留める、勇者が逃げ出してしまったなら代わりの死体を用意して始末したと報告しなくては……とりあえずこの子供の死体だけでも先に見せなければ自分の身が危ない!
「あ……そうですよね……すいません」
「大体あんたゴトー君の行き先に心当たりあるの?」
「いえ……ただ昨日、僕がお世話になった方が一緒に探してくださるそうなんです」
マーゴは訝しみながら聞いた
「お世話? どういうこと?」
「昨日僕がゴトーさん達と別行動になったときに親切にしていただいた冒険者の方がいたんです」
マーゴは顔色を変える
「ちょっと……まさかあんたその冒険者にゴトー君の事話したんじゃないでしょうね!」
「いえ! 勇者様だということは話していません!」
「それならいいけど……それでも余計なことを言ってくれたわね……」
「すみません……あっエドワードさん!」
レイはどうやらマーゴの部屋の前で他の人間と話し始めたようだ。
「おやレイ君、ゴトーさんはいらっしゃったんですか?」
「それが、マーゴさんの部屋にもいらっしゃらないようなんです……」
これ以上レイに余計な事を言われては不味い、マーゴは部屋の扉を開けて
「ちょっと! いい加減に見ず知らずの人に迷惑かけるのやめなさいよ!」
とレイを怒鳴りつけた、レイはビクリと体を震わせ
「す……すいません……」
と半泣きになっている、それを見たエドワードは
「貴女がマーゴさんですか?」
と柔和な笑みを浮かべてマーゴに話しかけつつレイを自分の後ろへ隠す、それを見ながらマーゴは訝しそうにエドワードを眺めた。
よく見れば眼鏡をかけ上品なローブを身に
……これはマズいかも、貴族相手に事を荒立てて目立つのは致命的だ。
マーゴは笑顔を取り繕いエドワードへ話しかける。
「そうですけど貴方は?」
「これは失礼いたしました、私はエドワードと申します。レイ君の御父君であられるアルド殿とは古い知り合いでして
とニッコリ笑いかけてきた。
……最悪だ……アルド元騎士団長の知り合いだったとは……もはや計画は実行不可能なのではないだろうか、この状態でレイを殺せば間違いなくマーゴが疑われてしまう……こうなっては暗部の事は切り捨て『レイの事情などなにも知らなかったし自分も被害者だ』と訴えるしかないと覚悟を決めた。
「そうだったのですか……それは失礼しました。 ところでエドワード様はアルド様とはどういった関係だったのですか?」
「そうですね……私の友人よりは会う回数は少なかったと思いますが、3年に一度くらいは仕事でお会いしてその後一緒にお酒を飲むくらいはしておりましたよ?」
はっ、とした表情でエドワードを見ながら
「3年……まさかあなたはフィルド王国の国政に関わる仕事をしていらっしゃるのですか?」
「ええ……ご推察どうり条約会議の時はほぼ毎回お会いしておりましたよ」
と、柔和な笑みを消し射貫くような視線でマーゴを見るエドワード。
終わった……フィルド側に、なにもかもバレているようだ……。 とガクリと床に膝をつくマーゴ、その様子をみながらエドワードは視線を遮ったままレイに話しかける。
「レイ君、マーゴさんは私が
「えっ!? ルイス様が探してくださるんですかっ?」
「それがですね、どうやらルイスに確認したところ居場所に心当たりがあるそうなんですよ」
「すごい……さすがルイス様……分かりました! 行ってまいります」
と駆けて行った。 それを見届けたエドワードは冷たくマーゴに言い放つ。
「
淡々と説明するエドワードの言葉と進行する事態にマーゴは思考が追い付かないまま震えが止められない。
だが、エドワードの追撃の手は緩まることはなかった。
「貴女もう少し工作員としての修行されたほうが宜しいですよ、うちの影が部屋へ入ったのすら気が付かないのはさすがにどうかと思います。 ああそうだ……ところでマーゴさん」
とエドワードが聞いてくる、ビクッと体を震わせマーゴは言葉を待つ。
「国民の大半の命を費やしてまで召喚した、異世界の純粋な若者の心を弄ぶのは楽しかったですか?」
自分の事まですべて知られているのが分かり、絶望したマーゴの瞳はもはや何も映していなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
・レイ君のルイス様への好感度が上がった!
とかゲームならでてきそうですね…w
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