第一章 勇者召喚 編

第3話 酒場での出会い

「……おいエド」


「なんです?」


「なんでアイツあんなに偉そうなんだ?」


「……アンタほどじゃないでしょ」


「俺はホントにえらかっただろうが!」


「はいはい…」


 城下の馴染みの酒場兼宿屋についた二人は早速食事を楽しみながら、酒場の客をながめていた。

すると、カウンターの近くでなにやら騒がしい声が聞こえてきた、どうやら三人組のパーティーが揉めているようだ。


「おい!てめぇ!騎士見習いとか言っておきながら料理1つまともに注文できないのかよっ! 本当に使えない奴だな」


 革の鎧をきた剣士風の、黒髪でまだ少年といっていいような年の男が怒鳴っている、相手はどうやらオドオドした様子の、金髪で痩せこけた少年のようだ


「す…すいません…」

とペコペコと謝っている。


「これで俺たちのパーティー仲間っていうんだから恥ずかしいぜ」


「……。」


「まぁまぁ落ち着いて? ねぇアンタもボケっと突っ立ってないで早く注文してきなさいよ」


とローブをきた若い女が間に入り、黒髪の剣士の腕に自分の腕を絡ませながら金髪の少年に冷たく命じる。


「は…はい…」


注文して戻ってきた少年が剣士風の男に言う


「注文いってきました…お部屋に届けてくれるそうです」


「ちっ……もう用はねぇからどっかいけよ!」


「あ、あの……しょくじ……」


「あぁ!? テメェの飯なんかしるかよ、テメェのことなんだから自力でなんとかすればいいだろうが」


シッシッと手を追い払うように振り2階の部屋へと戻っていった。

トボトボと金髪の少年が、酒場兼宿屋からでていこうとした時に誰かが彼に声をかけた。


「なぁそこの金髪のオニーチャン、ちょっとお話聞かせてくれねぇかぁ? もちろんタダとはいわねぇ!飯くらいおごってやるから」


見ると粗野な雰囲気でテーブルに頬杖をついた、革鎧をきた男が話しかけてくる。


「ちょっと!またアンタ厄介ごとに首突っ込む気ですか!」


横にいて、メガネをかけ上品なローブをきた男が粗野な雰囲気の男へと言いつのっている。


「いいじゃねぇか、ヒマつぶしに話きかせてくれよニーチャン」


と粗野な男の向いの席を指さす


「あ、あの…」


そんな二人の様子に困惑している少年


「はぁ……しょうがない。申し訳ありません、この男は一度言い出すと聞かないもので。お時間が宜しければお話をきかせていただけませんか?」


上品な男は柔らかい笑みを浮かべ少年に問いかけた。


「あ……はい」


人の好さそうなメガネの男の言葉に緊張も幾分和らいで、男たちのテーブルの向いに座る。


「初めまして、私たちは旅の冒険者で私の名はエドワード、そして横にいる野蛮な男はアドルファスと言います」


「あ……はじめまして、僕はショカンシタ王国騎士見習いのレイ・バーグと申します」


ピクリとアドルファスの眉が動く


「ショカンシタ王国っていやぁこの王国からそこそこ離れた国だよな?なんでわざわざそんな遠くから?」


「はい……あ、あの……すみません。理由は話せないんですけど、僕はあの方たちの護衛もかねた前衛のパーティーメンバーなんです」


「その割には、ずいぶんな扱いを受けているようですが」


「それが…なにか誤解されているようで、僕が国から派遣されたスパイだって疑われてるみたいなんです、もちろんそんなことありませんよ!僕みたいな見習い騎士にそんな大役まかされるわけなくて…」


そういいながらションボリ俯くレイ少年。


「まぁそうでしょうねぇ、どうみても貴方はスパイに向いてるようにはみえませんし……あぁ、料理がきたようですよ、見たところまだまだ育ちざかりのようですし遠慮なくお食べなさい」


ニコリと笑いかけながらエドワードは料理をレイのほうへ押しやる。


「あ…ありがとうございます……はは…こんなにあったかくておいしい料理久しぶりだ…」


レイはこらえきれなくなったようでポロポロと涙をこぼしながら夢中で食べ始めた。


「泣いてはおいしくたべられませんよ」


とエドワードがハンカチを差し出す。


「すみません…両親が亡くなってからこんなに優しく声かけられたことがなくて…すごく嬉しいんです」

困惑したようにエドワードが問いかける


「…もしかして貴方のお父上は、ショカンシタ王国騎士団長であったアルド・バーグ様ではありませんか…?」


その言葉に はっ、と顔を上げてレイは


「ち…父をご存知なのですか?」


「ええ…昔何度かお会いしたことがありますよ…そうですか貴方がご子息でしたか」


エドワードは懐かしそうに顔を緩める。


「お父上のことはお気の毒でしたね……なんでも『王国の重要な儀式』の最中の事故に巻き込まれそうになった王をかばって亡くなられたとか…」


「はい、早くに母を亡くしていた私は頼れる親類もなくて、父が亡くなって行き場のなくなった私を、王が『温情』として騎士見習いにとりたててくださったのです」


アドルファスは顔をしかめながら


「温情……温情ねぇ……」


と呟く。


「はい、その御恩を返すために今回の旅に自分から立候補させていただいたんです」


「そうなのですか…色々ご苦労されたのですね」


「いえ……僕なんてまだあの方にくらべたら……」


複雑そうな顔でレイは呟いた。


「……そうですか。まぁここで会ったのも何かのご縁です、食事だけでなくこの宿に部屋を取りますから貴方はそこで今日はゆっくりお休みなさい」


「えっ!そこまでしていただくわけには」


困惑するレイに


「実はあなたのお父上には借りが1つありましてね…せっかくのチャンスですからそれを返させて下さい」


と軽く肩をすくめてみせた。


「わ……わかりました。 何から何までお世話になってすいません」


申し訳なさそうに顔をゆがめるレイ


「いいんですよ。また明日からもがんばってくださいね」


「はい、お話出来てうれしかったです」


「私もですよ」


とニッコリとレイに笑いかけるのだった。



◆◇◆



……レイが宿の部屋へ向かうのをみながらアドルファスは呟く。


「アルドの息子か……」


「純朴そうな少年でしたねぇ」


「ああ、昔の俺みてえになぁ」


「アンタただの糞ガキだったじゃないですか」


「はぁ? オメェみてえに性格ひん曲がってた訳じゃねぇし」


「……。 そんなことよりも、あの国なに考えてるんですかね?」


「別に災厄がおこったワケでもねぇのに『勇者召喚』しやがったな」


「まず間違いないでしょうね、恐らくは戦争にでも使うつもりで秘密裏に呼んだんでしょうが……」


「そんな下らねぇ事の為に、まったく違う世界から人間誘拐してくるなんざマジであの国王クズだな」


「ええ…そんなクズみたいなやつらに囲まれたら人間不信にもなるでしょうね、まぁ疑うことは正しいとおもいますよ? 相手を間違えてますけど」


「見た感じまだ子供みてぇだから人を見分ける目なんてもってねぇんだろうなぁ…すげえ毛を逆立てた獣みてぇになってやがったし」


「で? 今回はなにやらかすんです?」


「決まってんだろ! 楽しい事だよ」


「若者いじめてはダメですよ」


「バーカ、若いからこそ鍛えがいがあるんじゃねぇか」


ニヤリと笑うアドルファスをため息をつきながらエドワードは嫌そうに眺めた。

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