それ、カクヨムハラスメントですよ

ちびまるフォイ

この世界には善人しかいないなら

【 エピソードに応援コメントがあります 】



「おっ、昨日投稿した自信作

 『TV番組に転生したけど視聴率稼げないと死ぬ』

 にさっそく反響があったのかな。しめしめ」


鼻の下を伸ばしながら袋とじを開けるように

応援コメントを確認すると、内容は予想外のものだった。


>こちらの作品とは関係ないんですが、

 あなたが昨日私の作品に応援コメントしましたよね。

 あれはカクヨムハラスメント「コメハラ」になります


「こめはら?」


朝食がパン派となにか関係があるのかと調べて見る前に、

ついで近況ノートにまたコメントがあった。


「あなたが私の作品を応援コメントしたことで、

 次回作を書かないといけないようなプレッシャーを感じました。

 これは立派なハラスメントになります」


付属していたURLには昨日自分がコメントした

『初詣に魔王いたらどうする』が貼られていた。


近況ノートで慌てて誤解だと、そんなつもりはなかったとコメントをした。


「確かに、また読みたいとは書きましたけど

 まさかそんな風に受け止められるとは思ってなかったんです!」


「いじめている加害者には被害者の気持ちなんてわからないんです。

 あなたがそのつもりなくても、私はそう受け取ったんです」


「す、すみません……」


逆論破。完全に言い負かされてしまった。

ご機嫌取りも兼ねて、その人の他作品にレビューしておいた。

これで怒りが穏やかになるのを願うばかり。



翌日、再び怒りのコメントが到着した。


「レビューするなんて、どういうつもりですか?」


しまった。

昨日の今日だからわざとらしかったのかもしれない。


「すみません。けしてご機嫌取りというわけでは……」


「レビュハラですよ!!」



「……れびゅはら?」


「レビューハラスメント、略してレビュハラです。

 レビューを送ることで逆にレビュー返しさせなければならない

 そういうプレッシャーを与えてしまうハラスメントです」


「そういうつもりじゃ……」


「じゃあ、ちゃんと私の作品を読んだんですか!?

 ちゃんと理解していると言えるんですか!?

 本当は"お返しレビュー"を見越してのレビューじゃないんですか!?」


「ひええええ……」


めっちゃ怖い。

こんな圧で迫られるとは思ってなかった。


「ご、ごめんなさい」


「以降、気をつけてください」


なんらか感謝されるかと思っていたが、逆に怒られてしまった。

これはもう下手な事はできないとコメントもレビューも控えようと心に決めた。


となると、カクヨムの「ヨム」部分が削られてしまい

もうひたすらに自分の作品を書くしかやることがなくなる。




翌日、またコメントが届いた。


「どういうつもりですか」


「……いやいや! 待ってくださいよ!

 今度はコメントもレビューもしてないでしょう!?」


「そうですね。でもあなたの投稿頻度が上がっています」


「はい?」


「あなたが作品を投稿するたびに通知が来るんですよ!

 それも投稿時間は深夜ばかり! 睡眠妨害ですか!

 これは立派な「トウハラ」ですよ!!」


「投稿ハラスメント……ですか?」

「知ってるなら辞めてください!」


「待ってください、それならフォローしなければいいでしょう。

 壁にぶつかったときに「壁があるのが悪い」というような理屈ですよ」


「私は壁の話はしてません」

「たとえですよ!」


「誰をフォローするかは私の自由でしょう!?

 カクヨムでは予約投稿ができるんだから、

 変な時間に投稿しなければいいだけの話じゃないですか!」


「なんでフォロワーの顔色を伺って、

 いちいち投稿しなくちゃいけないんですかっ」


「読む人がいなけりゃあなたの作品なんて

 公衆トイレの落書き以下ですよ!」


「ほっとけ!!」


今度ばかりは納得行かないと反論したものの、

お互いに平行線の議論を重ねるので終わりが見えない。


荒れに荒れた近況ノートは運営からも目をつけられ

『見苦しいので今度やったら垢BANな』と銃口つきつけられた。


今度はもう失敗できないと事前にカクヨムハラスメントを調べることにした。



【応援コメントハラスメント】

 応援コメントすることで作者にプレッシャーを与える行為


【レビューハラスメント】

 レビューを送ることで作者にお返しレビューもしくは

 その他の見返りを促すようなプレッシャーを与える行為


【投稿ハラスメント】

 何度も投稿を繰り返しフォロワーの睡眠妨害を行う行為。

 もしくは、複数投稿してフォロワーに執筆圧力をかける行為


【近況ハラスメント】

 近況ノートにコメントを繰り返し他の作者に

 近況ノート更新のプレッシャーを与える行為


【連載ハラスメント】

 新規投稿の合間に連載作品を更新して、

 読者もしくはフォロワーに評価を促すように思わせる行為


【フォローハラスメント】

 勝手に作者をフォローすることでフォロー返しを促す行為


【問い合わせハラスメント】

 運営に要望を送ることで改善しなくちゃいけない感じにさせる行為


【作内セクシャルハラスメント】

 エッチな内容だと思わせないのに作中でエッチな展開や描写を行う行為


【バイオレンスハラスメント】

 暴力描写が無いと思わせておいて作中で肉体・精神的暴力描写を行う行為


【ネガティブハラスメント】

 あの作品は〇〇が悪いなど批判を繰り返す行為。

 もしくは読者が不愉快になる描写を続ける行為


【ポジティブハラスメント】

 〇〇すれば人気が出る、などのやり方を書いて

 それを真似した人が思った結果にならずに落ち込ませる行為


【ワンパターンハラスメント】

 トラックにひかれる、ヒロインが自分を取り合う、など

 やり尽くされた展開を形式美のごとく踏襲してうんざりさせる行為


【超展開ハラスメント】

 読者の予想できない急展開や理解が困難な展開を行い

 心理的負担や理解への労力を求める行為



 以降省略。




「め、めっちゃあるじゃん!!」


よく考えずに登録したもののハラスメントは多岐にわたる。

これでは地雷原を寝転がりながら移動するよりも危険。


「いったいどうすればいいんだよ……」


何を書いても受け取る側によってはハラスメントになる。

こちらからなにかしてもハラスメントになる。


もうここで投稿する方法はないのか。


 ・

 ・

 ・


それから数カ月後、新人賞デビューしてはじめてのサイン会が行われた。


「ヨム田先生、受賞おめでとうございます。

 先生の作品はもともとサイトで投稿されてたんですよね?」


「ええ、そうなんです。

 でもいろいろ読者の顔色を伺う必要ができてきたので

 どこにも投稿せずに悶々と書き溜めていました」


「それで新人賞を受賞するなんてすごいですよ」


「思い切って投稿してみてよかったです。

 サイト内ではあまり反響なかったので自信はなかったんですが」


「今の気持ちを誰に伝えたいですか?」


聞かれるだろうと思っていた質問がやってきた。


「俺は、あのときハラスメントだと言ってくれた人に伝えたいです」


「それはどうして?」


「今思えば、俺にハラスメントを指摘した人がいたから

 サイトでほそぼそと投稿するだけでなく新人賞に応募できたと思います。

 あのまま続けていても、陽の光に当たることはなかった」



すると、サイン会に並んでいた1人が寄って来た。


「ヨム田先生、デビューおめでとうございます。

 実はあのときハラスメントだと言ったのは私なんです」


「ああ、あなたがあのときの!

 あなたの意図に気づけずに反発してしまいましたが

 今では本当に感謝しています! ありがとうございます!」


「先生、ひとついいですか」

「なんでしょう」




「デビュハラって知っていますか?」



もうやめてくれ、と心の中で祈った。

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