王鎮悪8  後秦遠征1  

劉裕りゅうゆう後秦こうしん討伐の軍を立ち上げる。

ここで王鎮悪おうちんあくを前峰軍の将に抜擢。


いよいよ出発という時に、

劉穆之りゅうぼくしが王鎮悪を兵器倉庫に呼んだ。

そして、言う。


「劉裕様は、故郷を失ったそなたを

 憐れまれ、逆賊の討滅を

 そなたに託したのだ。


 それは司馬昭しばしょう様が鄧艾とうがい

 しょくの討伐をお委ねになったのと同じ。


 大功を挙げることに励まれよ。

 と言って、一人突っ走られぬようにな」


王鎮悪は答える。


長安ちょうあんを落とさずして長江ちょうこうを渡り、

 この建康けんこうに戻りなどはしないと、

 ここに誓いましょう!」


進撃する王鎮悪。

向かうところ敵なしである。

その精強さが伝わったのだろう、

邵陵しょうりょう許昌きょしょうの後秦軍は、

王鎮悪の接近を聞くだけで崩壊した。


快進撃は止まらない。

虎牢関ころうかん柏谷塢はくやうを突破すると、

後秦軍将軍の趙玄ちょうげんを切り捨てた。

洛陽らくようにまで軍が進めば、

後秦王族の姚洸ようこうはあっさり降伏。


洛陽から長安に向かう途上には、澠池でいち

前秦ぜんしんがぐちゃぐちゃとなり、

王鎮悪が流遇の目に遭ったとき、

匿ってくれた、李方りほうのいる地だ。


王鎮悪、李方の家に立ち寄ると、

奥の間の母に会った。

それから李方に厚く褒賞を加えると、

約束通り、李方を仮の澠池令に任じた。


ここで王鎮悪、副官の毛德祖もうとくそ

れい城に向かわせる。

そして城主の尹雅いんがを捕獲させた。

そして尹雅は仮の弘農こうのう太守に任じた。


遠征軍はさらに進む。

そしてやってきたのが、

長安の前の最難関、潼關どうかん


ここに陣取る後秦将は、姚紹ようしょう

後秦最後の名将、と言っていい存在だ。

姚紹は周辺に深い堀、高い丘を築き、

万全の防備でもって迎え撃ってくる。


ここまでの遠征で、王鎮悪軍には、

そろそろ兵糧に不安が出てきた。

ここで姚紹の持久作戦を食らうのだ。

いよいよ、食料がヤバい。


そこで王鎮悪、自ら一旦弘農に戻る。

そこで「糧秣の拠出を願い出た」。

「糧秣の拠出を願い出た」。

大事なことなので。


すると人々は、

「喜んで糧秣を差し出した」。

「喜んで糧秣を差し出した」。

大事なことなので。


これにより、再び

王鎮悪軍の兵糧は万全となった。




十二年,高祖將北伐,轉鎮惡為諮議參軍,行龍驤將軍,領前鋒。將發,前將軍劉穆之見鎮惡於積弩堂,謂之曰:「公愍此遺黎,志蕩逋逆。昔晉文王委伐蜀於鄧艾,今亦委卿以關中,想勉建大功,勿孤此授。」鎮惡曰:「不克咸陽,誓不復濟江而還也!」鎮惡入賊境,戰無不捷,邵陵、許昌,望風奔散;破虎牢及柏谷塢,斬賊帥趙玄。軍次洛陽,偽陳留公姚洸歸順。進次澠池,造故人李方家,升堂見母,厚加酬賚,即版授方為澠池令。遣司馬毛德祖攻偽弘農太守尹雅於蠡城,生擒之。仍行弘農太守。方軌長驅,徑據潼關。偽大將軍姚紹率大眾拒嶮,深溝高壘以自固。鎮惡懸軍遠入,轉輸不充,與賊相持久,將士乏食,乃親到弘農督上民租,百姓競送義粟,軍食復振。


十二年,高祖の將に北伐せんとせるに、鎮惡を轉じ諮議參軍と為し、龍驤將軍を行し、前鋒を領す。將に發せんとせるに、前將軍の劉穆之は鎮惡と積弩堂に見え、之に謂いて曰く:「公は此の遺黎を愍れみ、逋逆を蕩ぜんと志したり。昔、晉の文王は鄧艾に伐蜀を委ね、今、亦た卿に以て關中を委ぬ、想うに大功を建つるに勉め、孤り此を授くる勿れ」と。鎮惡は曰く:「咸陽を克せずんば、復た江を濟り還らざらんと誓いたるなり!」と。鎮惡は賊との境に入り、戰に捷ぜざる無く、邵陵、許昌にては、風に望むに奔散す。虎牢、及び柏谷塢を破り、賊帥の趙玄を斬る。軍の洛陽に次さば、偽の陳留公の姚洸は歸順す。進みて澠池に次さば、故人の李方が家に造り、升堂にて母を見、厚く酬賚を加え、即ち方に版じ澠池令と為したるを授く。司馬の毛德祖を遣りて偽の弘農太守の尹雅を蠡城に攻め、生きて之を擒う。仍いで弘農太守に行ず。方軌長驅し、徑ちに潼關に據す。偽の大將軍の姚紹は大眾を率い嶮に拒し、深溝高壘を以て自ら固む。鎮惡は軍を懸け遠入せど、轉輸の充たさざらば、賊と相い持久せるに、將士は食に乏し、乃ち親しく弘農に到り、民租を督上さば、百姓は競い義粟を送り、軍食は復び振るう。

(宋書45-8_暁壮)




升堂にて母を見

升堂というのは学問などをより探求する場、的な意味合いが込められているという。そうするとそれが人の家にあった場合、奥の間、的な認識になるのかなあ。そしてこの書かれ方だと、ここで王鎮悪が会った「母」って、たぶん霊廟だよね。そんな情報ここまでどこにも出てきてないけど。まさか李方の母にあいさつした、なんていちいち残すまい。「うちの母ちゃんの仮の墓所にもなっててくれてありがとう」って感じだろうか。そりゃこんなん深く恩義に報いるしかないですわ。


それにしても、ラストの兵糧接収のシーンはいろいろ趣深いですわね。まぁここでわざわざ尹雅の名前を強調してる辺り、前秦人時代に縁のあった人物だったのかもしれないけれども。この人後秦姚萇ようちょうの参謀になった尹緯いんいとは血縁なのかなあ。

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