王鎮悪5 劉毅戦開戦   

王鎮悪おうちんあく江陵こうりょうに向かって

進み始めて、間もなく。


劉毅りゅうき軍の要将、朱顕之しゅけんしと遭遇した。

その後ろには騎馬が約十、

歩兵が数十、といったところ。


川港から煙が立ち上っていることに

異常を感じ、出向こうとしていたのだ。


「お前たちは、一体なんの集団だ?」

劉藩りゅうはん様をお連れしたのです」


ん? 劉藩様?

何かがおかしい。


朱顕之、蒯恩かいおんらに馬を寄せる。


「いずこにいらっしゃるのだ?」

「後方におります」


いやいや、いないよね?

なんか武器防具万全だよね?

っつーか普通、こうなってくると

川港の火事と結びつけるよね?


つまり、劉藩が来たって嘘だ!


朱顕之、慌てて劉毅のもとに引き返す!


「敵襲です! 劉藩様ご来訪に偽装し、

 すでに城の近くにまで来ています!


 港の火事は、奴らの仕業!

 我らの船はことごとく炎上とのこと!」


ファ!?

ガチ病だった劉毅さん、

弱り目に祟り目である。

急ぎ内城、及び外城の城門を封鎖、

その上で迎撃体制を整える。


が、外城東門の封鎖が遅れていた。

王鎮悪らはそこからの侵入に成功。


とはいえ、劉毅の対応も速い。

八隊千あまりの兵たちが、

すでに防備に入っていた。


蒯恩は東門から北に向かい、

射堂を制圧した後、内城東門を攻撃。


王鎮悪は、東門から一気に

内城西門に攻めかかる。


また、別の一隊は内城南門を。


劉毅は内城東門に六隊千人あまりを充て、

西門には二千人あまりの兵を割いた。


昼食時頃に始まった戦いは、

午後六時ころ、西門の陥落にいたる。

投降者たちを受け入れたのち、

王鎮悪は入城。


折しも風は西から東。

王鎮悪は火を放つ。

瞬く間に城内を火が覆う。


ここで王鎮悪、劉毅に使者を派遣した。

持たせたのは詔勅文、赦文、

そして劉裕自身からの手紙。

劉毅、これらすべてを

読みもせずに焼き捨てた。


劉毅は、この時はまだ、

王鎮悪軍のみが攻めかかってきていた、

と考えていた。


よもや劉裕自身が動いていたとは、

思いもしていなかった。




未至城五六裡,逢毅要將朱顯之,與十許騎,步從者數十,欲出江津。問是何人,答云:「劉兗州至。」顯之馳前問藩在所,答云:「在後。」顯之既見軍不見藩,而見軍人擔彭排戰具,望見江津船艦已被燒,煙焰張天,而鼓嚴之聲甚盛,知非藩上,便躍馬馳去告毅:「外有大軍,似從下上,垂已至城,江津船悉被火燒矣。」行令閉諸城門。鎮惡亦馳進,軍人緣城得入,門猶未及下關,因得開大城東門。大城內,毅凡有八隊,帶甲千餘,已得戒嚴。蒯恩入東門,便北回擊射堂,前攻金城東門。鎮惡入東門,便直擊金城西門。軍分攻金城南門,毅金城,內東從舊將,猶有六隊千餘人,西將及能細直吏快手,復有二千餘人。食時就鬥,至中晡,西人退散及歸降略盡。鎮惡入城,便因風放火,燒大城南門及東門。又遣人以詔及赦文並高祖手書凡三函示毅,毅皆燒不視。金城內亦未信高祖自來。


未だ城に至らざること五、六里にして、毅の要將の朱顯之と十許りの騎と步從せる者數十の江津に出でんと欲せるに逢う。是の何たる人かを問わるるに、答えて云えらく:「劉兗州の至りたり」と。顯之の前に馳せ、藩が在所を問いたるに、答えて云えらく:「後ろに在り」と。顯之は既にして軍に藩の見えざるを見、軍人の彭排戰具を擔ぎたるを見、江津が船艦の已に燒さるを被り煙焰の天に張らるるを望み見、而も鼓嚴の聲の甚だ盛んなれば、藩の上りたるに非ざるを知り、便ち躍馬を馳せ去りて毅に告ぐらく:「外に大軍有り、從下の上りたるに似せ、已に城に至りたるに垂んとし、江津が船は悉く火を被り燒けたるなり」と。行きて諸城門を閉ざさしむ。鎮惡は亦た馳せ進み、軍人は城に緣りて入るを得、門は猶も未だ下關に及ばざれば、因りて大城の東門の開きたるを得る。大城が內にては、毅は凡そ八隊を有し、帶甲は千餘、已にして戒嚴を得る。蒯恩は東門に入り、便ち北回し射堂を擊ち、前みて金城東門を攻む。鎮惡は東門に入り、便ち直ちに金城西門を擊つ。軍は金城南門を分け攻め、毅が金城にては、內に東從せる舊將、猶お六隊千餘人有り、西將、及び能細の直吏や快手は復た二千餘人有り。食の時に鬥いに就き、中晡に至り、西人の退散及び歸降せるは略ぼ盡し。鎮惡は入城し、便ち風に因りて火を放ち、大城の南門及び東門を燒く。又た人を遣りて以て詔、及び赦文、並びに高祖の手書の凡そ三函を毅に示せど、毅は皆な燒きて視ず。金城內は亦た未だ高祖の自ら來たるを信ぜず。

(宋書45-5_暁壮)

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