謝晦13 謝晦は語る2  

ワイ、畏れ多くも荊州をお預かりし、

その任務、誠心誠意頑張ったつもりです。

あらゆること、陛下にお伺いしましたし。


蛮族をぼてこかし、領内の治安を守り。

またワイの家族については、

陛下のおそばにつけました。


何かがあったら彼らに累が及ぶ、

だから変なことなんかしないよ、

そうワイ自身に言い聞かせるためにも。


陛下のご一門との婚姻関係を

結ぼうとしたのも、全てはワイが

好き勝手出来なくするための、戒めです。


ワイらの、陛下への

忠誠の証明だったのです!


徐羨之じょせんしは百官を束ね、

劉裕りゅうゆう様、劉義符りゅうぎふ様、そして陛下。

三代の帝をサポートし続け、

老いを理由に引退を願えど許されず。


傅亮ふりょうの筆の冴えわたること、

その文章を読めば、ただ一心で

君主に仕える道を探っておりました。


どちらも、全くもって

この大宋が誇るべき忠臣。

この国の繁栄の礎。

だというのに、あぁ、だというのに!


奸臣どもの讒言により、

うらむらくも、陛下との間に

溝が生じてしまった!

そして、遂には殺された!


檀道済だんどうさいについての消息は

未だ聞いておりませんが、

かれ一人が助かる、などと言う事は

あり得ぬのでしょう。


劉裕様がワイらに託された思いが、

あぁ、いま邪佞どもの手で滅ぼされた!

ワイ自身、誅滅は免れ得ぬのでしょう。


陛下は今や立派にお育ちになられ、

遂にはご自身でこの国を

引っ張って行かれようとなさっている。


しかし、臣民らの思いは、本当に

陛下のお耳に届いているのでしょうか?



王弘おうこう王曇首おうどんしゅは、軽率にして

ご政道の何たるかを

理解しているとは思えません。


また王華おうかは陰険にして猜疑心の塊。

奴こそが君側の奸と申すべきでしょう。

陛下のおそばで、好き放題をしたい、

そう企んでいるよう思われます。


天下の人びとで、

これらの者に好き勝手させることに

悲憤を覚えぬものはおりますまい!




臣忝居蕃任,乃誠匪懈,為政小大,必先啟聞。糾剔群蠻,清夷境內,分留弟姪,並侍殿省。陛下聿遵先志,申以婚姻,童稚之目,猥荷齒召,薦女遷子,合門相送。事君之道,義盡於斯。臣羨之總錄百揆,翼亮三世,年耆乞退,屢抗表疏,優旨綢繆,未垂順許。臣亮管司喉舌,恪虔夙夜,恭謹一心,守死善道。此皆皇宋之宗臣,社稷之鎮衛,而讒人傾覆,妄生國釁,天威震怒,加以極刑,并及臣門,則被孥戮。雖未知臣道濟問,推理即事,不容獨存。先帝顧託元臣翼命之佐,勦於佞邪之手,忠貞匪躬之輔,不免夷滅之誅。陛下春秋方富,始覽萬機,民之情偽,未能鑒悉。王弘兄弟,輕躁昧進;王華猜忌忍害,規弄威權,先除執政,以逞其欲。天下之人,知與不知,孰不為之痛心憤怨者哉!




謝晦が王華に近づこうとしていたのは先にも書かれていたのだが、その目論見が見事に頓挫したんだな、というのがよくわかる。それと檀道済についても殺されたと思い込んでた、というのも。この辺りは檀道済と劉義隆との間の駆け引きが凄いし、また王華たちの進言通りに檀道済を摘んでいたら、下手すりゃ謝晦にぼてこかされてた可能性もある。


というか、この流れからすると、謝晦は単純に戦術的な意味で「檀道済にビビった」わけじゃなさそうだ。「檀道済が殺されず、あまつさえ劉義隆の側についてしまったのであれば、この先での展望にまるで見通しが立たなくなった」という絶望が大きかったんじゃなかろうか。何せ「檀道済すら殺すクソ邪悪な王華」という大義名分が成立しなくなる。これは謝晦にとって目論み違いにもほどがあったんだろうなあ。


うおー、劉義隆の胆力が冴えまくってる。やっぱこの人すげえわ。

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