Equivalent Exchange(イクイバレント エクスチェンジ)

桜良 らの

prologue


「…人間って、なんで喜ぶか知ってる?」



「…人間ってなんで悲しむか知ってる?」




何処からかそんな声が聞こえた気がする。


朦朧もうろうとする意識の中、その声に必死に耳を傾ける。




「それはね、感情があるからなんだよ」



感情?何の話をしているんだ…?

置かれている状況も、場所も、何もかも分からない。

そういえば、僕の名前って────





────そう思った途端、再び声がした。





「いっそ感情なんて無かったらいいと思わない?」






その瞬間、僕は現実に引き戻された。



曖昧な情報から必死に記憶を辿る。……今のは夢か。

時間を確認しようと携帯を探ったが、なかなか見つからない。リビングに置き忘れたな。


携帯を取りにベッドから出ようと身体を起こすも、異様に身体が重く、起き上がることが出来ない。


窓の外を見るとまだ空は暗い。日が昇っていないことを確認し、重い身体をベッドに預け、もう一度眠りについた。





その時には、もうさっきの夢のことなんて忘れていた。

ただの悪い夢だ。そう思っていた。











そう、このときの僕はまだ気付いていなかったのだ。

あの言葉の本当の恐ろしさに。

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