5章
俺はいつの間にか、街にいた。
人が多く歩いている。
つまり、現代ではない。人が滅んだ今このような光景は見れないのだから。
これも異能力が見せ得るビジョンなのだろうか。
今は死にかけた訳ではないから、何故見せられているかは分からないが。
ふと。
目に留まる赤髪。
「な…………」
ガグルガスがいた。
ゴミ拾いをしていた。
「…………」
このビジョンは、ガグルガスを見ろという事なのかもしれない。
ガグルガスがどこかへと歩き去っていく。
俺はガグルガスのあとをつけた。
ガグルガスは人助けをしていた。
歩き辛そうなおばあさんを背負って信号を渡っていた。
俺は更にガグルガスを追う。
複数人に絡まれている気弱な少年をガグルガスは助けていた。
暴力はいけない! そんな言葉を大真面目に吐いていた。
異能力者のガグルガスとは正反対の
正義を目指す好青年だった。
ガグルガス=オートレールは、人間だった。
また光景が唐突に変わる。
今目の前に居るのは、
自室の机で、真面目に勉強に取り組んでいる。
場面が何度も変わり、俺は渦城という少年を見ていく。
渦城才賀は、上を目指す少年だった。
家の期待を重荷に思いながらも、渦城は何か自分にはないかと探していた。
自分にとっての唯一を求めていた。
そんな、悩みを持ちながらも前に進む少年の一人だった。
ただの、人間だった。
唐突に光景が変わる。
佐藤涼音が、キッチンで友人とお菓子を作っていた。
笑顔が絶えない中、アイスやケーキを作っていた。
完成したお菓子を、楽しくお喋りしながら食べている。
佐藤涼音は、普通に過ごす心優しい少女だった。
佐藤涼音は、人間だった。
エレミオーラ=シェイクが目の前にいた。
まず驚いたのは、エレミオーラの表情だ。
優しく微笑んでいるんだ。
あの狂った笑いしか見せなかったエレミオーラが。
穏やかな目元は、とてもあのエレミオーラには見えない。
場面が何度も変化し、エレミオーラを見ていく。
エレミオーラ=シェイクは、心優しい令嬢だった。
金銭を様々な所に寄付したり、孤児院を経営したりしていた。
人類の平和を願っている聖人。
エレミオーラ=シェイクはそんな人間だった。
皆、人間だった。
当然だ。人間に異常な因子が入り込んだ事で生まれたのが異能力者なのだから。
そんなことは、最初から分かっていた事だった。
分かっていた筈の事だった。
なのに。
この心の惑いはなんだ。
俺はどうしたいんだ。
俺は、正しいのか。
戦った事、殺した事は後悔していない。
奇跡を守る為だ、自分が生きる為だ。だからそんなことを後悔はしていない。
だが、それでも、目覚めが悪い。
いい気分にはならない。
気分は鬱屈する。
それは、いいことではない。
俺には関係ない。そういってしまうのは簡単だ。
実際多くの人はそれで済ますかもしれない。だが。
だが。
だが…………。
わたしは今たろーの部屋にいる。
たろーは目の前の布団で眠っている。
あの時、エレミオーラの光を受けて、たろーの体は一度消えて無くなってしまった。
その後少しずつ回復していって、今は体を取り戻しているけど、瞼を閉じたまま動かない。
いつ起きるのか、そもそも起きるのかも分からない。
わたしは離れずにずっと一緒に居て看病している。
「たろー……」
たろーの手を握る。
ちゃんと暖かい。
夜だ。たろーの傍で過ごしていたら、いつの間にか夜になっていた。
今たろーはお風呂には入れない。
たろーの体を拭こうと思う。
汚いままだとだめだから。
階段を下りて、お風呂で桶にお湯を入れてタオルと一緒に持って来る。
んしょんしょ、と階段を上った。
たろーの服を脱がさないと。
たろーの服を、脱がさ、ないと……。
なるべく見ないようにしながら脱がした。
タオルをお湯に浸けて絞る。
全身を拭いていった。
お股の部分は、変な感触がした。
新しい服をたろーに着せてから、わたしは一人でお風呂に入った。
お風呂から出ると、お酒が飲みたくなった。
ビールを冷蔵庫から出して、たろーの傍に戻る。
おつまみに甘いものが食べたくてルマンドも持ってきた。
しょっぱいものの方が合うかもしれないけど、わたしは甘いものが食べたい。
たろーを見守りながらプルタブを開けてビールを飲んだ。
ルマンドをボリボリと零しながら食べた。
食べて飲んでしばらくしたら、もう夜遅く。
眠くなってきた。寝よう。
たろーの布団に入り込んで丸くなる。
たろーの匂いがする。
いいにおい。
落ち着く。
いつの間にか、眠っていた。
――わたしは、一人公園にいた。
ちょっと、一人になりたかったから。
少し、疲れちゃった。
毎日楽しくないわけじゃない。
まったく楽しくないわけじゃない。
でも、ママもパパも構ってはくれない。
まったく、関わってくれない。
その時は名前は知らなかったけど、それはネグレクトというものだと後で知った。
けれど友達は居て、楽しくはあるの。友達は大切。
でも、ときどき一人になりたい時があった。辛くないなんてことない。
そんな時、たろーが来てくれた。
ブランコに座ってたら、突然現れてくれたんだ。
それからの日々は、明るい気持ちでいられた。
起きた。
昔の、たろーと出会った時の夢を見ていた。
今もたろーの暖かさと匂いが近くにある。
隣に目を向けるとたろーの寝顔が見えた。
たろーは、昔も今も、助けてくれている。
頑張って戦って、ボロボロになってもそばにいてくれている。
「たろー、ありがとう。今度は、わたしが助けるからね」
このまま目覚めなかったとしても、たろーの為にずっと生きよう。
…………。
「たろー……」
なんでか涙が出てきた。
ごしごしと腕で拭いた。
それでもしばらく止まらなかった。
突然に、世界は変わってしまう。
灰色の終わった町へと。
それからまたすぐに世界は目まぐるしく変わる。
昔、わたしが通っていた小学校が視界に入る。
その校庭にわたしとたろーはいた。
たろーはまだ、眠っている。
学校の昇降口からわたしと同い年の女の子が出てきた。
水色の長い髪をなびかせて、歩いてくる。
水色のふわふわとしたドレスが翻る。
元は、黒髪だった。
「よし、眠ってるね。そのお兄さん殺しに来たよ~」
はなちゃんは、笑顔でそんなことを言う。
「だめだよ、はなちゃん」
「ううん、危険だから殺すの。人間だから殺すの」
「ねえ、はなちゃん、わかりあえないのかな?」
何度もした問い。
「よく飽きないよね、きせきちゃん」
「飽きるわけないよ。だって友達だもん」
「はなに人間の友達はいないんだけどな~」
「友達だよ」
「そっか、とりあえずそのお兄さん殺させてね」
花が、舞った。
様々な色の
雨の様に、隙間がほとんどなく。
わたしはこの現象を知っている。
はなちゃんの、異能力だ。
咄嗟に行動した。
そうしなければ、あっという間に終わってしまうと考える間も無く直感したから。
絶対防御のバリアを全身に張った後それを一点に引き伸ばし、引き寄せて、集めてランス状にする。
これが唯一わたしが攻撃できる方法。その代わりに一点に集める事でランスの周囲の防御力が弱まってしまうリスクがあるけど。全身にバリアが張られたままではあるけど、薄くなるから。
バリアで作ったランスを地面に勢いよく突き出し、異能力の衝撃によってクレーターを一瞬作った。
その中に眠っているたろーを放り込んだ。
巻き上がった土や砂がたろーの体を覆って埋める。
異能力者はこれぐらいでは死なない。むしろこれは簡易シェルターだ。
同時、目に見える景色全てが爆発した。
辺りに舞っていたカラフルな花弁がすべて爆発したんだ。
わたしは絶対防御のバリアに守られて無傷、これぐらいの爆発なら防御力が弱まっても防げる。たろーも地面の下だから爆発の影響はほとんど受けていない。
わたしのバリアで守れたらよかったけど、わたしのバリアはわたしを守ることにしか特化していない。
だから、千年前も誰も守れなかった。
でも今は必ず守ってみせる。守らないといけない。守れないなんて嫌だ。
「うまくかわしたね。でもいつまでもつかな」
無数のカラフルな花弁がまた舞う。
はなちゃんの異能力は、花を生成しそれを爆弾や斬撃や毒に変質させる能力。
何度も見た能力だからよく知っている。
さらに広範囲に散布することができるから厄介なんだ。
はなちゃんの能力は、攻撃範囲が広すぎる。
わたしがバリアを纏って後ろにたろーを庇いながら戦うという戦法すら取れないんだ。
斬撃は無数に襲う。
周囲は爆発と斬撃で滅茶苦茶になっている。
わたしには傷一つ無い。
間髪入れずにカラフルな花弁が舞った。
花弁は溶解してヘドロ状になって雨の様に降り注いだ。
わたしは埋まっているたろーの上に覆い被さった。
周囲は毒素に侵されてジュクジュクと汚染されていく。
たろーは無事だ。守れている。
「やっぱり効かないよね」
「昔から、それはわかってるでしょ」
「そうだね~」
「……お願いだから、諦めてくれないかな」
「はなを殺さないとずっと攻撃を続けるよ。今回は撤退は無しだからね。そのお兄さんは危険すぎるから殺すまで帰らない。だからはなを殺さないと何も終わらないよ?」
頼みの言葉は無視された。わかりやすい挑発だけど、本当のことでもあった。
はなちゃんが狙ってることは、多分わたしから攻撃させることでたろーを、そしてわたしを殺す隙を作り出すこと。
わたしが攻撃するとき防御が甘くなることに気がつかれていたんだ。
そうしなければたろーが危なかったとはいえ、初手で手の内を晒して弱点を知られてしまったんだ。
「ねえ、やっぱり戦うのやめよう? 昔みたいに楽しく遊ぼう?」
「楽しく遊んでるじゃない。はなが殺せたら勝ちっていう遊び」
「そんなの遊びじゃない」
花が舞う。
爆発。
爆発。
爆発。
爆発が続く。
わたしはずっとたろーの上に覆い被さっている。
「いつまでもつのかな~っ」
殺さないと守れないのかな。
いやだな。
昔、そうやって殺すことを嫌がったから全部失ったはずなんだけどな。
斬撃の嵐が全方位から喰らい付く。
斬撃斬撃斬撃。
バリアがすべてを防ぐ。
「じれったくなってきたな」
「わたしとはなちゃんは友達なの! こんなの友達同士ですることじゃないよ!」
「………………そう」
花弁が視界を巡った後、毒が視界を覆う。
全てを完膚なきまでに防ぐ。
……殺せない。
やっぱり、はなちゃんを殺せない。
誰も守れなくて、殺されて、失敗も後悔もしたのに、未だに、いつまでも、それは変えられなかった。
「ねえ――」
「そんなに仲直りしたいの?」
急にはなちゃんが話に応じた。
「あたりまえだよ」
「じゃあ、はなも長く生きて退屈しすぎてたし、一度友達に戻ってみるのも面白いかもね」
「……ほんとう?」
信じたいと思った。
騙されるとも思った。
異能力者のいうことを信じてはいけない。
はなちゃんのいうことは信じたい。
「ほんとうだよ」
「さっきまで聞いてくれなかったのに……?」
「戦いながらよく考えてみたんだよ。それも一つの楽しい道かもって思っただけだよ」
「そう、なんだ」
「まあ、一つ条件をだすけどね」
「なに?」
「はなと一騎打ちで戦って、はなに一撃でも入れることができたら、友達に戻って楽しく過ごそう。そうしたら誰も殺さないよ」
「その隙にたろーを攻撃しない?」
「しないよ~。信じるか信じないかは奇跡ちゃん次第だけど~」
「…………」
信じたら、また失うかもしれない。
「信じたい」
「なら信じてみればっ」
「でも……」
「はなはどっちでもいいけど。退屈だったのは本当だけどね~」
「…………」
「お兄さんが心配なら、そこからはなを攻撃すればいいんじゃない? できるんならだけどね~」
「………………」
わたしは、目を閉じる。
どうしたらいいのかわからなかった。
昔のことが、自然と思い起こされた。
――わたしたちは、いつも三人でいた。
わたしと。
はなちゃんと。
元気で気の強いみらいちゃんの三人。
みらいちゃんはツインテールをよく跳ねさせて駆けていた。
みらいちゃんは誰かを助けようと、手伝いをよくしていた。
その頃のはなちゃんは、気が弱くて、とても優しい女の子だった。
髪色も黒髪で、おさげだった。
転んだ子の怪我を手当てしたり、他人の不幸を心の底から悲しめる人だった。
わたしは、そんな二人におんぶにだっこで、強さも優しさも二人を真似たものだった。
でも。
ある日、それは起きる。
人類の何割かが異能力者になった日だ。
はなちゃんは、異能力者になった。
わたしとたろーみたいに人間のまま異能力者になった人とは違い、精神まで異能力者になってしまった。
元は優しい子だったはなちゃんが、残虐なナニカになってしまった。自分という異能力者さえ居ればそれでいいと思う精神へと変わり果ててしまったんだ。
その日、大切な友達が大切な友達を目の前で殺した。
はなちゃんが、わたしの目の前でみらいちゃんを切り殺した。
はなちゃんは笑っていた。
みらいちゃんも笑っていた。
はなちゃんに罪悪感を抱かせないために。
わたしだけ、泣いていた。
――目を開ける。
わたしは。
「……」
視線の先には、黒髪のおさげではなく、水色の長髪を垂らしたはなちゃんが佇んでいる。
わたしは、あの日々を、あの日々のはなちゃんを取り戻したい。
友達に戻ってくれるなら、取り戻せる可能性は少しでもあるはず。
なら、はなちゃんを信じてみよう。
……でも、たろーは守る。
わたしが、頑張ればいいだけ。
ここから、この場所からたろーを守りながらはなちゃんに攻撃を当てる。
「決めたよ、はなちゃん」
「うん、どうする?」
「ここから、当てる。わたしの一撃、受けとめて」
「どうぞっ」
集中する。
今まで生きてきた中で、最大の集中をする。
わたしを守るバリアを、はなちゃんを取り戻す意思で以って変質させていく。
一点に集中させていく。
巨大な半透明のランスが形成される。
はなちゃんに狙いを定めて、
突くのでは、届かない。
いつも、攻撃する時でも突きしか使ったことはなかった。
でも、今は、突き以外も出来ると確信した。
巨大なランスを射出する。
音速を越えて半透明ランスははなちゃんへ一直線に飛翔した。
花弁が舞う。
爆発がはなちゃんの前で起きる。
爆発に巻き込まれたランスは勢いを少し弱めた。
でも、少しだけ。
ランスは、はなちゃんを捉えた。
「がっ……!?」
吹き飛んだ。
転がって止まった。
はなちゃんはお腹から血を流して倒れている。
「……やった」
「おみごとだよ、きせきちゃん」
はなちゃんがふらつきながら立ち上がった。
「もう一度だけ、友達になろう」
はなちゃんは笑顔で両腕を開いている。
わたしは、湧き上がる喜びに突き動かされて立ち上がり、はなちゃんの元に向かう。
歩いて、歩いて、走って。
はなちゃんの胸に飛び込んだ。
「よかった。よかったよぉ。友達にまた戻れ――」
はなちゃんは、凶悪に歪んだ顔をしていた。
無数のカラフルな花弁がたろーを匿った地面の上に
瞬時に、一斉に爆発した。
その爆発は、大地を、大気を、わたしの心を、全てを揺るがす。
「なにが、起きたの…………?」
「はなに騙されてたんだよっ。おば~~~~~かさんっ」
「な、なんで……?」
「なんでって?」
「とも、だち……友達に戻るって……たろーを殺さないって……」
「あー、あれ嘘になっちゃったね」
「嘘って…………」
足元が覚束ないまま、たろーがいた場所まで歩く。
クレーターの所々にたろーの破片が散っていた。
肉が、骨が、内臓が。
ただの破片となって散らばりこびり付いている。
「友達に戻ってみてもいいかなって思ったのは本当だよ? でも、危険なお兄さんを殺せるチャンスが来ちゃったからさ。やっぱり危険は排除したいし」
信じられない。
信じたくない。
完全に、不意を打たれた。
条件を出して達成させることで、わたしを信じさせた。
信じたかったのに。
友達でいたかったのに。
結局、そんな都合のいい奇跡なんて起きなかった。
異能力者という人とは違う存在と化しているんだ、話なんて最初から通じない。
わかってた。
わかってた、はずなのに。
わたしはまた、失敗した。
同じ失敗をし続けるんだ。
絶望が浸食して、沈んでいく。
涙なんて枯れたはずなのに、止めどなく流れてくる。
たろーが死んだ。はなちゃんは戻らない。
なにもかも、ない。
「うわああああああああああああああああああああああん」
これまでにおいて、最大の絶望と嘆き。
――――――――――。
思考が停止していく。
心が凍っていく。
たろーが戻って来てから再起した心が、また止まっていく。
なにも感じなくなる中。
ただ、ただ一つだけ、渇望があった。
強い強い渇望が残っていた。
たろーに生きてほしい。
戻って来てほしい。
たろー、たろー、たろー……。
たろーに会いたいよ。
たろーにそばにいてほしいよ。
ただ、それだけだよ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。
奇跡の異能力が発動。
体が在る。傷一つ無い。
俺は自分に行使された異能力について理解した。
異能力の効果か、俺が生存している理由が頭の中に入ってきた。
奇跡の異能力は、自らを絶対防御する力だ。
その概念の範囲内なら、どこまでも解釈し能力が覚醒する可能性が秘められている。
今は、奇跡の心を絶対防御する為に、俺の命は紡がれたんだ。
千年前は起こらなかったくせに、今更、そんな力が覚醒した。
絶望に沈んだ中の渇望により、奇跡の異能力は新たな力を得た。
その代わり、俺は大半虚構の存在となっているが。
肉片に一剣太郎の要素が異能力で与えられただけの命。
最早
記憶は繋がっていて、俺は一剣太郎だと断言出来るが、それだけだ。
今の俺は、奇跡が居なければ命を保てない存在だから。
それでも。
奇跡の為に動く事は出来る。
「【異能外装】」
手にした刀を腹に突き刺す。
刺した部分を起点として白い光と衝撃波が同時に発生する。
純白の全身鎧へと変身した。
「何で生きてるのっ!??」
碧花が目を見開いてこちらを見ていた。
「奇跡が望んだからだよ」
「あ、ごめん……殺さないで……きせきちゃん、やっぱり友達に戻ろっ」
碧花が
「殺す」
光速を越えて跳んだ。
碧花に肉薄していく。
二つの手には銀と純白の二刀を握る。
「ひっ、死んで!」
カラフルな花弁が俺の周囲を覆った。
俺は全身から純白の刃を生やす。
花弁が一斉に大爆発を引き起こした。
俺は宙で飛びながら回転した。
二本の刀と全身の刃が花弁と爆発を切り裂いていく。
爆風と爆煙を抜けて、碧花に肉薄した。
「きせきちゃん助けて! 友達だから!」
「わ、わたしは……」
必死に助かろうとする碧花。奇跡は酷く悲しそうな表情をして迷う。
また、騙される道を自ら選んでしまう。
奇跡はとても優しい子だから。
どが付くほどのお人好しだから。
名前通り、"奇跡"を信じたいと思ってしまう子だから。
碧花。
もう、いなくなってくれ。
これ以上、奇跡を悲しませないでくれ。
碧花という少女は千年前に死んだ。
今
生かしておいても、奇跡を騙し続ける。
人であった頃の碧花も、そんな姿奇跡に見せたくないだろう。
だから、確実に殺す。
純白の刀を振り上げた。
「ひっ」
一閃する。
碧花の首は飛んでいった。
俺は奇跡の友達を殺した。
碧花の死体を見せないように奇跡を抱きしめる。
すぐに強くしがみついてきた。
「たろー……! たろー……!」
「俺がいるから大丈夫だ」
「たろーぉぉ……」
奇跡は、しばらく泣いた。
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