怠惰な賢者は『労働』から逃げれない!
葉劉ジン
第一章
弟子曰く、師匠が働くのは当たり前らしい――①
シャーっと、カーテンの開く音がする。うっ、朝日が眩しい。毛布の中に入ろう。
「リオさん、リオさん! もう朝ですよ、早く起きてください!」
「んん……」
誰かが毛布の中で丸まっていた俺の身体を揺らしてくる。この声は、可愛い我が弟子のサラだろう。
しかし、身体の揺らし方が優しすぎるな。これでは、むしろ心地が良すぎて起きる気が湧いてこない。てか眠くなる。
だから、すまないな。俺を起こしに来てもらって悪いんだが、あと十分……いや、あと半日ほどは寝かせて欲しい。
そんなことを眠くて働かない頭の中で考えながら、俺は二度寝へと静かに移行しようとする。だが、そこでギリギリ聞こえる位の声音でサラが言う。
「実は先日なのですが、暴漢に襲われまして……」
「ア''? どこの誰だ。ぶっ殺してやる」
眠気など一瞬で吹き飛び、跳ねるように起き上がる。
俺の可愛い弟子を襲っただと? それは万死……いや、兆死に値する。今すぐにでも探し出して、俺の手で塵へと還してやらねば!
怒りに任せて窓から飛び出しかけると、ベッドの横に立つ銀髪赤眼の美少女――サラが吹き出すようにクスクスと笑う。
「……おい、まさか」
「おはようございます、リオさん。もちろん、さっきのは嘘ですよ?」
「おはよう、サラ。嘘とはいえ、心臓に悪いから二度としないでくれないか……」
「ええ、分かりました♪」
返事を返すサラは、イタズラが成功した子供のような笑みを浮かべる。
まったく、本当に分かってるんだか……まあ、朝からサラの笑顔が見れたので許そう。師匠というのは、弟子にはとても弱いのだから。
我ながら甘すぎる気もするがな、と苦笑していれば、いつの間にか扉の前にいたサラが言う。
「それでは、リオさんも起こしたので朝食の準備をしてきますね。あ、二度寝は駄目ですからね?」
「ああ、顔洗ったらすぐ行くよ」
「承知しました。では失礼します」
サラは見とれるほど綺麗な一礼をすると、静かに部屋から立ち去っていった。やっぱり、うちの弟子はその辺のメイドよりも優秀だと思う。
そんな弟子バカを発揮しつつ、部屋の中央へ移動。
「んー」
俺は大きく身体を伸ばすと、素早く魔法陣を描いて魔力を流す。そうすれば、目の前に自分の顔より少し大きいぐらいの綺麗な水の球が作られる。そこで、俺は顔を洗って残りの眠気を飛ばす。
スッキリしたら着替えを手早く済ませてしまい、自室からリビングへ。中に入ると、すでにテーブルの上には二人分の朝食が用意されていた。
さっき俺の部屋から出ていったばかりなんだが、もう食卓な並んでいるとか……どんだけ早起きして準備してたんだ? まだ日が昇ったばっかなのだけど?
……料理どころか、早起きできない俺が言えたことじゃないけどな。うん、早起きぐらいは頑張ろう。来週から!
何だか駄目そうな気のする決意をしつつ、朝食を準備し終えたサラへと声をかける。
「おまたせ、サラ。いつも悪いな」
「あっ、リオさん!いえいえ、好きでしてるんですから気にしないでください。さ、それよりも冷めてしまう前に召し上がってくださいませ」
「分かった、分かった。なら、サラも早く座れ」
「はい!」
目の前の席にサラが座ったのを確認すると、俺も着席して、二人同時に目を
サラとの生活を始めてからしている習慣。この世界の神様と食材に感謝を
ま、俺は死ぬほど嫌いな駄神共へ感謝するつもりはないので、サラに対してすることにしてるが。
なんて考えている間に、サラが祈りを終えたので食べ始める。
「うむ、今日もサラの料理は絶品だな! 超一流の料理人と比べても
「フフッ、
「ふぐはッ!? か、可愛い……」
「え、はい? 何か言いましたか?」
「いや、何も言ってないぞ。うん、何も言ってない。だから気にしなくていい」
「そ、そうですか?」
危ない。思わず心の声が漏れてしまった。
それにしても、嬉しそうな笑顔は可愛すぎるな。あと少し回復魔法をかけるのが遅れたら、俺の心臓が破裂して死ぬところだった。サラの笑顔は即死級の魔法と同等の威力でもあるんじゃないか?
そんな弟子馬鹿思考のあったやり取りから数十分後――。
俺とサラは朝食を終えて、のんびりとコーヒーを飲んで談笑していたら「配達で〜す!」という声。
「はーい、今行きまーす!」
サラはそれにすぐ返事をして玄関に向かう。そして、間もない内に一通の手紙を受け取って戻ってきた。サラが手紙の宛名を確認。
「どうやら、リオさん宛への手紙みたいですね」
「へえ?俺に、とは珍しいな。どこの誰様からのなんだ?」
「えっと、差出人はですね……冒険者ギルドのゴーウィンさんからのようですよ」
俺はその名前を聞いた瞬間に、それはもう分かりやすく嫌な顔をしたと思う。
うわぁ、マジかよ。アイツからかよ……。
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