海と風の王国 エピローグ

「わぁ! これがショウ王なのですね」




 5歳になって離宮に移ったばかりの小さな王子が、守役の侍従を伴って偉大なショウ王の肖像画を見上げている。肩に見事な白い鷹を止まらせ、騎竜に寄りかかっているショウ王は、若く綺麗な顔をしているとサリームは感嘆する。




 偉大な王だったショウ王は、肖像画を描かすのを嫌い数枚しか残されていない。王宮と離宮に一枚ずつしか残っていないのだ。




 東南諸島連合王国で初代のイズマル王と共に神格化されているショウ王の名前は、国民の誰もが知っているし、不敬にあたるので名前を子どもにつけるのも暗黙に禁止されている。




 ぽかんと眺めているサリーム王子に、侍従は微笑む。大人しく覇気のないサリーム王子に自信をつけて欲しい。




「そうですよ、サリーム王子。東南諸島連合王国を発展させたショウ王のように立派にならなくてはね」




 小さなサリームは、大きな溜め息をついた。




「僕なんて、第六王子だし……」




 侍従は、上の王子達に味噌っかす扱いされているサリーム王子を叱咤激励する。




「何を仰るのです! ショウ王も第六王子だったのですよ」




 励ましてくれる侍従に、サリーム王子は反論する。




「でも、ゴルチェ大陸への新航路を発見したり、イズマル島も発見したんだよね。僕にはそんなことできないし……機械いじりしか興味も無いんだよ!」




 侍従は、東南諸島の王子なのに、船にも武術にも興味を示さないサリーム王子をどうにか励まそうと、ショウ王の偉業をあれこれ思い出す。




「そうだ! ショウ王はレイテに電灯を普及させましたよ。夜も明るくすごせるのは、リヒテンシュタイン教授の発明のお蔭ですが、それを理解して推し進めたのはショウ王なのです」




 サリーム王子は、電気や機械いじりでなら、何か役に立てるかもと元気をだす。




「僕にもできることがあるかもね! 曾祖父様みたいに、電気でレイテを照らすような発明をしたいな!」




 パッと顔を輝かしたサリームだったが、苦手な兄上の姿を見て、侍従の後ろに隠れる。




「おい! チビスケ、何をしている! お前みたいな子孫なんか見たくないと曾祖父様も嘆かれているぞ!」




 第四王子のハッサンは、機械いじりしか能の無いサリームが腹立たしい。王族として、国民の見本になるべきだと考えている。




「お前の名前は、チビスケには勿体ない! レイテ大学の初代学長の名前を汚すなよ!」




 侍従は、ウッと涙ぐむサリーム王子を後ろに庇うが、王子に反論はできない。




「ハッサン! 何を騒いでいる。弟を虐めるのは止めろ! お前こそ、ゴルチェ大陸の発展に尽くしたハッサン行政長官の名前を汚しているぞ。弱いものを虐めるのは、ショウ王が一番嫌われたことだと歴史でも習っただろう」




 東南諸島連合王国の士官候補生の服を着た第二王子のカリンが、弟を諌める。ショウ王の兄であり、軍務大臣として海賊討伐に尽くした偉大な軍人の名前を貰ったのだ。




「そろそろ、父上がお帰りになるぞ!」




 偉大な高祖父の名前を貰った第一王子のアスランが、早く出迎えに行こうと弟たちを呼びにきた。第三王子のナッシュや第五王子のラジック王子も竜に乗って待機している。偉大な曾祖父の兄弟のイズマル島の初代行政長官の名前をそれぞれ貰ったのだ。




「ほら! チビスケ、私の竜にのれ!」




 アスラン王子の騎竜に乗せて貰いながら、サリームは自分にはまだパートナーの竜もいないのが悔しくて涙ぐむ。




「父上! お帰りなさい!」




 王子達が勢揃いで出迎えに来たので、スレイマン王が笑って手を振った。イズマル島の視察から半年ぶりに帰ってきたのだ。 




 東南諸島連合王国の首都レイテには、香辛料の香りが充ち、空には竜が舞い飛ぶ。そして、港には百を超える船が世界の海を貿易で支配しようと待機している。




 発展目覚ましいイズマル島と首都レイテを半年ごとに行き来しているスレイマン王は、帰還を祝ぎ、酒を海と空に撒いた。




「海の女神、風の神よ! 我が王国を護りたまえ!」




 






 兄上達が父上に挨拶するのを、後ろで見ている小さなサリーム王子が、とうもろこしから燃料を作り出し、機関車や大型輸送船を発明して、東南諸島連合王国を世界の第一大国に押し上げるのだが……




 それは、また別のお話……






 


              完


 

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