第27話 落日

 丘の上のテラスでサンズに寄り掛かっていたショウに、風が海の香りを届ける。




……何度、航海したことだろう……




 大きく息を吸い込むと、ショウは目を瞑る。




 王として東南諸島連合王国を導いていった日々が、走馬灯のように瞼に浮かぶ。




……あれで良かったのだろうか?……




 ショウが一番心を悩ませたのは、娘達の政略結婚だ。しかし、心配は無用だったと微笑む。王家の女達は可愛い顔をした肉食獣だ。嫁いだ国で、それぞれの王子の心をつかんで、幸せに暮らしている。




 数々の難関を乗り越えて、カイトに譲位した安堵感を思い出し、深い大きな溜め息をついた。




……リリィ、最後まで迷惑をかけたね……




 第二夫人のララが亡くなった時、ショウはサンズだけを伴にしてサンズ島に移住したのだ。




 他の妻達は、サンズ島に連れて行って下さいと懇願したが、ショウは最後の我儘を貫いた。第一夫人のリリィは、妻達の嘆きを宥め、財産の管理をしてくれている。




 ロジーナは、カイト王の母親として孫の王子や王女に囲まれて忙しい日々を送っているし、ミミやミーシャは息子の屋敷で孫達に囲まれて幸せに暮らしている。




 レティシィア、メリッサ、そしてレイテ大学で学んだファンナ、シルビアは、それぞれの人生のパートナーを見つけて、第一夫人としての道を歩んだ。エスメラルダは子供達が成長するのを待って、レイテ大学で学びなおし、メッシーナ村の発展に尽くしている。






……ララ、待っていてくれるかい?……




 頬を照らす暖かさに、ショウは最後の力を振り絞って目を開ける。オレンジ色の夕日が金色の海に沈んでいく。




「綺麗だ……」




 壮絶なほど美しい落日を目に焼き付けて、ショウは二度と目を開けることはなかった。




 ずっと一緒に過ごしたサンズと、お別れの時がきたようだ。




『ねぇ、サンズ……楽しかったね……』




 子竜のサンズと初めて空を飛んだ日が鮮やかに甦る。




『ショウ! 楽しかったよ……』








 サンズ島の沈む夕日に照らされて、ショウは栄光に満ちた生涯を終えた。




 騎竜のサンズは、満足そうに大きな息を吐くと、光に溶けていった。












 旧帝国三国と、スーラ王国と同盟を結んだショウ王は、貿易で東南諸島連合王国を豊かに繁栄させた。




 ファミニーナ島にダムと発電所を建設し、電灯で夜を明るく照らした発明王としても名を残した。




 しかし、ショウ王の一番の功績は、イズマル島とゴルチェ大陸を発展させた事だと歴史家は高く評価する。




 東南諸島連合王国の歴史に輝く偉大な王として、ショウ王は国民の心に残った。










 ショウ王の後を継いだカイト王は、偉大な父王の影に隠れた存在として評されたが、安定した治世をし、父王の事業を受け継ぎ、東南諸島連合王国を発展させた。カイト王は、後継者問題を起こすことなく優れた第一王子のスレイマンに譲位した。






 イズマル島出身の妃が産んだスレイマン王は、アスラン王、ショウ王と並び称される偉大な王になるのだった。

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