第12話 エスメラルダの出産!

 ショウは、王太子の執務室で真剣に悩んでいた。その様子を見た側近のバルディシュは、何かできないかとピップスの不在が心細く感じる。




「エスメラルダの赤ちゃんの名前はピップスに持って行って貰ったけど……あれで良かったのかな?」




 側近のバルディシュが悩みの中身を知ったら、脱力して床に倒れこみそうだが、ショウは産まれてくる赤ちゃんの名前を考えるのに四苦八苦している。エスメラルダのキャベツ畑の呪いで、レティシィアとララも妊娠したし、メリッサも新婚旅行で妊娠した。つまり、もうすぐ四人の赤ちゃんが産まれてくるのだ。




「キャベツ畑の呪いは……何人もと月夜の晩にキャベツをとりに行ったりするのは気まずいし、出産ラッシュになるのが困る」




 深い溜め息をつくが、ロジーナが産んだカイト王子しか後継者候補がいないのは問題だと、重臣達から圧力を受けているのだ。




「他の国は一人王子が産まれたら、それで良いのになぁ!」




 つくづく一夫多妻制は大変だと愚痴るが、名前ぐらいは考えて下さいと要求されているのだ。ショウは、机の上の紙に名前を思いつくまま書きなぐる。




「エスメラルダには竜の文字がついた名前を渡したんだ。女の子の場合は、サーシャと書いたけど……」




 何故か、リュウ王子としか思い浮かばなかったのは、魔力のせいなのか、それとも何人かの候補者が欲しいと願っているからなのか、ショウは思い悩む。ロジーナの産んだカイトは、風の魔力持ちだし、どうやら竜騎士の素質にも恵まれている。まだ幼い赤ちゃんなので、性格や王となる資質があるかはわからないが、北の旧帝国三国なら、カイトが後継者になるのだろう。




「父上は何故私を後継者にされたのだろう? 私なら第一王子のサリーム兄上を指名したと思うけど……でも、そうなったら、カリン兄上やハッサン兄上は反発したのかも」




 遠いメッシーナ村で初めての出産に臨むエスメラルダの側に居てやりたいが、此方にも三人も妊婦がいるのだ。エスメラルダの母親は治療師として優れているし、任せても安心だと自分の不安を宥める。




「父上は……何処にいるのかな? まさか、孫が産まれるのに立ち会うとかは無いだろうけど……」




 バーンと扉が開けられた。




「誰が孫の出産に立ち会うか!」




 傲慢そのものの父王の帰還に、ショウはいったい何処に行っていたのかと質問するが、煩そうにちゃいちゃいと手を振って黙らされる。




「エスメラルダは無事に王子を産んだぞ! なんだ? リュウ王子だなんて、母親が竜騎士だからなのか? もう少し考えた名前にしろ」




 無事に産まれた! と喜んでいるショウに肩を竦めると、ミヤにお茶をいれて貰おうと出ていった。ハァハァと、入れ替わりにピップスが荒い息で執務室に入ってきた。ショウは報告が遅れたのを詫びるピップスを制した。どうせ、父上はピップスにメリルの世話も押し付けたに違いないからだ。








「まぁ、いったい何処にいらっしゃっていたのですか?」




 フラナガン相談役から居場所を聞かれたミヤは、女官達に何か問題が起こっているのか調べさせていた。マルタ公国やサラム王国にいるのでは? と少し心配していたのだ。




「また、ショウに王子が産まれたぞ」




 美味しそうにお茶を飲みながら、アスランは眉を少し顰めた。




「何か問題でも?」とミヤは心配する。




「アイツのネーミングセンスは最悪だな。カイトはまだしも、今度はリュウだぞ。まぁ、色々と意味を籠めているみたいだが、王子の名前なのに軽すぎないか?」




 ショウも王子の名前にしては軽いとミヤは文句を言いたくなったが、ハッと口ごもる。




「リュウも風の魔力持ちなのですね」




 将来、東南諸島の王になるかもしれない王子が、聞き慣れないリュウと言う名前なのを気にしているのだとミヤは察した。




「まぁ、後継者はアイツが悩んで決めることさ! もう1杯お茶をくれ」




 ミヤもショウと第一夫人のリリィが考えて選ぶことだと、微笑んでお茶をいれてやる。ここまでは、円熟した夫婦らしいやり取りだったのだが、ミヤはエリカ王女の社交界デビューのパーティに出席するようにと説得しはじめた。




「何故、私がそんなパーティなどに出なくてはいけないのだ? ヌートン大使とシーガルに任せておけば良い。それよりお前の息子は、チビ鼠を止めるどころか一緒になってクーデターを起こしたぞ」




 都合が悪くなったから、息子のアシェンドを持ち出したのに、ミヤは呆れかえる。




「あの子は、とっくに成人しています。それに、ヘルツ国王の無能な政策とそれに輪をかけた馬鹿なピョートル王太子に国民が我慢ができなくなったのでしょう」




 ツンケンと怒りだしたミヤに、アスランは笑った。孫娘のララが王子を産みたいと願っている件で、ミヤが心を痛めているのを知っているからだ。エスメラルダが王子を産んだと聞いたら、焦るのではないかと心配してレイテに帰ってきたが、こんなに元気なら大丈夫だろうと席を立った。




「何処にいらっしゃるのですか?」




 社交界デビューのパーティは諦めるにしても、結婚式はエスコートして欲しいと、ミヤは引き留める。




「メリルの世話をピップスに任せたから、少し見に行ってくる」




「本当に竜には優しいのだから……」その半分でも子ども達に向けて欲しいと、ミヤは溜め息をついた。




「でも、帰国されたのは、ショウの妻達が出産ラッシュを迎えるからかしら? ショウは仕事が手につかないでしょうしね」




 少しは親として成長したのかしら? とミヤは喜んだ。


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