第2話 皆、ちょっと待って!

 久しぶりに訪れたメッシーナ村が、目覚ましい変化をとげているのに、ショウは驚き喜んだ。




「子どもがいっぱいだねぇ!」




 巨大なサンズやルカを怖がりもしないで、乗せて! と走り寄ってくる子ども達をエスメラルダは手慣れた様子でさばいていく。




「ジェレミー! レスリー! この子達を竜に乗せてあげて」




 ウォンビン島から移住してきた青年とメッシーナ村の娘の若いカップルは、自分達の赤ちゃんを親に預けて、子ども達を竜に乗せて飛び立った。




「竜が足りないみたいだねぇ」




 ウォンビン島の住人や、メッシーナ村の住人には竜騎士の素質を持つ人が多いのに、絆を結ぶ素質がある者しか竜騎士になれない現状をどうにかしなければとショウも考える。




「メッシーナ村では、前から竜を皆で共有していたから……でも、子ども達の中には絆の竜騎士になれそうな子も多いの」




 ルカが子竜を持ちたがっているのを、エスメラルダは叶えてやりたいと思っていたが、その前に自分がショウ様と結婚しないと駄目なのだと頬を染める。ショウも頬を染めたエスメラルダと同じことを考えていたので、コホンと咳払いして、気恥ずかしい話題から逸らして、両親への挨拶へ向かった。










 結婚式の準備の為に、メッシーナ村の女の人達が集まって忙がしくしていた。小さな可愛い女の子が、肩まで伸ばした茶色い髪をたなびかせて、集会場から駆け出してきた。




「お姉ちゃん!」




 年の離れた妹のアレキサンドラを、エスメラルダは抱き上げて愛しそうに頬にキスをする。




「ショウ王太子、ようこそおいで下さいました」




 メッシーナ村の村長になったヘインズが、妻と一緒に出迎えに出てきた。




「モリーが子竜を産んだと聞きました。見てもいいですか?」




 ヘインズは挨拶が済むと、モリーと子竜に会いたいと言い出したショウを、竜バカですなぁと笑ったが、自身も子竜にメロメロなので上機嫌で案内をする。




「この子竜はメリルの?」




 バッカス外務大臣のマリオンは、ここしばらくレイテを留守にしていないのだから、ちょくちょくイズマル島を訪れていた父上のメリルが交尾相手だろうと、ショウはまだまだ現役なんだと少し呆れる。




「ええ、ルカを産んでから、かなり間があきましたが、モリーに2頭目の子竜を持たせてやれて良かったです。ケイラと名づけたのですよ、ペリーにも子竜を持たせてやりたいのですが……」




 ショウはサンズも子竜を持ちたいと、張り切っているので困ってしまう。




「今も竜騎士の素質がある子が多いので、竜が不足しそうだと、エスメと話していたのです。レイテに竜騎士の学校を開設しようと計画してますが、その前に竜を増やさないといけませんね」




 エスメラルダとの結婚の為に訪れたショウ王太子と、ヘインズが部屋で効率的に竜を増やす計画を話していると、妹の結婚式の為に帰ってきたパトリック迄加わってああだこうだと大激論になる。




「竜の話ばかりだわ! エスメ、貴女の結婚式の準備は、あの人達抜きで進めなきゃいけないわ」




 そう言ったものの、花嫁も竜バカなので、ルカにも子竜を持たせてやりたいと、部屋の中の話に気もそぞろな様子で、母親は仕方ないと肩を竦めて、女の人達と準備に取り掛かる。








「竜の血統は卵を産んだ方のみを重視しますが、それでも同じ組み合わせは避けたいですねぇ。特に、メリルとスローンは親子ですし……」




 広間では女の人達が結婚式の準備に忙がしくしているが、ショウはヘインズとパトリックと簡単な血統書を書いて、相談の真っ最中だ。




「メッシーナ村の竜同士は避けたいです。これまで、かなり近親交尾を繰り返していますから」




 ヘインズの騎竜モリーが、アスランの騎竜メリルと作ったケイラは、今までのメッシーナ村の竜より大きくなりそうだと皆が頷く。




「東南諸島の竜もメッシーナ村程ではありませんが、近親交尾を繰り返しています。私は出来るだけ新しい血を入れたいですね」




 此処までは誰もが納得するのだが、それぞれの騎竜から子竜を産みたいとのプレッシャーを受けているので、どの竜から卵を持たせるかで微妙に意見が食い違う。




「私のは未だ子竜を持っていませんから、優先して欲しいですね」




 穏やかな性格のパトリックだが、かなり強気の発言をしたのは、きっと騎竜のペリーの影響を受けているのだろうと、ショウとヘインズは感じる。




「サンズはこの前は交尾の協力だったし、イルバニア王国の騎竜達からも求婚されていますし……ルカにも協力するので」




 父親と叔父の前で、少し口にしにくかったが、女性の絆の竜騎士の場合は、どうしても相手を限定してしまう。




「ルカだけでなく、ラルフも子竜を欲しがるでしょう」




 舅になるヘインズは、さらりとミミとの結婚が控えているのを仄めかしたが、ショウは心臓がドッキンとした。パトリックは、そんな事情よりも、自分の騎竜ペリーからの強い欲求に応えてやりたいと、主張を繰り返そうとした。








『皆、ちょっと待ってよ!』




 結婚式が行われる集会場の外で、サンズとペリーとモリーとルカが絆の竜騎士に任せておけないと、竜同士で話をつけた。




『今回は、ペリーとサンズに子竜を持たせることにした。先ずは、ペリーにサンズが協力して、その後にサンズに私が協力する』




 まだ子竜のケイラは幼いのに大丈夫か? とヘインズは騎竜のモリーに尋ねたが、大丈夫と大きく頷く。




『ルカはもう少し落ち着いてから、子竜を持つことにしたよ』




 子竜が持てることになって嬉しそうなサンズにとっては都合は良いけど、ルカがガッカリしているのではとショウは心配する。




『ルカ、それで良いの?』




 親竜のモリーに言い含められたルカは、仕方ないと諦めようとはしていたが、本当は納得していなかった。




『サンズや、ペリーの絆の竜騎士は男だから、誰とでも交尾飛行できるけど……私はサンズとしかできないし……』




 母親と結婚式の準備をしていたエスメラルダは、騎竜の嘆きを聞いて駆けつけた。




『ルカ! ごめんね』




 女性の絆の竜騎士とその騎竜の複雑な立場を、もっと考慮してあげるべきだと反省する。




『大丈夫だよ! スローンとも交尾飛行したら良いんだ!』




 サンズの提案で、ショウは目から鱗が落ちた気持ちになった。




『そうか、女性の絆の竜騎士は配偶者の騎竜としか、交尾飛行できないと思い込んでいたけど、女性同士なら……』




 その場合、妻同士は避けた方が良いと、あらぬ想像をしてしまったショウだった。しかし、妹のパメラがシーガルに嫁いだ時にスローンはどうしたら良いものかと悩んでいたので、良い解決策を思いついた。


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