第15話 レティシィアへの頼み

 ショウはメーリングからカドフェル号で帰国することにしたので、任官したばかりのバッカス外務大臣は、マリオンと先に帰った。


 ララに、どうミーシャとの婚約を伝えようかと悩んだショウは、カドフェル号で航海しながら気持ちを整理したいと思ったのだ。


「新婚旅行、ロジーナもしたがるだろうなぁ。ララはその間は留守番になるし……だから、本当はさっさと帰国して、ララとの時間を持つべきなんだけど……」


 サンズで帰れば、ララとの時間を持てるが、気持ちが整理できてないので時間を稼ぐことにしたのだが、全くどうすれば良いのか悩む。


「だから、一夫多妻制なんて嫌だったんだよ!」


 あちらを立てれば、こちらが立たずの思考の袋小路に落ち込んだショウは、誰かのアドバイスが欲しいなぁとチラリと見回す。


 妻帯者のワンダーに二人目の夫人を娶った時、どう対処したのか尋ねたいと思ったが、副官が昇格して小型艦の艦長になったので、順送りで古参士官になり、忙しく指示を出している姿を見て、無理そうだと溜め息をつく。


 探索航海に参加したカドフェル号には報奨金だけでなく、昇進も大盤振る舞いだったので、バージョンも帰国したら士官昇進試験を受けられると嬉しそうに告げたし、ピップスもかなり昇進ポイントを稼いだ。


 ショウは、ルルブも士官候補生の試験を受けさせなきゃと、目の前の問題から逃避する。


「それに竜騎士の育成システムを作らないといけないな。ルルブの弟達にも竜騎士の素質はあったし、ウォンビン島やイズマル島には他にもいるかもしれない」


 ショウは、暫しリューデンハイムや、ウェスティンの竜騎士学校を思い浮かべて現実逃避をはかる。


『ショウ……レッサに尋ねたら?』


 サンズも東南諸島に竜騎士が増えるのは嬉しいし、育成システムができるのも歓迎だが、ショウの気持ちが伝わっているので、問題を先送りにしても無駄だと忠告する。

 

『レッサ艦長に? そりゃあ艦長も何人か夫人がいるだろうけど……こういうことは同じ世代の人の方が聞きやすいよ。それに、レッサ艦長が結婚した頃とは、時代が変わってるし……』


 サンズには人間の結婚制度はあまり理解できなかったし、年上だから質問できるのではないかと首を傾げた。


『あっ、そうだ! シリンもピップスも士官になったら、一度里帰りしたら良いんじゃないかな』


 サンズの横にいるシリンも、懐かしいゴルザ村に里帰りは嬉しいが、今はそんなことを考えている場合ではないのではと、羽根をクイッと寄せて人間の肩を竦めるポーズをとった。 


「これではカリン兄上と同じだ……第一夫人が必要なんだ!」


 竜でならひとっ飛びなのに、カドフェル号を選んだのは、気持ちの整理だとか、ロジーナとの新婚旅行を考えるとか、色々と自分を誤魔化したけど、ララに何とミーシャの件を話したら良いのか解らず帰宅拒否をしていたのだとショウは愕然とする。


「レッサ艦長! サンズとレイテまで先に帰ります!」


 ここからならレイテまで休憩を一度すれば帰れると、ショウはサンズに鞍をつける。


「ピップス! お前はショウ王太子のお供をしなさい」


 レッサ艦長は東南諸島の領海に入ってはいるが、王太子を一人で行かせるのに抵抗を感じた。ショウは大丈夫なのにと不満に思ったが、レッサ艦長と言い争いをしたくないので、ピップスの同行を受け入れた。


「ピップス! 少し航路からは外れるけど、祖父のマリオ島に寄って行きたいんだ」


 カドフェル号を飛び立った二頭の竜は、小さな離島を目指した。


「あれがマリオ島だよ~」


 ピップスは周りに島影が見えない孤島のマリオ島に、ショウ王太子が祖父に会うためにわざわざ遠回りしたのかと不思議に思った。エメラルドグリーンの海に白い砂浜がぐるりと取り囲むマリオ島は、色々な島を航海で見慣れたピップスの目にも美しく写った。


「綺麗な島ですね~」


「そうだろう~! 私は大人になったら、この島でのんびりと魚を捕って暮らしたかったんだ」


 ピップスは忙しいショウがのんびりと魚を捕って暮らす生活に憧れるのはわかるが、アスラン王の王子として産まれた時点で無理なのではと思った。


 ショウの祖父は潮焼けした顔を綻ばせて、取れたての魚や芋の焼いた料理でもてなしてくれた。


「お祖父ちゃん、一週間ほど泊まれる家がないかな? ちょっと新婚旅行をやり直したいんだ」


 祖父は空き家に手を入れておくと約束してくれた。


「明後日までにできるかな?」


「えらい急ぐんだなぁ。まぁ、島の男達に手伝って貰えばできるだろう」


 元々、簡単な造りなので、屋根をバナナの新しい葉っぱで拭き直したり、床を磨いたりするだけだと笑って引き受ける。ショウはお金を少し置いて行こうとしたが、きっぱりと祖父に断られた。


「この島じゃあ、お互いに助け合うのに、お金なんか払わない。お前が来る時に、美味しい酒でも持ってくれば良いさ」


 ショウはレイテの常識を持ち込もうとした自分を恥じて、そうするよ! と祖父にお酒を持ってくる約束をして飛び立った。


 新婚旅行の途中で切り上げたララと、祖父のマリオ島でのんびりと過ごしながら、色々と話し合おうとショウは考えたのだ。


「後は、どうやって抜け出すかだよ……」


 先に帰国したバッカス外務大臣から、父上やフラナガン宰相はヘッジ王国のルートス国王がダカット金貨改鋳国債の発行人を引き受けたことの報告は受けているだろう。


 ショウは父上の真似をすることにする。


「ちんたらしてたら、一生抜け出せないよ~でも、レティシィアには話して行こう! 前はミヤに行き先を教えて行ったら、父上にバラしちゃったもの。まぁ、確かに急な用事だったけど、ミヤは父上の第一夫人なんだ。第一夫人を見つけるまで、レティシィアに代わりを勤めて貰おう!」


 麗しいレティシィアだが、内面は第一夫人を目指すだけあってサッパリしている。嫉妬とかもするだろうけど、レティシィアなら理性的な判断を優先するから信頼できるとショウは考えた。

 

 ファミニーナ島の一つ手前の島に降りて、ショウはピップスに命令書を書いてレッサ艦長に渡すようにとカドフェル号に帰らせた。


「途中のルミナス島で一泊して来るようにと書いたから、カドフェル号がレイテに寄港するのは五日後になる。カドフェル号は探索航海に参加したし、ルミナス島は娯楽施設も多いから乗組員達にもご褒美になるさ。それに、朝乗り遅れる乗組員が出たら、六日後になるかも」


 ショウは後は離宮にどうやって気付かれずに帰って、上手くララを連れ出してマリオ島に行くか作戦を練る。


『サンズ、レイテ港からではなく、王宮の裏の海岸からこっそりと行けないかな? あと、メリルやスローンにも内緒にしたいから、挨拶しないで欲しいんだ。ララと新婚旅行をやり直したいけど、父上にバレたら困るからね』


 サンズは親竜のメリルと弟竜スローンが大好きだけど、ショウがララと二人でマリオ島に行きたいなら協力しようと頷く。夕闇に紛れてサンズと裏手の海岸に舞い降りたショウは、敬礼する警備の兵にシーッと口止めして離宮に忍び込む。


「レティシィア! 元気にしていたかい? お腹が大きくなったねぇ」


 そっと部屋に入って来たショウにレティシィアは驚いたが、微笑んで出迎えた。


「ショウ様、今日お帰りだとは知りませんでしたわ」


 ショウはレティシィアを抱き寄せて、膨らんだお腹をそっと撫でた。


「えっ! ピクリとしたよ」


 二人でお腹の中の赤ちゃんの動きをそっと撫でて、新しい命の不思議に感動する。


「ショウ様、お風呂や、お食事はお済みですか?」


 ショウは帰国されたばかりなのに気がききませんでしたと、女官を呼ぼうとするレティシィアを制した。


「ご飯は食べたよ、それよりレティシィアに頼みがあるんだ。ララをこの部屋に呼び出してくれないかな?」


 ショウはレティシィアにロジーナと結婚する前に、ララとゆっくりと過ごして話し合いたいのだと頼んだ。


「まぁ、ショウ様ってロマンチストね。よろしくてよ! 協力してあげますわ」


 ララを部屋に招待する手紙を女官に持たせると、レティシィアはララの着替えや化粧品などをコンパクトに纏めた。


「音楽の夕べだなんて、素敵ですわ……ショウ様! 何故、ここに?」


 ララは留守だと思っていたショウが、レティシィアの部屋に居るのに驚いたが、寛いだ雰囲気にハッと真っ赤になって身を翻そうとした。


「ララ! 誤解しないで! レティシィアに君を呼び出して貰ったんだ。新婚旅行のやり直しをしよう!」


 ショウに抱き止められて、ララはポッと頬を染める。


「でも……良いのかしら?」


 妊娠中のレティシィアを一人にして、ショウと新婚旅行に行くのを躊躇う。


「ララ様、行ってらっしゃい。こんな好機は滅多にありませんわよ。私はこんなお腹ですし、真珠の稚貝を筏で生育させなくてはいけませんもの。ショウ様、屋敷には行きませんから、真珠の養殖を続けても宜しいでしょう?」


 ショウは身体が疲れない程度にするようにと注意して、気づかれないうちにとララと海岸に急いだ。


 レティシィアは手に手を取って走り去る二人を見送ると、ピクリと動くお腹の赤ちゃんを撫でながら、音楽の夕べに相応しい優しい胎教に良さそうな曲を奏でた。


「なるべくララ様の不在が知られないようにしてあげましょう。まぁ、ミヤ様はララ様のお祖母様だから、アスラン王には自らは仰らないでしょうし……」


 レティシィアはショウが自分を信用して、ララとの新婚旅行のやり直しの計画を手伝わしたのだと考えて、仄かに感じた嫉妬を抑え込んだ。

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