第14話 接待、話し合い、接待!!
ショウは自分の成人式なのだから仕方ないと、腹は括ってはいたが、招待客への挨拶や、話し合いで、ヘトヘトだ。逃げ出した父上を心の中で罵りながら、フラナガン宰相仕込みの笑顔でこなしていく。
特に、マルタ公国のジャリース公との話し合いでは、顔から笑顔を絶やさないように気をつけすぎて、終わったあとで引きつってしまいそうだと顔を指でほぐした。
マルタ公国はイルバニア王国の大使館も再開して、国交断絶状態では無くなったので、その件で仲介役を果たしてくれたショウに御礼を言った。
しかし、帰り際にショウの側に寄って、ジャスミン姫にお会いしたいのだがと、頬をポッと染めて頼み込む。ショウは全身に鳥肌がたった。
「ジャスミン姫は、私の甥と結婚してます」
ショウの笑顔の仮面にヒビが入ったので、フラナガン宰相が救いの手を差し伸べる。東南諸島は離婚も自由な筈だがと、ジャリース公は内心で愚痴る。
「父上がジャリース公と是非ともお話ししたいと申してました。生憎と留守にしてますが、成人式の宴会ではみっちりとお話し下さい」
「ええ~! アスラン王が? 私とみっちりと夜を語り明かしたいとお望みなのですか!」
ジャリース公はアスラン王の顔が大好きなので、勝手に脳内で変換して喜んで大使館に帰った。フラナガン宰相はこの忙しい時期に逃げ出したアスラン王に腹を立てていたので、全くフォローをしなかった。
「このくらい肝が座ってなければ、アスラン王の後継者にはなれないでしょう」
二人はジャリース公の件はサッサと消去して、次の相手との話し合いの打合せを始める。
何件もの話し合いをフラナガン宰相とこなしたショウは、ゼリアが遊びに来ている筈だと思い出した。
「少し顔を出してきます。ミヤが監督してくれているから、パメラも無茶はしないとは思いますけど……」
フラナガン宰相はお茶を飲みながら、スローンと後宮の庭を破壊したパメラが、ゼリアと何をして遊んでいるか不安になったので、行って来なさいと許可する。
ショウは後宮に行く前に、鷹舎へ寄る。ゼリアは可愛い女の子だと思うけど、白いヘビのロスはかなり大きくなり、ちょっと限界になっていた。
『ターシュ、ゼリア王女に会いに行くのだけど、付いて来てくれないか?』
ターシュは雛達に狩りを教えている最中なのにと、プイと横を向く。
『ショウ』
雛から若鷹になりかけている真白が、ショウの肩に止まる。
「ショウ王子、動かないで! この籠手をお使い下さい」
鷹匠はまだ不慣れな真白が、ショウ王子の肩にグッと爪を立てて止まったのを見て、皮の籠手を渡す。ショウは籠手を付けた左手を肩に近づけて、真白を移す。
『怪我をさせたのか?』
ターシュは加減して肩に止まるが、真白はまだ経験不足なので、爪が肩に触っていた。
『いや、大丈夫だよ。爪が当たったけど、動かなかったから、傷にはなってない』
雛が怪我をさせたのかと心配していたターシュはホッとして、ピィーと真白を窘めた。ショウの手に止まっている真白は、羽根をバタバタさせて反抗する。
『怪我なんかさせてない!』
『ショウが動いたら、バランスを崩して爪をくい込ませた筈だ!』
親鷹に叱られて、真白はションボリする。鷹匠はメッと叱りながら、これから覚えておけば良いと甘やかす。
「ショウ王子、真白は貴方が好きで仕方ないのですから、気をつけて下さい。この子は貴方を傷つけたら、悲しむでしょう」
鷹匠に突然現れるなとか、来るなら籠手を付けてこいとか、ショウはビシバシ叱りつけられた。
『ショウに付いて行ってあげる』
親鷹のターシュとの会話を覚えてて、真白は代わりに付いて行くと言ってくれるが、ゼリアの蛇を襲ってはいけないのでショウは迷う。
『真白、ゼリアの蛇は襲うな! それができるなら、ショウに付いて行って良い』
真白は蛇を取るのは得意なのにと残念に思ったが、ショウと一緒にいたいので襲わないと約束する。
『ロスを本当に襲わない?』
念押すると『うん』と答えるので、パメラとゼリアが遊んでいる後宮へ向かった。
パメラとゼリアは年は違うけど、仲良く花を摘んで花飾りを作って遊んでいた。
「ゼリア様、パメラと遊んで下さり、ありがとうございます」
パメラは遊んであげているのは自分だと思ったが、国賓相手なので文句は付けない。テーブルの上のロスにも花飾りを付けていて、可愛いでしょうとゼリアは微笑む。
『ショウ、その鷹はターシュじゃないね』
ロスはちょろちょろとゼリアの服の中に隠れた。
『まぁ、ロスったら』
ゼリアはお行儀が悪いわよと叱りつけたが、ロスはまだ雛の鷹は信用する気持ちになれない。
『真白は、ロスは食べない』
雛が話せると知り、ロスは袖口からちょこんと顔を覗かせた。
『本当に?』
『ショウと約束した』
やっと安心してロスは出てくる。ショウは自分が蛇を好きになれたら、ロスをこんな目に遭わさなくて済むのにと反省した。
雰囲気が悪くなったので、パメラは海水浴に行きましょうと提案する。ミヤは少し考えたが、まだ幼い感じのゼリアなら問題ないと許可を出した。
海水浴というワードを聞きつけて、サンズとスローンも合流する。ゼリアの侍女達は少し困惑していたが、パメラに更紗の水着を貸して貰ったのに着替えるのを手伝う。
「危険なことをなさりませんように」
心配そうな侍女達に、ショウは私が付いていますからと笑顔で安心させる。
ミヤは後宮の女官達にパラソルや椅子などを用意させる。大事な貿易の取引相手の王女を砂になど座らせたりできないと張り切るミヤに、上品な海水浴になりそうだとショウとパメラは肩を竦めた。
それでも竜達はお構いなしに、海へダイブして全員が海水を浴びる。
「ショウ、竜達に沖でダイブするように言いなさい。ずぶ濡れだわ!」
ミヤは濡れた服を着替えますと、ぷんぷん怒りながら後宮に帰った。
ショウはパメラとゼリアが着替えている間に、自分も古いズボンに履き替えてきていた。
「ゼリア様は泳げるのですか?」
スーラ王国の首都も海の近くにあり、ゼリアも泳げた。ショウが長衣を脱ぎ捨てるのを、ゼリアは見てドキッとする。
ゼリアは、なんで綺麗な身体なんだろうと目が離せない。早くショウ様と結婚したいと頬を染める。
ミヤが残っていたら、早々に海水浴は止めさせていただろう。
ショウはゼリアの手を取ると、海へと走り込む。三人で海水を掛け合いながら、笑い転げて海水浴を楽しむ。
「レイテの海は澄んでいて、綺麗ですね」
ショウは三角州にあるサリザンの海は、川の土が運ばれるので濁っていたと思い出した。
「少し離れたら海も澄んでいますよ」
ゼリアは、サリザンから離れたのは今回が初めてなのと寂しそうに笑いながら答えた。
「なら、いっぱい楽しまなくちゃ!」
パメラは、ゼリアの接待に付き合うという名目で、バザール見学にも行きたいとショウに強請る。ショウも連れて行ってやりたいが、時間が取れるか自信がなかった。
「そうだ! 今は外国から招待客の船でレイテ湾は満杯だから、埋め立て埠頭の工事は休みだ。シーガルに案内して貰おう」
ショウの案内じゃないのかと残念そうなゼリアに、パメラは兄上が顔を出す良いプランがあるのと耳打ちする。
「バザール見学の後で、ショウ兄上の母上の嫁ぎ先でお茶をするの。絶対に顔を出してくれるわ」
ゼリアはショウの母上なら綺麗な方だろうと、こんな機会でなければ生涯会えないと頷いた。
ショウは二人がそんな算段をしているとは知らず、接待や、話し合いで溜まったストレス解消に、サンズと海へダイブする。
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