第16話 カザリア王国へ大移動?
「本当はエリカとミミは、ユングフラウでヴェスタとラルフと過ごしていた方が良いんだけど……」
言った途端にエリカとミミに睨まれて、ショウは口を閉じた。
「竜ならニューパロマまで2、3日で行けるんだけど、船だと1週間はかかる。荷物は船で先に送ったから、僕とホインズで分ければ竜で行けるけど……」
エリカとミミは竜に乗る練習を始めたばかりなので、カザリア王国までなんて無理だしと、ショウはどう分けて乗せようかと迷った。許嫁達は誰がショウの竜に乗るのか喧嘩を始めかける。
「ああ、途中で一泊する予定だから、どの竜に乗るのかは関係ないよ、どうせ交代するから一緒だ」
サンズの方が一回りダークより大きいので、エリカ、ロジーナ、ララを乗せて、ミミとメリッサがホインズに乗せて貰うと言ったが、ずっとエリカがショウの竜に乗るのだと不満を持つ。
「サンズには4人乗るのだから、一番軽いエリカを乗せるんだよ」
「ひどいわ~」
女の子に体重の話題はタブーで、ショウには一斉にクッションが投げられる。
「私のショウ兄上に、何をするの!」
エリカが怒るのを、ショウは良いんだと制する。
「クッションなんか痛くもないよ。それより、旅の途中は侍女がいないから、自分達で用事をしなくちゃいけないんだよ。エリカ、ユングフラウで待っていた方が楽だよ」
「絶対に嫌! それにリューデンハイムの寮には侍女を連れていけないのでしょ? 自分で着替える練習をしなくちゃいけないもの」
後宮で何人もの侍女にかしずかれて育ったエリカが寮生活に耐えられるのか、ショウは疑問に思う。ミミもカジム伯父上の屋敷で贅沢な暮らしに慣れているのに、寮暮らしなんか出来るのかなと父上の気紛れに困惑する。
ショウは、どうせなら自分をリューデンハイムに留学させてくれたら良かったのにと、内心で愚痴る。ミミやエリカに武術の訓練など耐えられるか不安だったが、父上の命令には逆らえない。
「結婚式が終わってユングフラウに帰ったら、リューデンハイムに留学させて貰えるように許可を貰うつもりなんだ。その時に、土日は外泊出来るように交渉してみるよ。駄目でも土日は外出して、大使館で寛げるからね」
ヌートン大使は、それでなくてもイルバニア王国やローラン王国との交渉が山積みなのに、許嫁やエリカ王女の心配までしているショウに同情する。
「ヌートン大使、ローラン王国との件はレイテと連絡を取っておいて下さい。ホインズはニューパロマに着いて休憩したら、ユングフラウに帰しますから」
「そうして下されば助かります。イルバニア王国は交渉どころでは無いでしょうが、ローラン王国は急いでるみたいですから。今年もケイロン周辺は豊作だそうですが、他の地区すべてを食べさせる小麦は望めそうにありませんからな。秋までには目処を付けたいのでしょう。ローラン王国の冬は厳しいですからね」
ショウはダカットを前に使われていたクローネに改鋳するのは、大仕事だと思ったが、冬の小麦を輸入するのに秋までに少しでも進めておきたいのだろうと溜め息をつく。
商売命の東南諸島の商人ですら、粗悪なダカット金貨を押し付けられたくないとローラン王国との交易を渋る有り様では、戦争関係だったイルバニア王国とカザリア王国との交易は冷え込む一方だろうとアレクセイ皇太子に同情しかけたが、嫌な申し込みを思い出して首を振った。
外交相手に同情するだなんて父上に気付かれたら、嫌がらせでミーシャを娶らされるかもしれないと、ショウは身震いする。父上は許嫁を増やしたくないと思っているのを知っているから、ドンドン増やすつもりではないかと疑っているのだ。
へそ曲がりな父上を内心で罵って、ショウはサンズにエリカ、ララ、ロジーナを乗せた。
竜に乗り慣れてない女の子を乗せての旅なので、途中で何度となく休憩を取りながら、夕方には予定の町の宿屋についた。エリカと許嫁達は疲れた様子で各自の部屋で休んだが、ショウとホインズは自分達の竜と同行したヴェスタとラルフの世話をちゃんと宿屋の召使いがするのを確認してから部屋で休む。
「ヴェスタとラルフは、ユングフラウに置いてくれば良かったかな~」
宿屋のベッドに身を投げ出した途端に、女の子連れなので何度も休憩しながらの強行軍ではなかったのに、倍疲れたショウはうたた寝をしてしまう。
「ショウ様……寝ているわ、わぁ、睫毛が長いのね」
ロジーナは、眠っているショウにキスをした。
「ちょっと、ロジーナ何をするのよ!」
ミミは、ロジーナを引き離す。
「ミミ、うるさくしたらショウ様を、起こしてしまうわ」
ララは疲れて寝ているショウを起こしてしまうわと、大声を出したミミを窘めた。
「夕食を食べる為に、起こしに来たんでしょ。キスで起こしても同じじゃない」
メリッサはロジーナだけに良い目をさせないと、目覚めかけているショウにキスをする。
「皆、ショウ兄上から離れてよ!」
ショウと夕食を食べようと部屋に来たエリカは、キスをしているメリッサを引き離す。
柔らかな唇の感触と、賑やかな喧嘩でショウは目覚めた。ベッドの周りにいる許嫁達に、ハッと目覚めたショウは大使館と違って侍従がいないから、襲われるかもと飛び起きた。
ドアの外から部屋の様子を見ていたホインズは、どの程度お年頃のショウ王子を護るべきなのか判断に悩む。
これがエリカ王女なら寝室に許婚を通さなければ良いのだから簡単だが、ショウ王子も来年は結婚するのだから、自分で身を護か、受け入れるか判断してもらうことにする。
全員で夕食を食べると明日も竜の旅が続くので、早々に部屋で寝ることになった。
「ショウ王子、鍵をしっかりかけて寝て下さいね」
ホインズは、エリカ王女や他の姫君達を護る事に専念する事にした。
次の日はエリカとメリッサとミミをサンズに乗せて、夕方にはニューパロマの大使館に到着した。
「ショウ王子、エリカ王女、ようこそお越し下さいました。少し休まれたら、到着のお祝いをささやかながらさせて頂きます」
ショウ王子はパシャム大使の宴会好きにうんざりしたが、エリカや許嫁達は宴会は初体験なので喜んで楽しむ。
「ショウ兄上、こんなに色々な料理を一度に見るのは初めてよ」
次々と運びこまれてくる料理にエリカは喜んで、パシャム大使は嬉しさに小躍りする。女の子達は音楽に合わせて踊り出したりと、旅の疲れを感じさせない盛り上がりだったが、ショウはぐったりとクッションに寄りかかって寝ってしまった。
ララは踊りが苦手なので参加しないで見ていたが、ショウの頭がクッションから滑り落ちそうなのに気付き、横に座って膝の上に乗せた。
「あっ! 姉上ずるいわ~」
踊っていたミミはショウを膝枕しているララに気付いて大声をだそうとしたが、エリカに睨まれて口を閉じる。
「ショウ兄上はお疲れなのよ。貴方達が、ショウ兄上を疲れさせているのだわ」
許嫁達は一番振り回しているのはエリカだとの反論は控える。
……確かにショウ様を疲れさせたのかもしれないわ。休憩の度に、隣の席を争ったりしたしたから……
パシャム大使もお疲れのショウ王子を案じて、宴会は早々にお開きにした。
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