第14話 最弱勇者と機械と竜と人間

大都市アルティカーナ

最弱勇者と機械と竜と人間

 いまだシュバルツは上空を旋回し、地上との一定の距離を保っている。


 その間も地上では戦争が続いているが、どうにもシュバルツが気になるのか皆戦争に集中できないようだ。


 しかしアダラクトスはそんなこと全く気にせず攻撃してきている。


 魔物も人間も科学に押されつつあった。


『そこの貴様ら』


 シェイミーとマガラは唖然として上空を見つめている。


 初めて見る代物なのだろう。


「何だあの兵器は…」


「初めて見ました…」


『人の話を聞かんかアホども。大将は誰かと聞いている』


「……はっ!?いや、少し呆然としてました。えっと、人間の大将は私です!」


 て言うかさっきからシェイミー自分が大将だって言ってるけど大丈夫なのか…


「わ、我は魔物の総大将マガラ・グラズストーンなり!」


 シェイミーに負けじとマガラの方も剣を掲げる。


 するとシュバルツは急に空中を旋回しシェイミー達に飛んできた。


『そうか。ならそこの総大将共、動くなよ』


「は?」


 ん?見たことあるぞ…


 あの特殊な攻撃体制は…一時期ネットで話題になった……


「あ!シェイミー!避けろ!」


「え」


 刹那。


 凄まじい光を放つ巨大な機体は地形を傾かせ粉塵を撒き散らした。


 地面を削り、敵味方問わず他の兵を巻き込んで鼓膜を破るかと思わせるほどの大音量を放つ。

 衝撃を張り巡らせ、二人の大将を吹き飛ばして行く。


 操縦士がトチ狂ってるとしか思えない攻撃方法にネットはざわついていたのを思い出した。


 《損害0のカミガゼアタック》


 そう呼ばれていた。


 《自由な世界》に登場する戦闘機は、基本、空からの爆撃や、狙撃による攻撃方法が一般的だ。


 しかし、科学大国アダラクトスの飛行兵器はその限りでは無かった。

 機体の周りにバリアーを張り、そのまま地面に体当たりすると言うクレイジーな攻撃方。

 地面スレスレを通過したりするものじゃなく、唯々シンプルに真正面から地面にぶつかる攻撃は、しかし威力は絶大だった。


「カグラッ…」


 爆風に巻き込まれる俺とマナーは何とか岩に隠れて事なきを得ていた。


 リッカは爆風に耐えきれず吹き飛ばされたようだ。


 大きく舞った土煙は徐々に晴れ、機体が通った場所には、大きく抉られた地面と、倒れた兵士だったものが転がっていた。


 一瞬で吐き気を催した俺は、直ぐにそこから目を離し、シェイミーを見つけることに専念する。


 するとマナーが俺の目線の先を指差した。


 そこには見るからに傷だらけのシェイミーが倒れていた。


「お、おいっ!大丈夫かシェイミーさんっ!」


「いっ!…大丈夫です」


 肩を抑え剣を杖代わりにして立っている状態。


 明らかに大丈夫じゃ無かった。


 さっきまで燦然と炎を燃やしていたポニーテールは力がなく火も消えてしまっていた。


 どうやらマガラのほうもかなりのダメージを受けているようだった。


『ほう、今のを耐えるか。だが……』


 鉄が擦れるような機械音とともに機体の下から光を帯びた発射砲のようなものが飛び出してきた。

 それは一定時間力を押し込むような動作をした後、先端をこちらに向ける。


『耐えれるものなら耐えてみろ』


「やばっ」


 咄嗟に逃げようとした瞬間。


 放出された光は周りの物質を消滅させながらこちらに飛んできた。


 凄まじい光量に視界が潰され、身動きが取れなくなる。


 以前として、当たってもいないのに減って行く俺の体力を見て、もうダメだと悟った時、


 急に光が右に逸れた。


「えっ?」


 何事かと周りを見渡した時、スナイパーライフルのような物を担いだ汚れた姿のリッカが歩いてきた。


「まったく…僕の事を忘れてもらっちゃ困るなぁ」


「リッカ!?」


『……貴様…どんな手品をした』


「あ、その言葉待ってました!」


 するとリッカは銃を機体に設置してある光線発射砲に向け、鈍い音と共に銃弾を放った。


 すると発射砲は銃弾の攻撃を受け、僅かに横に逸れた。


『ほう…』


「この銃に使っている玉には特殊な細工をしてあるんだ。押し抜く力が他の銃より高いんだよ」


 高いケドね……


 虚ろな目でリッカが呟く。

 成る程、それで攻撃が右に逸れたと言う訳か。

 しかもよく見るとアルティカーナの兵士も魔法陣を構えて身を固めていた。

 どうやら他の兵士もリッカと同じように魔法を撃って銃身をそらしたようだ。


『しかし、攻撃の手段はまだいくらでもあるぞ』


 そう言うと機体から光を放つ部分が綺麗に開き、科学的なデザインの機銃が幾つも現れた。


「そ、それは逸らせないなぁ…」


『ふん、ならば大人しく死ね』


 しかしリッカはこんな状況でシュバルツに嫌らしい笑みを浮かべた。


『……何がおかしい』


「いや、やっと形勢が逆転したなってね」


『何を言って__』


「__召喚、完了しました!!」


「よし!!」



 ゴッッ!



 今まで盛大に舞っていた砂煙を一気に晴らせ砂煙に空いた大穴から黒い何かが飛び出した。それに合わせて機体が傾き数十メートル吹き飛ばされる。


『何っ…!?』


 機体はその場で旋回し、空中で体制を立て直す。


 一気に晴らされた砂煙の中に君臨していたのは巨大な黒い竜だった。

 四本足でズシリと佇み、紅く細い目でシュバルツを観察している。


 剣のような鋭い牙、吸い込まれてしまいそうなほど濃い漆黒の鱗。

 羽ばたけばたちまち暴風が起こりそうなほど巨大な翼。

 灰色の禍々しい二本の角。


 見るだけで圧倒されるほどの威圧感を持った黒いドラゴンは、《自由な世界》では絶大な力を誇っていた大変貴重なモンスター、《祖竜種》の一体。



 《黒竜バーシバル》だった。



『…何だこの大きなトカゲは』


 __我を呼んだのは誰だ


「はっ!魔物の総大将、マガラ・グラズストーンことこの私であります!!この大戦において黒竜バーシバル様の力をお貸しいただきたく、恐れ入りながら召喚させていただきました!!」


 __そうか…ならば我はどうすれば良い


「…拒否はなさらないんですか?貴方ほどの大物がこんな死にかけの魔物に召喚されたのに」


 __召喚された側が主人の命令に逆らうわけが無いだろう


「え……は、はい!目の前にいる機械の鳥の始末、もしくはあの巨大な砦を破壊していただきたく存じます!」


 __了解した


 マガラと黒竜バーシバルが何かを話しているようだった。


 しかし声の意味は聞き取れない。


 俺の知っている言語じゃないのだ。


 それにテレパシーでもしているのか、喋っているのはマガラだけで黒竜はただマガラを見つめて見ているだけのように見える。


『何をしているんだ…』


 誰かは知らないがシュバルツの搭乗員もどう言うことかわかっていないようだ。


『面倒だ…速やかに始末してやろう!!』


「バーシバルさま!来ます!」


 この戦場に漂う謎の空気に耐え兼ねたのかシュバルツはバリアーを張り一気に加速し、黒竜バーシバルに向かって音速で飛んで行った。


 マガラは言語を戻し大声で警告する。


 すると黒竜はすぐさまそれを察知し、口を大きく開き凄まじい息吹と共に業火を吹いた。


『ふん、この程度の炎など、貫くには容易いわ!』


 シュバルツは業火の中をバリアーで穴を開けながら黒竜に突っ込んでいく。


 __ほう


 何をするつもりなのかは知らないが黒竜は火を吹くのを止め、何かを唱えた。


 するとシュバルツは黒竜にぶつかる寸前で何かに弾かれ動きを止めた。


『魔法壁か』


 俗に言う防御呪文だ。


 目の前に不可視の壁を作りだす魔法。


『くっ……小癪な!』


 シュバルツは目の前にある不可視の壁を避けて通るため、高速で横に旋回をする。


 しかしそれが罠だったのだろう。


「来たぞ!放て!!」


『ちぃっ!』


 黒竜に気を取られていて気づかなかったのか、壁を避けて旋回した先には幾つもの魔方陣を掲げたアルティカーナ要塞の兵士が攻撃の準備をしていた。


 シュバルツはそれに驚き何発か被弾するも、また大きく旋回をし、色とりどりの魔法の渦を避けて行く。


 さすがにシュバルツのバリアーでもアルティカーナの魔法を何発も受けるのはいただけないのだろう。そしてシュバルツはその場から逃げるように空へ飛んだ。


 しかしそれを魔物も黒竜も待ってはくれない。


「■■■■■■!!!」


 黒竜はもはや雄叫びにも聞こえないおぞましい轟音でシュバルツに咆哮をした。


 すると地面がモゾモゾと気持ち悪く蠢き、黒い塊が出現してくる。


 黒い塊が何百個にもなった時、黒竜は凄まじい暴風と共にシュバルツを追い、空に飛んだ。


 それに合わせるかのようにして黒い塊が変化を始める。


 形を変えて行く黒い塊はしばらくするとそれぞれ別の魔物の形に変身し、黒竜を追って飛んで行った。


 その光景に圧倒されているとシェイミーが叫んだ。


「あっ!まだ油断してはいけません!敵はアダラクトスの兵器だけでは無いのです!」


「撃てぇぇえ!!」


 完全に油断していた。


 敵はあんな化け物だけでは無い。


 アダラクトスの兵はシュバルツに乗る搭乗員だけでは無いのだ。


「わっ!?」


「くっ!」


 俺は思考の回らない頭で咄嗟にメニューからマントを取り出してマナーを守った。


 体に何発もの銃弾が掠る。


 マナーを守っているので自分の事を守れる部位がマナーより極端に少ないのだ。


 結果、はみ出した足や指などに銃弾が当たる。


「やべぇ!ラッキーエンジェルが持たない!」


「カ、カグラッ!?大丈夫!?」


「全然大丈夫じゃない!!」


 俺は神のごとき速さでメニューを操作し、マントをもう一枚羽織る。


 これではみ出た部位は無くなり体の激痛にも平穏が訪れる。


 ゴクゴクと回復薬を飲み、半分をマナーに飲ませる。


 新発見。回復薬は使い回しができた。

 俺は体力の上限が極端に少ないのでちょっと飲んだだけでも満タンになるのだ。

 これからは回復薬の残りをちびちび飲んで行こう。


ラッキーエンジェルを装備し直し、未だ止まない銃弾の嵐をひたすら耐える。こうしている間にも俺の体力はマントの重みに耐え切れず、段々と減って行く。


 まさに万事休す、これほど絶体絶命という四字熟語が似合う状況があるのだろうか。


 しかしマナーだけは守り抜く!


 前世はニートで今もかなり豆腐メンタルだけど、マナーはもっと辛い思いをしてきたんだ!


「伊達に21まで童貞貫いてねぇんだよおぉぉぉぉお!!」


「童…貞…?」


「防護隊!防御壁を何枚も重ねて!相手の銃弾が無くなるまでどうか耐えてください!!」


「「「「おおぉぉぉぉぉおお!!!!!」」」」


 シェイミーの激励が飛ぶ。


 アルティカーナ要塞からの増援も出てきた。


 冒険者の姿もある。


 しかし、アダラクトスの銃弾は止まない。


 むしろさっきより激しくなっているようにも感じた。


 ミサイルまで飛んでくるようになってきた。


「やっと冒険者が集まりました!!」   


「やっとか!!お父さんは!?」


「まだです!!」


「あのクソ親父があぁぁぁぁあ!!!」


 火の治まっていたシェイミーのポニーテールがまたも強く燃え上がる。


 そして手に持った刀で銃弾を捌き始めた。


「嘘でしょ…あの子化け物かなにか?」


「な、何だリッカ居たのか…ここはマナーと俺で満員だ。どっか行け」


「僕死んじゃうよ!!」


「やかましいわ」


「もっとこっち来て」


「あ、ありがとうマナーちゃん。こいつとは大違いだ…」


「俺みたいなクズと光り輝く未来をもったマナーを比べるな。一緒に見ることすらおこがましいわ」


「君に何があったのさ!?」


「そんなことない!マナーとカグラは一緒!!」


「マ、マナー…」


「何だこいつら」


 呆れた表情のリッカが空を見上げる。


「……はぁ?」


 その瞬間、リッカが顔を驚愕に染めた。


 何事かと俺はそんなリッカの表情を見つめ、リッカの目線の先が気になり空を向いた。


「ん?どうしたリ」


 その先には何十にも重なった防御壁に飛んで来る黒竜が目に入った。


 いや、飛んでるんじゃない。落ちて来たのだ。


「ッカうぉおおおおお!?」


 本日二回目の体が咄嗟に動く現象が起こり、マナーを抱きしめマントにくるまった。


「ちょ、僕は!?」


「もう一枚あんだろ!」


「あ、本当だってこんなマントでどうにかなるか!!」


「大人しくくるまっとけ!」


「ええぇぇぇえ!?」


 その瞬間、体が気持ち悪い浮遊間に襲われた。


 数分にも感じられる長い浮遊間に耐え、背中から地面にぶつかる。


「ぐっ…大丈夫かマナー?」


「う、うん」


「そうか…」


「大丈夫じゃねぇわあぁぁ!!」


「何だ、リッカ生きてたのか」


「勝手に殺すなぁぁ……あれ?生きてる?何で?」


「そんなこと今はどうでもいいだろ」


「そ、そうだけどさぁ…」


「あ、あれを見ろっ!!」


「あ?」


 アルティカーナの兵士が勢いよく空を指差した。


 周りの人間や魔物も必然的に空を見上げる。


 そこには炎があった。


 何言ってるかわかんねぇと思うが俺もわけがわからない。


 ただ、でかい炎の球体が陽炎を作りながら漂っていた。


 __我に不意打ちとは…やるな


 黒竜が体制を立て直し、球体に吠えた。


 炎の球体は蠢き、姿を変えた。


 横から炎を吹き出し、大きく広がらせる。


 球体は段々と細くなり、鳥の形を作って行く。


 広がった二対の炎が鳥の背中から飛び出ている光景は、まさに不死鳥を見ているようだった。


 不死鳥は大きな翼を残し、小さくなって行く。


 炎の中には、一人の人間がいた。


 オレンジのバンダナを巻き、赤い髪をたなびかせるその姿はとても神々しく……


「てめぇ《桜花》のホームレス店長じゃねえぇえええかあぁぁぁぁ!!!」


「誰がホームレスじゃあぁぁぁぁ!!!」


「来るのおせぇよクソ親父!!!」


「シェ、シェイミーちゃん!?いつそんな言葉を!?昔はお父さんお父さんって可愛かったのに!!今でも可愛いけど!!」


「誰のせいだと思ってんだ!!」


「しかもアンタがスルト・アルバレアかよ!!!」


「何言ってんのお前ら、ついてけねぇわ」


「「こっちのセリフじゃあぁぁぁぁ!!!」」


 俺とシェイミーの檄が飛ぶ。


 あの男はリッカお墨付きの料理店桜花の店長兼最強の人間ことアルティカーナ軍総大将スルト・アルバレアその人である。


 炎を操る魔法を得意とし、背中から不死鳥の翼のような炎を放出する、最高位万能系炎魔法 《フェニックス》を常時発動している化け物中の化け物だ。


 以前として強い力を放つ黒竜は最強の人間がいる空を見上げる。


 __ほう…その魔法…奴は本当に人間か?


「はっ!調査隊からは人間であるという報告が出ております!」


 いつの間にかかなり影の薄くなっていた魔物の総大将は、黒竜の足元から出て来て大声をだす。


 __ふん…そうか


 黒竜は何かに納得できないように目を細めスルトを睨む。


「何ですぐにこなかったんですか…大変だったんですよ?」


「ま、まぁね?ヒーローは遅れてやってくるってね?」


「もうどうだって良いです!とりあえず戦ってください!」


「は?誰と?」


「お父さんの後ろから飛んで来る変なのですよ!!」


『変なのとは何だ。失礼な』


 スルトの後ろからはシュバルツが高速で体当たりして来ていた。


「うおっ!?あぶねぇ!」


 炎の翼を羽ばたかせ華麗にシュバルツの体当たりを避けたスルト。


 その辺りは流石はスルト・アルバレアと言ったところか。


『貴様…何者だ』


 __我も問おう


 シュバルツの搭乗員と黒竜が目線をスルトに向ける。


 途端にスルトは目を細くし、凄まじい熱風を両勢力の最終兵器に向けた。


「ふっ…よく聞け」


 先ほどのアホっぽい言動を全て帳消しにできるほどの圧倒的カリスマを身体中から放出する。






「俺の名前はスルト・アルバレア!!料理店桜花の店長だ!!!」














 そっちかよ。


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