第6話 最弱勇者と五大都市
今まで全く見ていなかったが、周りの風景がガラリと変わっていることに気がついた。
さっきまでは鉄工所のようなガラクタだらけの荒んだところを歩いていたのだが、今は周りに草木が広がり、綺麗な花も咲いている。街が整備をしたのだろう。
目の前には大きな湖に囲まれてた煌びやかな街が見える。
とても神秘的で綺麗だ。
この街はアルティカーナ。
《自由な世界》に腐る程ある街の中でも五大都市の一つに分類される大都市だ。
この都市がある国の名前はシドラクトと言い、とても軍事力のある大国で、俺たちは今、その大国シドラクトにいると言うことになる。
同じく五大都市のある国、アダラクトスと言う大国と冷戦状態が続いていて、現在、戦争に備えており、とても血の気づいているのだと言う。
ゲームをやっていた時代に一度、この戦争のイベントに上位プレイヤーとして参加したことがあったが、グラフィックが良すぎるせいか、地獄絵図にしか見えなかった。
もう体験したくないものだ。
と、前世の記憶を思い出しながら街に入ろうとした時、兵士に止められた。
「入街許可証を出せ」
「うっそーん……そんな入国許可証みたいな……」
「入国許可証?何それ」
恒例のマナーの質問が炸裂する。
「無いのなら街には入れることは出来ないぞ」
「どうやったらそれが手に入るんですか?」
兵士は少し考えたような顔をした。
「ここに入る者は皆最初から持っているのだが?よくわからないが、貴族や、軍の幹部なら誰でも持っているんじゃないか?」
「えー…」
ここまできて街に入れないのかよ、と俺は大きくため息を吐き出す。ゲームでは普通に入れたのに……ゲームだからだろうか。
マナーのことも放っておけないので、どうにかして街に入りたいところだが……
そんなことを考えている時、チョンチョン、と、俺の肩を誰かがつついた。
「ん?」
振り向いた先には、以下にも貧乏そうなボロボロの服を着た、バンダナを巻いた真っ赤な髪の毛の男が立っていた。
結構若そうな顔立ちをしているが、少年と呼ばれるほどの年では無く、30代前半、と言った感じだ。
「お前さ、見たところ入国許可証が無くって街に入れないってとこだろ?」
「あ…おう、そのとうりだ」
男は「そうかそうか」と言ってボロボロのポケットから、謎の紙を取り出した。
「こいつは入街許可証だ、10000アースで売ってやんよ」
アースと言うのは《自由な世界》のお金の単位のことだ。1アース=1円。単純な話だ。
なんでこの男が入街許可証なんて物を持っているのかは知らないが、俺は一つ返事でそれを買った。
アースは転生した時になぜか全部無くなっていたのでメニューからそれなりの価値のある宝石をアース替りとして渡した。
男はニヤニヤしながら「ありがとさん」と言って何処かへ去っていった。
「さっきの誰?」
「さぁな……あんな服装だったし、お前と同じホームレスなのかもな」
「友達になれそう」
(友達って言葉知ってるんだ)
とても失礼なことを一瞬頭に浮かべたが、そんなことより、と、兵士に許可証を渡して街に入っていった。
後ろで何か兵士が騒いでいた気がするが、よく聞こえなかった。
「お、おい……さっきのって…」
「いや…こんなところにいるわけないだろう」
「だ、だが…」
「ありえん、だってあの方は…」
◇
「ふぁぁぁあ……」
マナーが目を輝かせながら街を見ている。
街の中はまるで祭りのように騒がしくて、いろんな店があった。
前世のビルのような銀色の建物が立ち並び、それ以外の色々な建物や、空を飛ぶもの、奇抜なファッションをするもの、そして、見るからに冒険者、と言わんばかりの装備をする人々に思わずテンションがあがっているのだろう。
未来の世界にタイムスリップようにも思えるが、その中でも街の中心にある建物が群を抜いて存在感を示していた。
というか俺たちはそこからこの街に入ったのだが。
それはアルティカーナ要塞。
《自由な世界》でも最高峰の軍事力を持った超弩級の軍事施設である。
厳しく鍛錬を受けた兵士は皆、平均レベルが60を超えていると聞く。
これは途轍もないことで、実際、ゲームをやっていた時の俺は283レベルだったのだが、そんな超高レベルプレイヤーは極僅かで、何万人といる兵士達の平均レベル60なんてものは、本気でかかれば小国を一つや二つ潰すことなど簡単とも言える。それは兵士だけの戦闘力での話だ。武器や兵器を使わせたらさらに強い。
しかもこの軍の最高司令官は、何とレベルが300を超えていると言われていて、前世の命知らず達がよく要塞を落とそうとして、ことごとく返り討ちにあった、と言う話を結構聞いている。
その時は俺のところにも誘いが来たのだが、俺はその時イベントに参加中だったので行けなかった。
「カグラ?何考えてるの?」
「ん?いや、しょうもないことさ」
マナーは絶対、戦争には巻き込みたくないな。
「カグラ!あっちってみようよ!」
「あぁ…そうだな!色々まわってみるか!」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「雑貨屋か、いろんな物があるな…」
今俺とマナーは雑貨屋に来ていた。
異世界の雑貨屋はなんだか変な物を多く取り扱っているようで、ドクロや空を飛ぶ絨毯、惚れ薬なんて物もあった。
アクセサリーなんかも色々あるようでマナーに何か買ってやろうと、何が欲しいかマナーに聞いて見た。
「マナー?何か好きなもんあったら買ってやるぞ」
「食べ物!」
「何で雑貨屋に来たし」
「食べ物ー!お腹すいた!」
「女の子なんだからもっと女の子らしく……つってもわかんないか」
しょうがないから軍資金としてちっちゃなルビーを3つほど渡して適当に買いに行かせた。
さて、じゃあ俺は前世に戻る方法を探してみるとするか。
…と言うか、前世だとまるで俺が一度死んでいるみたいじゃないか。
認めないぞ…俺は認めん…
よし、これからは現実に戻る=現世と呼ぼう。
「おーい、そこのお前さん?」
「ん?」
なんだ?と声のした方を向いてみると真っ黒なローブを着た、おばさんが立っていた。
よくゲームとかで見かける占い師みたいな見た目をしていて、顔はフードのせいでよく見えなかった。
「変な格好してるんだね?何だいそれ?」
「え?今俺どんな装備だったっけ?」
と、俺はメニューを開く。
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カグラ・タダヒロ
武器:なし
防具:ボロボロのジャージ
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「ボロボロに変わってる……」
「何のことだい?」
「いや、こっちの話」
そう言って俺は適当な防具をメニューから探して装備しようとするが、防御力の高い装備は重すぎて装備できなかった。
しょうがないので、比較的ジャージと同じくらいの重量の服で我慢しておいた。
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最弱勇者の服:最弱勇者専用装備
最弱勇者でも装備できるとても軽い藍色のローブ。
特殊効果無し。ステータスの変動無し。
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「脆そうなローブだねぇ…」
「至極失礼な説明だなおい……」
こんなものがあったとは。専用装備と聞いてあの頃の希望が一瞬舞い戻ってきたじゃねぇかこん畜生め。
「どうしたんだい?そんな険しい顔して」
「最弱勇者の憂鬱さ……」
若干不機嫌になりながらも、俺は情報収集をしに街を散策して…
「あ、マナー大丈夫かな…」
俺を探しにここに戻ってくるかもしれないので店で待つことにした。
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