第3話 最弱勇者と少女
「さて……どうした物か」
この自由な世界は正直、前世の地球よりも広大である。
そんな中で自分は現実に戻る方法を見つけなければならないのだ。
このステータスとともに。
よくネット小説などで読む転生者は現実の世界には戻らないと宣言していることが多いが、俺の場合はそうはいかない。
なぜかと言うと…
「スライム強敵すぎる!!」
最弱モンスター相手に死にかけるのだ。
このスライムと言うキャラクター、自由な世界ではよく草原などに現れる緑色のモンスターなのだが、 なんと総合ステータスが自分より上回っているのだ。
攻撃されると凄く痛い。
そもそも自分は筋力値が絶望的なため、なんとダガーしか装備できない。
防具は気だるそうなジャージだし、 まず体力が50しかないのに一発で5食らってしまうのだ。
今20。
「うわぁぁぁあ!まだ死にたくねぇぇぇぇえ!!」
よって現実に帰りたいのだ。
やられる寸前の悪役のように叫ぶ俺、プライドなんて物は捨てた。
生きることが最優先。
しかし救いの手は差し伸びてこない。
「メニュー!!」
何か使える物はないかとアイテムボックスを開く。
……はっ!
あれなら……装備できるんじゃないか…?
「防具!ミカエルマント!」
すると背中に赤いマントが現れ
「ぐぇ」
俺を下敷きにした。
上にマントがあるおかげで、スライムの攻撃が当たらないのは嬉しい。
が、
ミカエルマントの必要筋力値は5。数値的には装備できて当然のはず。
なのに何故……
「まさか!現実の俺の筋力がこいつに負けてる!?」
重っ!マント重!ただの布切れのくせに!説明にも
『マントに天使の魔法をかけた軽くて丈夫なマント』
って書いてるのにぃぃぃぃい!
ーーーーーーーーーーーーーーー
HP13
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「体力減ってる!!」
『スライムの攻撃!0のダメージ!』
スライムの重量がのしかかる!
「乗るな!上に乗るな!」
『カグラに1のダメージ!カグラに1のダメージ!』
「やめろおぉぉぉぉぉぉお!!」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「た、大変な目にあった……」
あのあと背中に爆弾おいてマントにくるまって自爆した。
まぁスライムもろとも俺の体力も消し飛んだが、今現在俺の体力は2である。
もはやスライムの攻撃で死んでしまう状態だ。
俺は回復薬を使いながらメニューの地図を見ながら近くの街に寄った。
しかし
「なんでこんなスラム街みたいになってんだよ…」
酷く荒んだこの街は人を見る影すらない。
食べ物もない、水もない。
ここはそんな街だった。
「う、酷いな…」
白く少し皮膚がのこった骨は、わかりやすい頭蓋骨と共に三つに寄り添っている。
まるで家族三人で集まっているようだった。
すると奥の瓦礫の山からゴソゴソと音が聞こえてきた。
「ネズミかな…モンスターだと嫌だな……」
基本、モンスターは人の住む街には絶対入れないようになっているのだが人っ子一人いないこの街はもはや街と言って良いのかもわからない。
先ほど死にかけたことで少し、いやかなり恐怖があるが、好奇心に負け、何がいるのかを見に行った。
そこには、酷く汚れた金髪の少女がいた。
ボロボロのワンピースを着た少女は、大量にあるゴミの山を漁っていた。
「…おい、どうしたんだ、なんでゴミなんか漁ってるんだ?」
少女は驚く動作もなく、自分の方に目を向ける。
およそまだ12歳ほどしかないだろうその少女はとても可愛らしい容姿をしていたが、目が虚ろで光が見えなかった。
見るからに不健康な姿をした少女はその小さな口を開き言った。
「こうしないと…死んじゃう」
俺は自分の世界が崩れて行くのを感じた。
恐らく食べるものが無いのだろう、少女の小さくも悲痛な叫びには、部屋に閉じこもってネットをしながら、ご飯も食べれる裕福な生活をしていた自分の心を大きく揺らした。
「…メニュー、清水」
俺はそう言って体力を50回復させる力を持った水を取り出し、目の前の少女に渡した。
少女は礼も言わず水を飲む。
全部飲み干した後、水をいれていた透明な容器は消えて行った。
「ほら、こいつも食え」
メニューから取り出した小さなコッペパンのような物を差し出した。
肉や魚もあるのだが、調理をしていなかったので仕方なくパンを渡したが、少女はためらう間も無くパンに食らいついた。
味わう気もなく、ただ腹に詰め込むだけの食事だが、とても幸せそうな顔をしている。
「良かったな……もうゴミなんか食うんじゃねぇぞ」
俺は立ち上がり、また他の街に行こうとするが少女に服を引っ張られ止められてしまった。
「あなたの…名前…」
「俺か?俺の名前はカグラ、
カグラ・タダヒロだ」
「そう…じゃあカグラ」
「何だ?」
少女は少しうつむきながら言った。
「私も…つれてって」
上目遣いで懇願する少女。俺は額に手を当てて、頭をガリガリと掻きむしった。
できることなら断りたいところだ。こんな小さな子供を養う術を俺は持ってないし、そもそも俺のようなクズについてきてしまうと、この少女は間違いなく不幸な目に遭うだろう。
しかし、ここに置いて行ってもいつかは息絶える運命。
うーん、と頭を悩ませているうちに、俺の記憶に蘇る自分の中学生の頃の夢。
『一人で食ってけるようになったら可愛い女の子を養子にもらう』
思い出しただけで恥ずかしい。中学生だもん。しょうがない。
まぁ、俺の考えはもう決まった。変なところだけ強くてニューゲームなので食ってく分には問題はないだろう。
むしろあと二、三人増えても問題ないくらいだ。
俺は少し笑いながら言う
「もちろんだ」
この出会いが後の運命を狂わせていたことに、あの時の俺が気づくはずもなかった。
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