クトゥルフ短編集
吉田君
白き世界で
深夜二時眠たい目をこすりながら変わらない画面を見続ける。
画面に映るはただただ白い世界。
数年前に打ち上げられた人工衛星「L・クラフト」
北極点のほぼ真上に位置し永遠と北極の映像を送り続ける。
さて交代の時間までもう少しだその時一つの画面で変化があった。
なんだあれは!人?そんな違う大きすぎる!
あの周辺だけ風が強い、雲が覆い画面はまた白くなった。
あれはいったい何なんだ?
私たちは「L・クラフト」から送られた不可解な映像の正体を探るべく北極に赴いた。
未知というのは恐ろしいもので何人もの人間が北極調査を進められたが、結局行くのを承諾したのは私たち六人だけだった。
生物学者のポート・フレディ、同じく生物学者の三原耕哉。
地質学者の津路克己。気象学者のレム・クレイ、通信使のロート・スミス
そして私だ。今さら冷静に考えてみたが普通これだけの少人数で行くものだろうか、もっと時間をかければそれなりの人員を用意することもできたはずなのにいったいなにをそんなに急いでいたのだろう。
私たちの探索は驚くほどの幸運に恵まれなんのトラブルもなく目的の場所北緯88度西経14度にたどり着いた。
しかし残念ながら映像の主と関連のあるものは見つけることがかなわなかった。
もしかしたら足跡の一つでもと思ったがやはり数か月も前の物だといくら大型でも残ってはいないらしい。
とりあえずそのことだけでも報告しようと思いロートに機械の準備をしてもらい私は何を話すか考えをまとめた。
報告を終えた頃だろうか津路が何かを見つけたようで私とロートを除いた全員がその物体に近づいていく。
私も後はロートに任せそれに近づき確認をした。
私にはこれがただの石にしか見えなかったので津路に何がおかしいのか聞くと
「俺はこの辺にある隕石からなにか見つかるかもしれないと思っていくつか採取しようと思ったんだ。でもこれを見つけておかしいんだ。だってほら触ってみろよ熱いんだこれこんな極寒の地にあって熱いんだ。あんたが報告してる間から全然冷えない。不思議だこんなの見たことも聞いたことも無い」
彼は興奮しまくしたてるように喋ってから標本の採取を始めた。
そんな中次に興奮した声を上げたのが生物学者の二人であった。
アザラシが遠くに見えるのだがそれは生物に対して全くの無知であった私でもわかるほどに不自然だったのだ。
それどころかこの白一色の世界でも実に浮いていたその毒々しい紫色は!
近づくポートに気付いたアザラシは陸上だというのに恐るべき速さで逃げてしまったので今日はあれを追うのはやめるということで話がついた。
風が強くなりはじめ、レムが吹雪が来るかも知れないというので私たちは至急テントを建てここをキャンプにした。
吹雪の中私は恐ろしい声を聞いた。とても言葉では言い表せないもので私は体の芯から震えたが正気を保つことが出来た。
しかし私以外にも声を聞いたらしい三原は急に喚き外が吹雪だというのにテントから逃げ出そうとしたのだ。
なんとか捕まえることが出来たが彼はしばらくの間ぶつぶつと意味の分からないことを呟き。
急に静かになったかと思うと耳を澄ませ辺りを見回しまた呟くということを繰り返した。
「逃げなくては、声が近い、恐ろしきもの、大学の文献、イタカ・・・」
数分後には三原は正気を取り戻したが、ついに辺りを見回すことを止めることが出来なかった。
吹雪は数日間止まずその間に津路の体調が徐々に悪くなり始めた。
始めは体がだるいと言っていたがだんだん目に見えて具合が悪くなるのがわかり、ついには皮膚の色が灰色になった。
吹雪が止み私はすぐにでも津路を帰そうと提案したがポートは猛反対し、あの不可解な生き物を発見するまで帰るわけにはいかないというので私は津路と帰りたがっていた三原とともに一旦船まで戻り、それからもう一度合流することにした。
船が来れる場所まで行くのに予想外に時間がかかり三原の容体を心配したがなんとか持ちこたえてくれたようで
無事にたどり着いた。船の無線を借りポートに連絡を取り彼らのいるところに一人向かうことになった。
彼らは後に私が合流することを知っていたので比較的近くまで来ていてくれたようで私はそのことに感謝した。
あれはなんだ?遠くに人影を見つけた私は最初ポートらだと思ったが一人しかいないのはおかしい。
他の北極探検隊かとも思ったがどうやら違うようだ何故ならそれは一切の服を着ていなかった。
近づくにつれそれの異様さがよく分かる。
体はおおよそ人間に近かったが子供が粘土をこねて作ったような歪さが目立ち、顔には大きな血走った眼。
人というよりは獣に近かった。
それは私に気付くとすごい速さでこちらに走りよりその腕にある鋭いかぎ爪で襲い掛かってきた。
極地に居たため服は厚く、そのおかげでそのかぎ爪は私の皮膚に届くことはなかった
私も反撃するべく自分のこぶしを振ったがむなしくも空を切りそれに当たることは叶わなかっ。
そのまま私はそれに組み伏せられ恐るべき顔が首筋に近づき私は最期を覚悟した。
その時私は吹雪の中聞いた声を再び耳にする恐るべき声だ。
声が聞こえるとそれは動きを止め声の方に向かい走り数秒後には見えなくなってしまった。
一人残された私は声に怯えていたがすぐに目的を思い出し合流するべくまた歩きはじめる。
結論から言うと合流場所には誰もいなかった。
残されていたのは三人分の荷物とレムの物とおもわれるビデオカメラだけだった私はテントを建て、しばらくの間待つことにしたいったいどれほど待っただろうか白夜により日付の感覚はとうに狂っていた。
待つ間に私は決してビデオカメラに何が映っているか見ることはしなかった。
何か途方もないものが映っているのではないかという感覚に襲われていたからだ。
十日分はあった食糧が尽きたとき私は待つのを辞めこの恐ろしい白の世界から逃げ出すことにした。
あれから四十年私の命ももはや尽きようとしている。
永い悪夢の様な一生はもう終わりだ。
私たちは北極で何も見つけられずまた三名の死者を出してしまった。
いや、正確にはもっとだろう。三原が日本に戻り直ちに病院に搬送されたが具合はよくなるどころか悪くなる一方で、周りの人間も三原と同じような症状を訴えたそうだ。
この話は一般には公開されていないがその病院の人間は全員が灰色に干からび死んでしまったらしい。
それだけではとどまらずに病院周辺の生き物はすべてが異常な生育を見せ最終的には死んでしまったと聞いた。
とある大学の文献によくにたことが昔アメリカでも起きたという記述がある。そしてその時にも不可解な隕石が発見されているらしい。そうだ間違いなくあれは三原の持ち帰った隕石が原因だ。
ついに私はあのビデオを見ることはできなかったし今さら見たいと思っても叶わない願いだ。
なぜなら私はあれを失くしてしまったからだ。
瞼が重くなるもう時間は無いようだ・・・そして私に忘却がもたらされた。
親父の遺品を整理しているとビデオカメラが出てきた。
まだ見れるようなので俺は見ることにしたがそれが間違いだった。
俺はこれを壊しすべて忘れるよう努めたがもう普通の精神状態には戻れないだろう。
画面には何も映らず声だけが聞こえる。
「あ・・な・だ」
「星がみえ・赤い・だ」
「馬鹿言うな・まは・くやだぞ、星なん・見えるか」
酷かったノイズが徐々に収まり声は鮮明になり、映像も映り始めた。
「風が強くなってきたぞ」
「そんななぜこんなにすぐに風が強くなるんだ。雲も出てきた」
カメラは上を向く。雲の切れ間から赤い星が二つ煌々と輝いている。
「うあ、なんだ風がうわああああ」
「ポート!」
ポートと呼ばれた男が空に舞い上がる。
赤い星が輝きを増すと雲が消え恐るべきものが表れた。
それは巨大な人のような姿をしていた。それは巨大な手で男を一人持ち上げ引き裂いた。
「ロート!」
カメラは地面に落ちたのか横になりその巨人の全貌が見えた。
あの赤い星は目だったのだこの巨大な生き物の!
そして最後にカメラに映ったのは巨人の恐ろしくも邪悪な笑みだった。
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