君の海(15分)
お題:君の海
小さな水槽の中で、熱帯魚が優雅に泳いでいる。
先日、この水槽の新たな仲間として小さなエビが迎えられた。何匹かは先住民に食べられてしまったけれど、ほとんどは生き残り、日々水槽のゴミを食べてお掃除をしている。
「時々ね、夢を見るの」
水槽の主人は愛おしげに人差し指で表面の雫を撫でる。
「私は人魚になって、この水槽の中を泳いでいるの。小さな卵が水草の裏についているとか、食べられてしまったエビの足だけが小石に引っかかっているのとか、外からじゃわからなかった色んなことに気づける。そして小魚たちが歌うのーーずっとここにいよう、海の中は素晴らしい、陸なんて辛いことばかり」
有名なメロディに乗せて君は歌う。
「この子たちはここを海だと思っているのよ」
サラサラと魚たちに餌を巻き、君は笑う。
「いいなぁ……水槽の中は狭いけど、こんなに綺麗だし、友達もいっぱい。私、死んだらこの中に行きたいな〜」
ーーそしたら、ちゃんと面倒みてね。
自分で悟っていたのだろうか。その晩、彼女は息を引き取った。
彼女の言葉通り、水槽は僕が引き取ることになった。
小さな海の中では今日も新しい命が生まれ、楽しそうに泳いでいる。
その中の一匹に、僕は彼女の名前をつけた。
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