呪いの人形(30分)
お題:素人の恨み
幸せを届ける魔女になりたかったのに、いつの間にか呪いばかり請け負っている。クラスのあの子を、上の階のあいつを、私を捨てた元彼を……どろどろとした人間関係に疲れる日々。
おまけに、呪い返しも防いでいかなければならないので大変だ。どこかの魔法使いから呪い返しが来る。それを跳ね返す。それがまた跳ね返されてくる。それをまた跳ね返す……そもそもどんな案件から発生した呪いだったのか、多分双方ともに忘れている。
でももっと面倒くさいのは、プロからの呪い返しより、素人からの根拠のない恨みだ。「あの魔女が私を呪ってる!」って……あんた誰ですかー私あなた知らないんですけどー完全に勘違いですよーあなたの知り合いはいい人ばかりなのか、私に呪いを頼んだ人はいませんよー。こんなパターンが、意外と多い。
今日もくたくたになって帰宅する。誰もいない部屋を思い、うめくように。「ただいま」を吐くと、「オカエリナサイ」返ってくるはずのない声。
「えっ……?」
「ココヨ、ココ」
今朝家の前で拾った、外国製らしきお人形だった。痛々しくもナイフが突き刺されていたのを、魔法で直して棚に飾っていたのだ。呪いはかかっていないように見えたので、私に恨みがある素人が、「お前もこうしてやる」的な意味を込めておいていたのだろう、と思っていた。しかし喋るということは、何らかの魔法はかかっていたのだ。プロとして、見抜けなかったのは致命的。呪いだったらどうしよう、慌てて防御魔法を展開しようとしたのだが、人形が手を伸ばして、わたわたと振った。
「ヤメテヤメテ、チガウノヨ。アナタヲノロッタリシナイワ。ソノタメニオハナシシテルンジャナイワ。ノロイヲオネガイシタイノヨ」
「呪いを、お願い?」
「ワタシヲコンナフウニステタアノオンナヲ、オナジメニアワセテホシイノ」
人形は妖艶に微笑んだ。私はじっと彼女を見つめる。やはり魔法がかかっていたわけではなく、どうやら自分を捨てた持ち主への恨みで怨霊めいたものになったらしい。
「……お金、持ってるの」
「……モッテナイワ」
それはそうだろう。人形なのだから。
「それじゃあ受けるわけには」
「コ、ココデハタラカセテクダサイ!」
必死な声で、どこかで聞いたような台詞を言われた。人形は、私のスカートに小さな手を伸ばしてすがりつく。
「オネガイ、オネガイ」
呪いを頼んでいるというのに、その様子はなんだか可愛らしく。無碍にする気にはなれず、ため息をついた。
「じゃあ、今日から掃除とか、その体で出来そうな家事から初めて貰おうかな」
「ハイッ!」
元気よくうなずいた人形の頭を撫でると、気持ちよさそうに微笑んだ。可愛い。
明日からは毎日、「オカエリナサイ」が聞けるらしい。明日の「ただいま」は、もっと明るい声が出せそうだ。
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