第14話

 旅人から隣の大陸の話を聞いたクオリスは、ロンを半ば引きずる形でラーヴィグアの港まで歩き続けた。

 歩くこと、女の言った通り三刻。店を出た時よりも、日が少しだけ西に傾いていた。


 港にいる船乗りに、隣の大陸へ行く船がいつ出るか尋ねたところ、今日はもう出ないそうなので、二人は港のすぐそばの宿で一夜を明かすことにした。


 当たり前のように一人部屋に二人で泊まるようにしたが、今回も寝台の譲り合いは止まらなかった。

「もうすぐ故郷に行けるかもしれないんだよ?ベッドで寝て、いい朝を迎えなきゃ」

「お前には苦労をかけている。お前が寝るべきだ」

 双方譲らず、しばらく睨み合いが続いた。


 ややあって、ロンが折れたように頭を垂れた。

「……わかった、ベッドで寝るよ……」

 やっと折れたロンのそのしおらしい態度に、クオリスは脱力のため息を吐いた。

 ロンは大人しくベッドに寝転がった。それを満足げに見下ろすクオリス。

 一仕事終えて安心した彼女は、

「でも…………」ロンの左手が己の右腕に伸びていることに気づかなかった。

「クオリスもね!」その言葉の意味を理解する暇もなく、油断した彼女の身体は、次の瞬間にはベッドの上で弾んでいた。

 悲鳴を上げたクオリスは、隣で笑うロンを軽く睨んだ。

「一緒に寝よう。ちょっと狭いけど」

 ロンはそう言って目を閉じた。しばらくしてすやすやと寝息が聞こえてきたので、完全に眠ってしまったのだろう。

 クオリスも、ロンの頭を一撫ですると目を閉じた。


「うわあ、海だ!海を見るの初めて!」

 船の甲板の上、ロンは生まれて初めて見る海に終始はしゃぎっぱなしであった。

 クオリスは水竜族なだけあって、頭の片隅に微かに残る【秘境】で過ごした日々の中に、泉や海、そして自分が流された外界に繋がる川など、水と接する機会が多くあった。

 その時、ぐらりと船が揺れた。

「きゃあっ!」

 甲板の上で跳ねまわっていたロンは、突然の揺れにふらつき倒れそうになる。それを素早く察したクオリスはロンの背後に回り、彼女を受け止める。身体に来る衝撃を覚悟して固く目を閉じていてロンは、背中に当たった柔らかい感触に驚いて目を開いた。

「ロン、大丈夫か?」

「うん、ありがとう、大丈夫……だけど、」

「だけど?」

 視線を四方へ彷徨わせ、物言いたげなロンに、クオリスはおうむ返しで問う。

「……胸、大きいね……」ロンの蚊の鳴くような細い声は、港到着を告げる船乗りの怒鳴り声にかき消された。

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