第25話 エドワードの提案

「男は狼ですからね。」

エドワードは立ち上がると懐から三つ折に畳まれた紙を取り出し、そのまま弁護士の佐藤に渡す。

佐藤は怪訝な顔をしながらもその手紙を読み終わると、

「...わかりました。私は依頼主のいう通りに動くだけですので。失礼します。」

とそう冷たく言うとそのまま秋本家を後にすると、2度と三姫達の前に現れる事はなかった。


「三姫さま」

エドワードは地べたに座り込んだままの三姫のところまでまたやってくると、またゆっくりと腰を下ろす。 久しぶりに会った三姫の顔はやつれており体も細くなっていた。

「エドワードさま...」

恐怖で体が震えているため、声にまでそれが現れる。

「もう知らない男のところへ嫁がなくていいのですよ。 」

「い、いま、なんとおっしゃって...?」

「私が倍の額を払うと相手方に申し出たら、あっさり引いてくれました。」

「倍の額!?」

思わず目を見開く。


私の為にそんな事を!!


さっきの悲しみの涙とは違い、今度は感激の涙が溢れてくる。

「さあ、もう泣かないで私にお顔をお見せください」

まだ一人では立ち上がれない為、エドワードの助けを借りて何とか立つと、思いっきり頭を下げた。

「あの...エドワードさま...ありがとうございます! お金はどんなに時間がかかっても必ず返します!こんなに良いお友達がいて私は幸せですわ! 柚子や他の友達も誰からも連絡なくて....悠仁さまからも........」

最後は自分にしか聞こえない声で言っては出てくる涙を押さえ込む。

「お金の事は気にしないでください。」

エドワードは大した事ではないという風にさらっというので、思わず驚いて顔を上げた。

「で、でもっ!」

「ではどのように返済を?」

「っ!!」

頭をかなずちで殴られたような衝撃が走る


そうだわ。どう返済していけば......


この時代、女子というだけで差別され、男性の庇護がなければ生きていけず、ましてや三姫みたいに身につけるものすら一人でやった事がない華族令嬢にとって働くのは過酷な世の中。

何も言えなくなった三姫に、エドワードが微笑みながら手を優しく包み込む。

「ふふ、意地悪を言ってごめんなさい。三姫さまさえよろしければ......日本を離れませんか?」

「えっ!?日本を!?」

驚きすぎて思わず、すっとんきょうな声を出す。

「はい。イギリスでやり直しませんか?」


やり直す...イギリスで...?


三姫は自分では思いつかない案に思わず呆けて、言葉を失う。


「このピンチをチャンスに変えましょう!」

エドワードは明るい声で三姫を誘うが、三姫の顔は迷いに満ちている。

「エドワードさまの申し出はありがたいわ。でも、でも、私は......」

「ユージンの事ですよね?......彼にならさっき会いましたよ」

「悠仁さまとお会いになっていたの?何て仰っていたのか教えて!!」

悠仁に会ったという言葉に反応して、敬語も忘れてエドワードの腕に強く掴みかかる。


きっと、「助けるから待ってなさい」と仰られるはずだわ!あら、そうしたら何故エドワードさまは英国に誘ったのかしら??......怖いわ......まさか......!


「本当に聞きたいですか?」


自分の思いにとっくに気付いているエドワードに、そう聞かれた三姫は話を聞く決心をつけるのでした。









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