第16話 東京駅
悠仁の告白から三日後の東京駅は別れを惜しむもの、再会を喜びあうものや様々な人々で溢れかえっており、待ち人を探すのは難しそうだった。
悠仁さまどこかしら?こんな人混みでは見つけるのも苦労するわ~
約束の時間に少し早めにきた三姫は、日本人女性の平均身長をやや下回る身長を少し背伸びしながら辺りをキョロキョロと見渡す。
「ねえ?あそこの男性素敵じゃなーい?」
「えっ!?どこどこ?.....あら、やーだ!本当!!あと20年若かったら付き合ったのに~」
「あんたじゃ相手にされないわよ。」
声をする方を振り向くと2人の中年女性たちは娘時代に戻ったかのように黄色い声をあげながら楽しく喋り帰宅していくその先に両手をポッケに入れながらも姿勢を真っ直ぐにして立っている悠仁が目に入ってくる。
三姫に気がつくと悠仁はニコッと微笑む。
「私の思いをちゃんと言葉に伝えよう」
ごくっと三姫は息を飲み込む。
瞳は決意に満ちながら悠仁の元へコツコツとヒールを鳴らしながら近づく。
悠仁の前に立つといきなり両手首を捕まれる。力は程よく入っており逃がさないという思いが悠仁の手から伝わってきた。
「三姫来てくれてありがとう!返事は?」
「えっ?いきなりそれですか?」
「それ以外に今日話すことある?」
「そ、そ、そうですね、えーっと」
「早くしてくれるかな?」
いつもの余裕ある悠仁らしくなく、少し不満そうな声で返事を急かす。だが同時にどこか懇願するかのような目で三姫をずっと見つめる。
こんなにも真剣な顔の悠仁さまを見たことないわ。本当に私の事を......
「わ、私でよろしければお願いします」
三姫が勢いよく頭を下げる。
するといきなり顔を上げられては唇を塞がれた。
「んむっ、ぐふっ」
いきなりの口付けに三姫は思わず可愛らしくない声を出してしまう。
二人の光景をみた周りからは、きゃ~っ!と黄色い声を上げる女性から、若くていいね~というお年寄りに、兄ちゃんいいね!というおじさん達の様々な声が飛び交う。
それらの声も相互して三姫の顔はみるみるとイチゴ色になり悠仁をきっと見上げ大声で叫んだ。
「もっと、もっと..........
ロマンチックなファーストキスをしたかったわ!!」
叫んだことにより今度は遠くにいる人達にまで注目され顔がますます紅潮する三姫に対し悠仁のしてやったりの顔をみた三姫は、悠仁さまはやっぱり意地悪!と思うのであった。
それからいくばかの時間が過ぎると夕日が辺りをオレンジ色に染めだす。
そろそろ帰らないと叱られるわ。
悠仁にその事を伝えると徒歩で帰宅することになった。
二人は手を繋ぎながら歩む。周りの人々は訝しげな顔をしながらも、二人は気にせずどんどん通りをすぎていく。
どれくらいの時がたったのだろうか三姫の自宅に着く頃には辺りは真っ暗になっていた。
「もうお家についてしまったわ。早いものね」
その言葉に気を良くした悠仁は三姫を強く抱きしめがら、「これから、こうしてデートをしようね」と言って別れた。
興奮が冷めずルンルン気分で自宅に入るとちょうど父とばったり出くわす
「あっ、お父様、ちょっとお話が....」
三姫に呼び止められた父親が振り向く。顔はいささか元気がなさそうに見える
「三姫か......なんだ?」
「私ね、椿家の悠仁様とお付き合いする事になったの。これで、お父様たちも安心させることが出来るわね」
三姫は父親からの喜びの声を待ったが、おとずれることはなく、むしろ暗い表情のまま、「そうか」と一言言うとそのまま三姫の前を横切っていった。
「変なお父様......」
父親の背中が見えなくなるまで見続けたあと、悠仁の事を母親と敬子に報告しに行く。
そのまま二人から日付が変わるまで、根掘り葉掘り聞かれては盛り上がった。
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