第14話 馬車
とある何の変哲もない日、三姫の友達、
「行けない」
とあっさり断られる
「何でよ?いつもなら『仕方ない』と言いながら付いてきてくれるのに!」
「最近良い人が出来たから」
ガーン!!
とうとうお兄様にそのような方が.....!
三姫は引き下がるしかなく、悩みながら自室へ戻る途中、玄関から声が聞こえて来る
「ごめんください」
誰かしら?今日は来客はないはずよ?
三姫は訪問者を確かめるべく玄関へ向かうとそこには見知った人が立っていた
「ゆ、悠仁様!?ごきげんよう。何か御用でしょうか?」
突然現れた悠仁に思わず顔が赤くなるのを感じながら話しかける。
「用があるから来たんだよ。」
「誰にですか?」
「三姫に」
「わ、私にですか!?」
意外すぎて思わず声が高くなる
「うん、鶴野さんから招待状がきているでしょ?同伴者が必要と書いてあるから三姫を誘いにきたんだよ」
相変わらず欧米人並にスーツが似合うこの男は、嫌なわけないよね?と自信たっぷりな態度を示しす。
「な、なぜ私と?」
他にもっと良い令嬢いるでしょ?私でなくても....
「ほら、今回の噂のせいで迷惑をかけてしまったと思ってね。その償いのつもりで誘ったのだけど......もう別の誰かに誘われている?物好きがいるね~」
「い、い、いませんよ!もう、からかうのはやめてください!」
拳を上げる三姫に、悪い悪いと言いながら悠仁は笑う。
「で、返事は?」
「い、行ってあげてもいいですよ」
「可愛くない返事だね」
やれやれと悠仁は首を振り
「じゃ、6時に迎えにくるね」
悠仁は三姫の頭をポンポンと手でやさしく叩くと、じゃあねと手をひらひらさせて帰って行った
「普通にお誘いになればいいのに!」
本当にからかうのがお好きなのだから!!
文句を言いながら何時もより大きめの足音を出して自室に入る。ただその顔はゆでダコのように真っ赤に染まっていた。
舞踏会当日
「やあ、三姫」
約束の6時ぴったりに悠仁はやってきた。
タキシードを着用しシルクハットも被った悠仁は欧州の貴婦人ですら虜にしてしまうくらい完璧な出で立ちで迎えに来た。
「ごきげんよう、悠仁様」
三姫は年齢の割には落ち着いた紺色のドレスを身にまとい、髪の毛もしっかりとアップにしてあった。首や耳には宝石を身に着けて、華やかさを醸し出す。
「今夜は寒い。これを羽織り」
悠仁は自分の首もとにかけていた白いストールを三姫の肩周りにかけてはほのかに甘い香りを放つ。
三姫はそのまま悠仁の馬車に乗り2人は鶴野家へと向かう
椿家程広くないにしても柚子の家もまた立派な欧州スタイルに作られている。
馬車から降りた三姫は柚子の姿を見るなり、一目散に彼女の元へ走って行った。
「柚子、久しぶり」
「うん、久しぶりだね!」
悠仁に気付いた柚子が、あの噂は本当だったの?と聞いてきたが違うわよと言って否定した。柚子は怪しいという目つきをしながらも信じてくれた。
噂の影響もあってか三姫と悠仁はかなり目立っていた。だが、これ以上目立つ事は起きないと考え、気にせずに悠仁にエスコートされた。
イギリスで洗練されたマナーを習得してきた悠仁と踊るのはある意味楽で思いのほか三姫は楽しめた。
踊るのが疲れてくるのを察した悠仁は、曲が終わると共に自然にダンスフロアから三姫を連れ出し飲み物を持ってきた。 かなりの気配り上手。
「ありがとうございます」
飲み物を一気に飲み干すと、今日ほど緊張した日はないわとこぼす
「三姫でも緊張するんだね」
悠仁はこれは愉快と言いながら、ふふふと笑った
「っもう、またおからかいになって」
ここまでくると、癖よね、癖!
三姫はそう思う事で苛々を鎮める事にした。
舞踏会がお開きなると、少しずつ招待客がいなくなる
「そろそろ、私たちも帰るかね?」
悠仁様に”私たち”と言われた事に何故か私はドキッとしてうなずいた。
柚子にまた会おうねと約束し自宅に送ってもらうために、再び馬車に乗り込む
「今日はありがとうございます。悠仁さまのおかげで柚子に会えましたし、楽しめました。 あと周りから例の噂について嫌っていう程聞かれましたけどね」
苦笑をしながらお礼をいうと前に座っていた悠仁が両手を延ばすと三姫の頬を挟み込む。そしてそのまま自分と目が合う高さに顔を持ち上げる
「その噂、本当にしない?」
悠仁の唐突な言葉に三姫の脳は思考停止し、カタコトカタコトと馬車の走る音が耳に入ってくるだけであった。
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