クリスマス(先輩と私)
星降る聖夜、彩られた街並み、雪も少し降ってきて、想像するだけで無限に広がってくる現実。先輩の家でコタツに居座っている私は、この暖かい牢獄に閉じ込められて、いや、十分楽しんでいるよ、最高だよ。でも、スマホのアプリでいろんな人のつぶやきや写真を見ていると、自分は非リア充だと痛感した。
元々は先輩の家でパーティーをするはずだったが、先輩がケーキを運んでくる時に転んでぐちゃぐちゃになったから雰囲気が台無しになった。しかも先輩の家はなんの飾り付けもない、唯一いいといえばコタツがあるだけだろうか。そう思い私は温まっている。いや、ダメだろ。時計を見る、時間は結構遅い。
私はこんな先輩でも、密かに好意を抱いている。それは誰にも言っていなくて、秘密にしている。自分ではバレないでいるつもりだ、そういう事には結構用心深い。でも、流石にこの状況は嫌だ。暇、暇、暇。
「先輩!」
私は声のトーンを上げて、先輩に言った。先輩は驚いた拍子に喉にミカンを詰まらせてお茶を一気に飲み込んだ。
「んだよ」ダルそうな声で私のことを見上げた。私は冷たい声で「暇です」と放った。
「確かに、なにする?ちなみ今日は一年で最も」先輩が話し終わる前に、私の声が割り込んだ。真っ赤になった顔で私は言った。
「知ってます!」慌てた私の声に先輩は「お前、変態か?」私は足で先輩のことを蹴った「いてぇ」痛くないな。
もう外に出るのも面倒臭い、出たい気持ちは山々だけど、先輩のコタツが気持ち良すぎる、ブラックホール。どうせ外は恋人だらけだろ、ガッデム。心の中で呪ってやった。
「お前さぁ、彼氏とかいないの?せっかくのクリスマスでこんな家」
「別にいいんですよ、コタツ目当てですし」先輩の鈍さには、感謝している。実はというと先輩とクリスマスデートも考えたこともあるのだ、でも流石におかしいと思われそうなのでやめた。
「そうか、まぁ俺とクリスマスこうして一緒に居られるのは女の子でお前だけかもな」
先輩の優しい笑顔とその言葉が、私の心拍数を上げる薬みたいになってくる。
「か、勝手なこと言わないでくださいよ」
私はもう一度、先輩を蹴る。とっとと先輩に告白すれば、今頃デートできたかもしれないが、私にはそんな勇気がない、もしも失敗してまたこうして先輩と一緒に居られなくなったらどうしようと思う。
「ケーキ崩れちゃったなぁ」
先輩が悲しそうに箱を見ながら言った、無残なケーキの屍があの箱の中に詰まっている。キモい。
「どうしましょうか」
「知らん」先輩の異様に自信のある口調が少しムカついた。
少し、間を開けて、先輩が少し緊張したように私の顔を見た。私も動揺して、つい緊張する。
「来年もさ、こうやって……」
口籠る先輩は、珍しいと思った。私はその一字一句を聞き取ろうと耳を澄ませる。
「来年もさ、こうやってクリスマスを過ごそうぜ」
時間の神様。どうせならこのまま宇宙の時間を止めてくれ。
満面の微笑みだと、自分でもわかる、それほど、嬉しかった。他人には小さな一言かもしれない、だけど私はその言葉の意義がとても大きく感じた。
「仕方ないですねぇ」
小さく、嬉しさがバレない程度で息を吸った。
「来年も寂しがりやの先輩の為に来てやりますよ」
世界に響き渡る鈴の音が、私の耳にも届いた。
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