第9話 小さな助けは、大きな励まし②
輝耶は小首を傾げる。
「だれ? なんであたしの名前知ってるの?」
「けけけ、俺が色男んなりすぎて気づけねぇってか」
「んー? どこかで会ったっけ?」
「あっから名前知ってんだろ?」
少年はそう言うと、柿の実のごとくぽとりと着地した。
開けっぱなしの母屋からもれる灯りが、少年の容姿をゆらゆらと照らしだす。
ぼさぼさの黒髪に、
どこかで見たような、そうでもないような、輝耶は昔の記憶を
「ああ! こ、小助!?」
「へへ、やっと気づいたのかよ。おっせーなぁ」
輝耶に
「ほんとに小助!? どうしたの急に!」
「へへ、まぁ、ちょっくら?」
「うわぁ、久しぶり! 元気だった?」
「おう、元気元気! って言いてぇところだけど、なんでぇこの辺、息が
小助がしかめっつらで、片手を
そういえば、小助は妖怪だったなと輝耶は今更思い出す。
「うん、最近小さい妖怪が増えてね、野菜とかかじられちゃうから貼ってるんだ」
「ふぅん、そうかい。こっちは運び屋の
ため息をつく小助に、祖父が
「小助よ、ここへ何をしに来た。いつもは手紙で来訪の日程を伝えるではないか」
小助がギクリと肩を
「へへ、まあ、ちょっくら思うことありまして。そんでー、ちぃっとばかしここに泊まらしてくんねぇかな……?」
「妖怪を魔除け屋に泊まらせるわけにはいかん。店の信用に関わるのでな」
「……へっ、そうですかよ」
小助がしゅんと肩を落とした。
輝耶はなんとかしてあげたかったが、祖父の言うことも一理ある。
「そうだわ、母屋の二階が空いてる! 家の護符を全部
「これっ、店の
「平気よ。あそこはお店の外からじゃ見えないし。ねぇいいでしょ~祖父ちゃ~ん」
お願いっ、と祖父の太い腕に抱きついた。
祖父はしばらく
「やったぁ! 小助、明日んなったらいっしょに遊ぼうね!」
「おう! おめえちっと見ねぇうちにやるようンなったなぁ! 爺ちゃんもありがとさん!」
小助が大喜びで陰直の背中に飛び乗った。そして、すぐにパッと離れる。
「そうだ俺、
小助は高下駄でぐっと地面を踏みしめると、勢いよく
天狗の身体能力は、人間のそれをはるかに
「へへ、屋根に荷物忘れちまってた。この中に
大きな黒い風呂敷包みを小脇に、小助が
細っこい腕を風呂敷の中へ突っこみ、小さな包みを取り出して輝耶に渡した。
「俺が手伝いに入ってる江戸職人のおかみさんから、持ってけって押し付けられちまって」
「江戸ものなの!? わぁ、ありがとう!」
「へへ、あいっかわらず食いもんに目がねぇの安心したわ。んじゃあ今夜から世話んなら。よろしくな」
嬉しい再会に、輝耶と小助は笑いあう。
明日から小助をいろんなお店につれてって、楽しんでいってもらおう、そして今までどんなふうに過ごしてきたのか、たくさん話そう。
輝耶の胸は華やいだ。
「そうだわ、小助にも騰蛇さんたち紹介しなくっちゃ」
「へぇ? もしかしてガキの頃、おめえをいじめてたっつぅ神将かよ」
「う……そ、そうよ。よく覚えてるわね」
「へへ、今度なんかあったら俺が
小助がえへんと胸を張った。
しかし、離れの一室で読書中の朱雀は小助が会いに来ても生返事で、騰蛇は祖父の体から出てこないという不愛想ぶり。
「なんでぃてめえら!
小助と神将がケンカばかりにならないか、早くも心配になる輝耶であった。
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