花舞い恋狐伝【祝1万PV感謝感涙~!】
小花ソルト(一話四千字内を標準に執筆中)
第一編
序章
第0話 輝く少女
「まさか、この体を使うことになるだなんて」
吹きすさぶ春風に漆黒色の長い髪がなびく。
薄物の
燃えたぎる鉄色の
その腕が、刀の重さに震えだした。
あまりにひ弱な体力に、少女の意識を乗っ取っているモノは、ため息が出た。
「やはりこの体、使い勝手が悪いですね……」
巨大な
そして、一気に振り下ろす。
均衡を崩して、前のめりによろけてドテッと膝をついた。
少女の体幹も筋肉もできていない体が、長屋一家の安眠を妨げた。
この体の本当の持ち主は、なんの武芸も習っていない商人の娘。
重たい武器を操り、敵を討ち取って帰るなど、はなから無理な話であった。
しかし今はこの体しか頼れない。
この、
「こーんな調子でどう戦えというのですか」
キレの悪い
両腕が悲鳴をあげ、太刀を持ったままだらりと垂れた。
刀身を
あとに残ったのは、ごつごつした黒い
「……」
少女は再び両手で持ち上げると、火色を刀身に宿らせて腕の
「早く私に、慣らさなければ」
疲労した少女の足取りが重くなってきた。
それでも少女の意識を乗っ取っているモノは、誰もいない屋根を歩いては、ときおり跳躍して、宙を一閃した。
……その様子を、一人の美女、
「やっぱり輝耶ちゃんね」
これから自分が、この細くて息子すら満足にあやしてやれなかった手で、あの娘を殺めねばならぬのだ。
一族を、守るために。
「ごめんね……本当に、ごめんなさい、輝耶ちゃん……」
由良姫はまとった白い
あの少女は幼い
けれど今は、化け物に
化け物に
(そんなことになるなら、いっそ命を奪ったほうが輝耶ちゃんも幸せよ!)
そう自分に言い聞かせても、
自分もすぐに命を絶とうと決意し、
釘は弧を描きながら、けれども少女までは距離が足りずに、真っ逆さまへ落ちてゆく。
ぴたりと、釘が空中で止まった。
尖った先を、少女の首筋に向け、夜風を切り裂いて真っすぐ飛んでゆく。
由良姫が操っているのだ。
このまま進めば少女の首に刺さる。
(ああっ見てられない!)
由良姫は恐ろしくて、白い着物の
白い裘の下からのぞく、鮮やかな
少女も迫る気配に気づき、太刀を軽く振り上げた。
キン、と金属音が鳴った。
それは長屋通りを
そして、少女が刀身で釘を
はっと顔を上げた由良姫に、
少女が無事だった代わりに、自分の存在が知られてしまったのだ。
「大変! 逃げて!」
由良姫は管狐に指示したが、それよりも先に、少女が体重の有無を
真っ赤に燃える鉄色の軌跡が振り下ろされ、逃げようとする由良姫の背中を強打。
上がりそうになった悲鳴を喉で押しつぶし、由良姫は管狐の背中を叩いて急がせた。
まとう
「逃がしません! ここで始末しま……ああっ! ちょっと、輝耶さん! しっかりなさい!」
少女の体力が限界に達して、体の均衡が大きく崩れた。
頑丈そうな
灰色の雲間へ逃げおおす由良姫の姿が、あっと言う間に見えなくなった。
「こんな好機を逃すなんて!」
仰向けで動けない少女は、こぶしで屋根を叩いたのだった。
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