Small-Heroes

@RRR50

二人の 『独り』(上)


「ずっと独りだった。楽しくも悲しくもない。何も感じない。それなら生きていけると思った。けど、俺の場合は『一人』ではなく、『独り』でなくてはならない。俺は『独り』の意味を考えなかった。それは地獄であって悲しみなんか感じ取れない。苦しみでしかないからだ。最初は怖かった。助けてくれる人がいない。どうすることもできないからだ。それが何年も続けば『独り』に恐怖を感じず、独り立ちしたと勘違いした。本当は時が経つほど『独り』が怖くなる。『独り』を感じれば誰かにすがりたくなる。助けを求める。そうなれば潰されて俺が悪者になる。何もしてない。助けを求めてただけなのに・・・。だから俺は考えなかった。考えなければ何も感じない。感じなければ生きていける。それしかなかった。こんな人生に何の意味があるだろうか・・・。



ずっと怖かった。物心ついた時から『独り』で周りは醜い人間ばかり。助けてくれても皆傷つく。私に関わった人は潰される。『独り』になるのはすぐだった。

『独り』なら誰も傷つかない。私だけに悪意が集中する。それなら平和でいいと思っている。思っている・・・はずなのに・・・無性に怖くなる。私じゃあ何もできない。けど声を挙げたら誰かが傷つく。結局『独り』でいる。どう足掻いても『独り』になる。何度も何度も泣いた。声を圧し殺して、誰にも気づかれずに。誰も私のことを見ない・・・いや・・・人として見てくれない。都合のいいようにしか見てくれない。私を見てくれる人でさえも・・・。だったら、『独り』でいる。『独り』なら誰も傷つかない。それで救えるならそれでいい。同じことを何度も考えて生きてきた。こんなのいつまで続くの・・・。





深夜の淀み1つもない、言わば夜の快晴の日。小綺麗なビルと住宅街が建ち並ぶ小さな都会に1人の女性が走っていた。

「ハァっ!ハァっ!ハァっ!・・・」

女性というより、黒いスーツを身につけた、大人びた少女が全力疾走で逃げるようにして走っていた。背後から50人ぐらいの黒服の男たちが無言で少女を追いかけていた。

「ハァっ!ハァっ!ハァっ!・・・っ!」

逃げ続けていた少女は目の前から100人前後の黒服の男たちが目前に迫っていた。しかし少女は慌てることなく、すぐ横のオフィスビルに入っていった。

少女に続き男たちが続々とビルに入り追いかけた。

屋上までかけ上がった少女はたち止まらずに疾走した。

そして手すりを飛び越えた。

飛び降りた・・・違う、隣のビルに飛び移った。ビルの間は5㍍前後はあるが高さは30㍍はあるビルから飛び移ったのだ。少女は体を背中から一回転して着地した。そのまま立ち上がり走り出した少女はまたビルを飛び移った。その光景はまるで公園のジャンプ遊具で遊んでいるかのようだった。

ようやく屋上についた男たちは少女がビルを飛ひ移っている光景をただ当たり前のように見ていた。先頭にいた一番長身の男が端末をとりどこかに連絡を取った。


その後も少女はビルを飛び移り続け、ビルとビルの間やデザインを利用しながら高層ビルをよじ登り、50㍍はあるビルの屋上にたどり着いた。逃げきったと思った少女は足を止めて倒れ落ちた。

「ゼェーっハァーっゲッゲホっハァーっゼェー・・・」

大人びた、年相応の少女の体は限界をとうに越えていた。倒れた体から出るのは汗と酸素を無理矢理吸うための力強い呼吸だけだった。

起き上がる気配のないまま、体力を回復させるために呼吸をしながらそのまま横になっていた。少女にとっては束の間の安息でいた。


倒れてどのくらい時間が経ったのだろうか。少女にはわからない。呼吸をし続けて体力を取り戻したかと思えば、体を動かせば疲れが一気に出てその場を動くことができない。少女は動きたい。すぐに、その場を離れてどこかへ行きたい。そうしたい。しかし、何度動こうとしてもから出るが動けない。少女は少しずつ焦りを見せた。無理矢理にでも動きたかった。なぜなら・・・


ダーン!カッカッカッー

「っ!」

屋上の扉が勢いよく開いたと同時に大勢の男たちが続々と少女に近づく。それを見た少女は動かなかったはずの体が反応した。命を危機を感じた。一瞬で起き上がり屋上の端に逃げた。しかし、飛び移るにも周りに同じ高さのビルはない。ビルの側面によじ登ろうとするも近隣のビルから狙撃手が待機していた。追い込まれた少女は一歩下がれば突き落とされるまでに迫られた。


「・・・」

「・・・」

双方無言を貫いているが、追い込む側と追い込まれた側の差ははっきりしていた。

少女はビルの端に引きずるように移動する。男たちも合わせて移動する。そして四隅に追い込まれた。後ろ180度は狙撃手が、前から180度は大勢の男たちいた。上空にはヘリが飛んでおり、下では上層階から男たちが複数の窓から出っ張りを作ってマットを敷いて待機しており、少女を四方八方取り囲んだ。しかし、左右は少女を取り囲みながらも上下では、50mの高さはあるが怪我させないような体制を取っていた。矛盾する集団の行動に少女は見向きもしなかった。少女は集団が自分を生きたまま捕まえようと必死なのはなっているのは知っていた。だから少女が余計な行動をしないようにしつつも、もしものための対応の準備のしていることには気がついていた。だからと言って、大人しく捕まえられるつもりは全くなかった。このまま捕まっても良いことは何一つもない。むしろ生き地獄なのは確実。一縷の希を掛けて逃げるという選択肢を選んだからこそ、今に至っているわけだ。

目の前の黒いスーツ男たちを睨む少女は、覚悟を決めて口を開こうとしたが・・・

「君が逃げることで危害が及ぶ人間がいる。例えば・・・とか。」

「っ!?」

急な風の音でかき消されたが、先頭に立つリーダー格の男が放った言葉は、少女にとってはかなり響いたようだ。現に少女は追い詰められていたとはいえ男たちに対抗する意思があったが、明らかに動揺の表情へと変わっていた。

その表情を見逃さなかったリーダー格の男は少女の前に迫ってきた。ついて行く形で後ろの男たちも少女に迫ってきた。

既に追い込まれている少女は男たちがグイグイ目の前に迫ってきたことでさらに追い込まれた。

男たちとの差は、15mあったがいつのまにか5mまで迫ってきた。そして手を伸ばせば少女に触れそうなまでに近づいてきた。少女はギリギリまで後ろに下がるが、これ以上下がると足を踏み外して落ちる寸前までに追い詰められた。いっそのこと、命を懸けて大勢の男たちと戦う覚悟もした。しかし少女の体力はあまり残っていなかったがそうも言ってられない。前は男たちが、後ろには狙撃主が、上にはヘリコプターが少女を捕らえる準備をしていた。戦う以外の選択肢はなかった。リーダー格の男が少女の距離を一気に縮め、少女が残ってる体力を振り絞って男に向かって戦うために向かおうと足を前に出そうとしたが・・・。

「戦いたければそれでいい。しかし自分は君を傷つけたくはない。君みたいな美人はそうはいない。自分の”物”になれば君に身と守りたいものの安全は保証する。自分の“物”になれ!それが君が選ぶべき唯一の道だ!」


リーダー格の男が少女に対して助けてやると言い出してきた。しかし、それは少女にとっては一生飼い殺しを意味する。ましてや男に少女を思う気持ちは全くない。男の快楽を満たすための“物”としか見ていない。それを見抜いていた。少女は男の言葉を断固断りたかったが、状況は最悪だ。追い込まれている状況で断ってもただ捕らえられるだけ。命乞いで男の要求を受け入れても待っているのは生き地獄のみ。運良く逃げ果せてもいつ捕まるのか恐怖に怯えて過ごすことになる。どう進んでも生き地獄なら、逃げ果せて身近の恐怖を取り除きたい。奴隷船の如く、劣悪の環境の中で捕らわれの身でいた少女からすれば、少しでも現状から逃げ出したい。だが逃げ果せても自分の守りたいものに危害が加わることは間違いない。男の要求を受け入れて身近に居ることで悪徳の本丸を潰す機会を伺うことも可能だが、必ずしもそうなるとは限らない。監禁され常時監視されれば一生生き地獄。生き地獄を担保にしたところで守りたいものだって危害を加えないという保証はない。監禁され奴隷状態の現状では本丸を潰せない。だからこそ逃亡することで少しでも自由な立場から悪徳の本丸に食って掛かろうと考えていたが・・・。


 少女は自分が逃亡した理由と現状を照らし合わせて必死で考えた。しかし答えはわからない。わかるはずがない。どうすればいいのか・・・。非情にも男は少女に迫り胸ぐらを掴んできた。

「いい加減決めろ!自分の“物”になれ! 然もなけらば今ここでo・・・」

「っ!?」

男が嫌らしくも暴力的な目で少女を脅したが少女は男を振り払ったが男は少女に掴みかかった。少女は抵抗して再度振り払った。

その時・・・「っ!?」

男のわいせつな抵抗を振り払うために形振り構わず動き回っていたため自分が屋上の淵に迫られたいたことを忘れていた。加えてビル風の影響で右足を踏み外してしまった。男は掴もうと手を出してきたが、少女は手を引っ込んだ。そのため、少女は後ろに、そして斜め下に背中から落ちていった。そして少女の左足が淵から離れ少女は屋上から下に落ちていく。一瞬のうちにビルの最上階から落下していく。ビルの窓があっという間に過ぎ去っていく。転落するのも時間の問題。しかし、地上にはマットを敷いて待機していた男たちが満を持して少女の落下位置で準備していた。少女はこれが自分の最期になろうであることを覚悟できなかったが、助かるためには男たちが準備するマットに向かって落下しなければならない。少女にとっては地獄だった。

“死ぬか地獄か”

どちらを選んでも状況は最悪だ。少女はどうすることも出来ない現状に最早憤りを感じていた。

“どうしてこんなことばっかり・・・”と頭の中で呟くもどうすることも出来ない。

「誰か・・・助けて・・・」

そう呟く少女の願いも空しく男たちのもとに落下していく。少女は目を瞑って諦めた。

その時だった。急激に街中に光が走った。

光は一瞬で街全体を包み、周囲が見渡せなくなった。あまりに突然で強力すぎる光だったため男たちはすぐに目を閉じた。リーダー格の男も地上で待機していた男たちも当然のように目を閉じた。

少女は光が放つ前から目を閉じていたため光のことに気づかなかった。少女は今後の地獄のことで悲しんでいたため、周りの変化を感じ取れなかった。助けが欲しい少女はこう呟いた。

「別のところに逃げたい・・・」

そう呟きながら少女は落下していく。その状態で光が照らし続ける中、少女は少しずつ消えていく。それはまるで砂状になって消えてなくなるかの如く・・・


一瞬で周囲を包んだ光は数分に渡って街中を照らし続け、男たちの行動を制止していた。地上でマットを掴んでいた男たちもマットから手を話して目を覆う者もいれば、動揺して手を離した者もいた。あまりの長さに動揺と疲労、そして恐怖感が湧いてきた。この光はいつまで続くのか、目を開けられるのか、街はどうなっているのか、自分は無事なのか・・・ただ恐怖でしかなかった。

そんな恐怖を与えた、男たちを困惑させていた光が少しずつ弱まっていき、いつの間にか消えていった。光が消えたのを感じたのか、男たちは少しずつ瞼を開いていく。辺りを見渡して光が消えているのを確認すると、ようやくかという安心感が満たされていた。中には身体に異常がないか確認する者もいた。

身体に異常はない、周囲にも変化はない。男たちは安心した。ただ何が起こったのか未だに理解できず、ただ困惑するしかなかった。そのような状況下で動揺と困惑、恐怖感で混乱状態の男たちは自分たちが何の任務に当たっているのか忘れていた。


変化が全くなく時間が経ちようやく落ち着きが出てきた頃、リーダー格の男が声を上げた。

「あの子はどうした?下はどうなっている?」

思い出すように少女の安否を確認したく屋上の淵から地上を見渡すが、少女はいなかった。

「おい!あの子はどうした!どこにいる!」

端末で地上にいる男の仲間に連絡を取った。リーダー格の男は少女がいないことに非常に動揺していた。

「どこにもいません。」

地上にいた仲間が報告するが・・・

「そんなはずはない!確かに下に落ちていったはずだ!もっと隈無く探せ!」

リーダー格の男に指示された男たちはすぐに少女を探し回った。マットの下、ビルの回り、街路樹などを探したが見つからない。

報告を受けたリーダー格の男は苛立ちを隠せなかった。

「ビルの中も探せ!すぐにだ!」

屋上にいた仲間に声を荒げて指示を出した。指示を受けた仲間はビルの中を隅なく探し回ったがどこにも見当たらない。窓を開けた、もしくは割って入った形跡も地上に少女が落ちた形跡すら無かった。

「ビルの中は誰もいません。」「下も隈無く探しましたが見つかりません。」

報告を受けたリーダー格の男は困惑と動揺で一杯だった「何故だ・・・確かに落ちていったはず・・・この目で見たはずなのに・・・あの光の間に何が起こった・・・」

つい先頃までリーダー格の男の目の前にいた少女は、まるで神隠しの如く、神に願いを叶えてくれたように姿を消していた。

目の前の現状を理解できない男たちは、ただ呆然と目の前を眺め、困惑するしかなかった・・・。

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