第36話 The First Judgement -Farce-

裁判という名の茶番劇は始まった

主演は私


掲げられた名目は窃盗によるものだけだったが

民警達の狙いは 立件できなかった殺人であろう


この茶番劇で私がボロを出さないか?

殺人を匂わす何かを出さないか?

彼等の声が聞こえるようだった


その声に応えるような 嘲笑うような

私はそんなイメージを作り上げ

舞台本番へと臨んだ


年老いたことで薄くなった髪を七三にし

黒縁の眼鏡をかけた固いお役人スタイルで

丁寧な言葉遣いと温厚な振る舞いを心掛け

最上級の紳士であるように演じた


私はその役を

どんな役者よりも上手く演じられただろう

何よりも自然に演じられただろう

なぜなら


その演技はずっとずっとしてきたもの

それはチカチーロ・ファミリー内での私の姿

そして職場内での私の姿

そう 表面上だけの私


その私で

茶番劇は繰り広げられてゆく


私にとっての最上結果は 全て冤罪として即日釈放

次点は窃盗の冤罪のみ被せられること

最悪は殺人経歴が明白にされること


最上であれば文句なしなのだが

レーナの件やその後の流れを見る限り

それは非常に難しいと分かっていた


レーナ殺しの時 アレクサンドル・クラフチェンコが自白したと報道された

彼が強姦殺人の前科持ちだったせいなのか

彼の妻も友もかばってくれなかったようだ


その後彼の裁判は 彼が犯人として進み

彼の死刑判決で幕を下ろし


1983年 彼の死刑は執行された


その程度の民警である

その程度の裁判である


その後の連続殺人でも 政府や民警は馬鹿で意固地なまま

何の関係もない人間を何人も連行し

やってもいない犯行を次々自供させ

その内一人には自殺までさせた挙句


私の所には終ぞ誰も来ることはなかった


その程度の民警である

その程度の裁判である


裁判は完全冤罪である窃盗を確定事項とし

私を犯人として その裁判は幕を閉じた

殺人の件について話に出ることすらないまま

そちらはシロとして その裁判は幕を閉じた


窃盗の判決は実刑ではあったが

拘束される時間もその刑罰に含まれたので

裁判後数日で私は釈放となり


私が主演を務めた

裁判という名の茶番劇は終わった


だが 釈放時に件の刑事

アレクサンドル・ザナソフスキーが私の顔を見に訪れ

その彼の目を見て私はすぐに感じた


裁判所が私を見逃し 追わないとしても

民警達が私を見逃し 追わないとしても

この男だけは諦めるつもりはないと

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る