第33話 Indulgenced in the Insanity Ⅱ -Serial Killer-

そう言えば 獲物を厳選していた時があった 気がした

殺すならばどういう者がいいか熟慮していた 気がした


今ではもうそのようなことはしない どうでもいい

今重要視しているのは 殺れるかどうかだけだ

時間の限られる 他所の町での殺人タイム

あれこれ熟慮する暇はないからなのだが


私はそれで構わないものだと思っていた

獲物の反応も老若男女各々異なってくるし

それ以上に民警の捜査を撹乱させられる

良いことずくめではないか


そんなある日の獲物は 意外や意外

普通の大人の男性であった


トルカチの仕事で会った人で

話が合う振りをして 食事に誘った

ウォッカを彼にしこたま飲ませつつ

下戸な私はずっと素面のまま


後は簡単 酔っ払った彼を送る振りして

人気のない場所へと連れ込むだけだ


連れ込んだならすぐに殺しだ


その日の獲物は大人の男性なので

エッチをしようとするくんだりはない

ただただ殺すのみ


酔っ払い隙だらけな彼の首を斬ると

流石に酔いが冷めたか 彼は驚いた顔をした

血を大量に噴き出し 混乱しながらも

殺されないよう 私に対し抵抗してみせた


大人の男性は流石に力が強く

売春婦や子供を殺すより骨が折れたが

混乱中では力が発揮できる訳もなく

殺人への障害にはならず終わった


銀色に輝く月の下 朱を出し切った彼は死ぬ

彼は最後に虚ろな目を私に向け問うた


俺に何か大きな恨みでもあったのかと


アハハハ ハハハハ

私はその問いに対し 思わず笑った

最期に何て愚かなことを訊くのだろう

私はただのシリアル・キラーだ それ故


そんなものはない

ただ 殺りたいだけだ

私はそう言って笑った 嗤った


まるで宇宙人を目の当たりにしたような

その時の彼の表情は何よりも最高だった

この世の全てに絶望した 最悪な顔だった

もっとそんな顔を見続けたい気もしたが お終い


化も…


彼には話させず 私は止めを刺した

さらにザクザク切り刻み 肉塊とした

もっとザクザク切り刻み 肉片とした


彼の命はとっくのとうに終わっていたが

エッチのくんだりがなく 射精もないので

どうにも少し物足りない気がしたので


私は落ちている肉片を一つ拾い

肉屋に並んでるそれに見えたので


ポケットに入れていたライターで炙り

一つまみ食べてみた


血肉熱死 血肉熱死 血肉熱死

肉肉赤赤 肉肉赤赤 赤赤赤赤

死死死死死死死死


アハハハ ハハハハ

私は思わず笑った 大笑いした

これもまた赤くて黒い罪の味だ


肉そのものの旨味は大したことないが

その罪のスパイスで非常に美味しく頂けた


嗚呼 本当に 獲物の味も老若男女各々異なってくるし

それ以上に民警の捜査を撹乱させられる

良いことずくめではないか


どうせ民警は馬鹿ばかりだ 何もかも大丈夫だ

そう思っていた私は一つ失念していた


いくら獲物が無差別であろうと

いくら場所が無差別であろうと

いくら民警が馬鹿ばかりだろうと


これだけ殺しが続いていれば

誰しも重い腰を上げるということに

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