第5話 Eastern Front -Fear and Excitement-

ソビエト連邦対ナチス・ドイツの戦争は

最初ナチス・ドイツ有利に進んでいた


ソビエト政府に散々搾取・虐殺されてきた私達にとって

ナチス・ドイツの勝利は希望に思えた

この搾取・虐殺からの開放に思えた


それは大多数の人々にとっても同じことで

最初ナチス・ドイツの活躍・勝利は大歓迎された

人々はナチス・ドイツの勝利を願い

それは興奮の坩堝と化していた


私もそんな彼等に同調しながら

ナチス・ドイツの活躍に心躍らせ 興奮していた

このナチス・ドイツの勝利の先に

幸福があると信じて 明るい未来を思い描き

期待を寄せていた


その一方で私は恐れも抱いていた

戦争の名の下にたくさんの人が殺されている

何百万 何千万の人が殺されている にも関わらず

誰もその悲劇を特別視しようとしない

屍の山をおかしなものとは思わない


それは恐ろしいものだと感じはしたが 私は幼かったので

ナチス・ドイツが勝てばこのような悲劇は終わると思っていた

ナチス・ドイツが勝てばこのような恐怖は終わると思っていた


そんな私達にとって 唯一で最大の過ちは

敵の敵は決して味方なんかではなく

ナチス・ドイツもまた味方ではなかったことだ


ナチス・ドイツが勝ったとしても

私達が解放されることはない

ナチス・ドイツが勝ったとしても

私達は幸福にはなれない

搾取・虐殺される日々は続く


要は支配者の名が変わるだけだ


その事実に気付いた時

人々の興奮は終焉を迎えた


対ナチス・ドイツの戦争で

ソビエト政府が戦況をひっくり返すと

民意もまたひっくり返るようになった


ナチス・ドイツが有利だった頃はそちらに転び

ソビエト政府が盛り返せばあっさり戻る

コロコロ簡単に裏切るその様も

私は恐ろしいと感じていた


その後戦争はソビエト政府の勝利で終わり

ナチス・ドイツは世界的に崩壊を迎えた

それと同時に


人々の中でナチス・ドイツを応援したことはなかったことになり

素知らぬ顔でソビエトの民として振る舞っている

嘘偽りだらけのその人々の顔さえも

私は空恐ろしく感じていた

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