第2話 Mortification Ⅰ -Mother-

幼い頃の記憶にはどういうものがあるだろうか?

私の記憶の中にはただ 屈辱ばかりがある


私は幼い頃からクズだった

クズとされてきた


父が兵として戦争に行き

母 幼い妹 そして私という女性優位の家庭で

私のヒエラルキーは常に最低であった


夜尿症の治せないでいる私を

母はひたすら罵り続けていたと記憶している

アンドレイ お前はクズだ クズだと罵られ続けていた

その一方でそのようなもののない妹を

母はひたすら褒め続けていたと記憶している

幼い妹にお前だけは良い子だと褒め続けていた


下らない夜尿症一つで

私はクズ 妹は良い子

二人の間に隔てられた壁は

絶望的なまでに高く見えた


このような底辺で どうして私は生きているのだろう?

こんなクズとして どうして私は生まれたのだろう?


汚した布団を見据えながら

幼心なりに 私は本気でそう考えた


神よ! 私はそうやって馬鹿にされる為だけの存在か?

神よ! 私には褒められるような価値は何もないのか?

天を仰げども 答が下りてくることはなく


そうではないよ 君にも価値はあるよ

私にそう言って励ましてくれる者もなく


夜尿症がどうしても治せなかった私を

母はずっと罵り 嘲笑い 見下し続けていた

幼い妹もきっと母と同じであろう


私の幼い頃の記憶はそういうのばかりだ

私の記憶の中にはただ 屈辱ばかりが残されている


アンドレイ 貴方が生まれてくれて良かったわ

アンドレイ 貴方のことを心から愛しているわ


一言でも言ってくれれば 少しは違ったかもしれないのに

私の心は癒されぬまま 乾きひび割れ

そして壊れ始めていった

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