第21話 共に同じ月を ②
清流はいつものように紅蓮の元を訪れていた。
背を向けた彼女の髪を清流がぎこちない手つきで
時々絡まった髪を
それを何度も繰り返している。
※※※
清流がこちらに着いた時、彼女は前回と同じように髪を
ただし、使用していた櫛は以前使っていた歯の取れた櫛ではない。
清流が手渡した桜の花の彫刻が彫られた櫛だ。
少しの間、髪を
もちろん自分の渡した櫛を使ってくれているという嬉しさから。でも、もう一つ理由がある。
好いている人の後ろ姿をもう少し見ていたい。
そんな気持ちを持ちつつ彼女を見ていた時、櫛を先端近くまで下ろすと決まって最後まで櫛が通らないことに気付いた。
その度に髪を解いていたので、清流が紅蓮に声を掛けて彼女の髪を梳かすことにしたのだった。
その際、清流は以前、自分の友人である
「鹿って髪の毛を食べるの?」
「普通の鹿なら食べないだろうな。まあ、子どもだから判別出来ないのかも知れないが」
「あら、もしかしてあなたも食べられたの?」
少し冗談めいて聞いてきた紅蓮に、
「まさか。そんなわけないだろう」
呆れたようにそう返しながらも、清流は笑みを浮かべている。
「それはよかったわ、綺麗な髪が無事で。でも、逆に綺麗だから小鹿には美味しそうに見えたのかしら」
紅蓮は楽しそうにそんなことを口にする。
清流は冗談じゃないと心の中で思いながら、櫛を滑らせていく。
少ししてから、「もう大丈夫よ、ありがとう」と言われたので、振り返った彼女に櫛を返した。すると、紅蓮は少し迷いながらも、
「ねぇ、清流。背中を向けてもらえない?」
「背中? 何でまた?」
清流は不思議に思いつつも彼女に背を向ける。
「あの、嫌でなければでいいんだけど。髪を
「俺の髪をか?」
若干言いにくそうにそう口にした紅蓮に清流が驚いて振り返る。
髪を梳かされるのが嫌という訳ではない。山にいる時は
紅蓮に触れてもらえることに嬉しさを感じる一方で、恥ずかしさも同じくらいに感じてしまう。
清流は少し考えた後、
「じゃあ、頼む」
再び彼女に背を向けた後、それだけ呟いた。
「本当?」
そのの
「ああ。いつぞやのように途中で切り上げたりしないよ。ただ」
清流は紅蓮を見つめたまま、一旦言葉を切った後さらに続けた。
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