第41話 緯澄と近重
翌朝、
道はこっちで合っているはずだ。
彼は立ち止まると、辺りを隈なく見見回した。
奥の方で眠っているのは二体の妖狐。
真っ白な妖狐と黄色の毛並みを持つ子どもの妖狐がぴったりと寄り添って熟睡している。
緯澄はそちらにゆっくり歩みを進めていく。
清流と交流のある妖狐たちで間違いない。何度か彼と一緒にいるところを目撃したことがある。
立ち止まり、その場にしゃがみ込む。それとほぼ同時に白い妖狐が目を開けた。
「あらぁ、誰かが近付いて来ると思ったら」
「寝ているところを起こしてしまって、すまないな」
「いいえ、大丈夫ですよぅ。清流さまのお仲間でしょう? こんな朝早くにどうされたのかしらぁ?」
「ああ、見ての通り魍魎さ。少し話をさせてくれないか? 清流について聞きたいことがある」
清流と聞き、近重は目を一瞬大きく見開いた。けれど、すぐに何事もなかったように笑みを作って頷く。
「分かりました。それで、清流さまについてお聞きしたいこととは?」
「清流の様子が最近おかしいんだ。人里をずっと眺めていたりして。何か知っていることがあれば教えて欲しい」
「清流さまには直接お尋ねにならなかったのですか?」
「もちろん、あいつにも聞いた。けれど、悩んでいることは何もないと言われてしまって。人里を眺めている理由も分からない」
緯澄の顔に少しばかり困惑した表情が浮かぶ。
以前、清流が魍魎の長の側近になった者を祝って宴をしていたと話していた。目の前にいる彼がその側近になった魍魎なのだろう、と近重は直感する。
彼もまた紅蓮の屋敷の家人と同様に、清流が人里に下りて人間と逢瀬を繰り返していることを知らない。
本当のことを話して、魍魎たちのいざこざに巻き込まれるのはご免だ。
「申し訳ありませんが……」
その時、隣でもぞもぞと動く気配があった。
近重は慌ててそちらに顔を向ける。今、天が起きてしまえばやっかいだ。
彼女は仰向けで寝ている天の腹を自分の尻尾で優しく撫でながら、顔を緯澄に戻して、
「申し訳ありませんが、アタシには何も分からなくて。清流さまとは日中しか会いませんし、きっとこの子も何も知らないと思います」
「そうか。眠っているところを起こしてしまってすまなかったな。それでは、失礼するよ」
「いいえ、お気になさらず」
笑顔で緯澄を見送った後、近重はほっと胸を撫で下ろした。すると、また天がもぞもぞと動き出す。今度は目が開いた。
「近重、何かあったの?」
寝ぼけ眼を擦りながら、天が起き上がる。
「いいえ、何でもないわよぅ。アタシ、まだ眠いわ。あなたももう少しお眠りなさい」
天はこくりと頷くとまた身体を横にして眠り始めた。
彼女も何事もなかったかのように、再び眠りに付いたのだった。
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