噂の異世界に転移する方法を試してみた。

和泉 舞華

第1話 アレは半分本当だった

私、和泉 舞華はエレベーターに乗っている。







・・・16年前にこの世に生を受けてから、思えば何ひとつ不自由なく生活していた。

これといって大きな事件も無かった。


正直、今の生活はつまらなかった。

何か刺激が欲しかった。


だから、3日前に学校の図書室でその本を見つけた時、運命だと思った。

速攻で借りて、家に帰ってからすぐに読んだ。

その本には、「異世界への行き方」が書いてあった。紙とペンだけで出来てしまうような簡単なものから、黒魔術のような怪しいものまで。

私は、その中からある程度実行しやすくて成功確率も高そうな「エレベーター」を使った方法をやってみようと思った。

面白半分だったし、成功するなんて微塵も思っていなかった。


その本には、こう書いてあった。

1. まずエレベーターに乗る。 (乗るときは絶対1人で乗りましょう、2人以上だと失敗してしまいます。)


2. 次にエレベーターに乗ったまま、4階→2階→6階→2階→10階と移動する。(この際に、何処かの階で誰かが乗ってきたら失敗です。)


3. 10階についたら、降りずに5階を押す。

5階に着いたら若い女の人が乗ってくる。 (その人には絶対話しかけないようにしてください。体験談や噂ではこの女性は様々な手法で話をさせようとしたり、知り合いに化けている時もあるそうです。ですが、絶対に話し掛けてはいけません。)


4. 乗ってきたら、1階を押す。

押したらエレベーターは1階に降りず、10階に上がっていく。(上がっている途中に、違う階をおすと失敗します。但し、やめるなら最後のチャンスです。)

誰も試したことがないため、これが本当かは分からないし、変える方法も分かっていません。


その本を見た次の日から、私はどうやって成功確率をあげるかをひたすら考えた。

まず、前提として10階建て以上のビルが必要になってくる。

そこで私は、自分の家から半径50kmにある10階建てのビルを探した。

見つかったのは9件で、その中から人の多いショッピングモールやデパートを除くと7件。

さらにエレベーターに乗り移動する過程で誰も乗ってきてはいけないので大半の人が家にいる(と思われる)夜に行うことにし、セキュリティ一のしっかりしている3件は除き4件まで絞った。

その中で1番家から近いアパートにすることにした。

今はまだ11月とはいえ夜は寒い。

私は寒いのと運動が大の苦手なのだ。

往復の距離は短い方がいいに決まってる。


次に、いつ行うかについてだが、これは土曜日気がついた。

平日は学校があるので無理、日曜日は次の日学校があるので無理だった。


最後に、持ち物についてだが、これはすごく悩んだ。

基本的なものとして、

・財布

・学生証

はもちろん、女の人がいつ襲ってきてもいいように、

・数珠

・十字架(銀)

・塩

・手回し発電機

・懐中電灯

・非常時の食料

・護身用ナイフ

さらに、

・スマホ

・充電器×3

・イヤホン

までは確実に持っていく。

しかし、仮に本当に異世界に行けたとして帰れなくなった時、当然だがこっちの世界で私がいないことが発覚するかもしれない。

その時、たとえ誰が部屋を探しても黒歴史だけは守らねばならない。

ならばどうすれば良いか、答えは簡単。

全て持っていけばいいだけの話だ。

・アレな漫画を書いているパソコン

・日記

あとはいいだろう。

それらをカバンに入れ、その日は寝ることにした。


次の日、つまり昨日のことだが、私は手順をひたすら頭に叩き込んだ。ちなみに借りた本は返せなくなるかもしれないので返した。


そして現在、午後11時53分。

私は今10階である。今のところ誰も乗ってきていない。

次は5階、本の通りなら女の人が乗ってくるはずの階である。

たとえその人が知り合いの顔をしていて、話しかけてきたとしても、その人と話してはいけないのだ。

乗ってきたのが男の人or誰も乗ってこないならば失敗。

失敗したら帰ろうと思いつつ、私は5階のボタンを押した。


ウィーン・・・チーン


ドアの向こうには、男の人がいた。

失敗した、と私は瞬時に悟った。

帰ろう、と思い1階のボタンを押した。

後に私はこの判断が間違っていたことを知る。

なぜなら、下がるはずのエレベーターが上昇し始めたからだ。

まぁ5階の次は1階に行くという手順だったこと、本に書いてあることを試した人がいないと書いてあったことを考えるとすぐ分かるのだが、その時の私は次は何を試そうかということばかり考えていたため、気づくのは結構時間が経ってからだった。


突然、ドアが開いた。

どうやら10階に着いたようだ。

ここまで来たら後戻りなどできる訳がない。

私は意を決してドアが開くのを待った。



ドアの向こうは、草原だった。

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