第52話 「完成度は高いが好きになれない」完成度の高い小説、出版してもらえる小説、売れる小説の違い

2009年の9月か10月くらいにコバルト短編小説新人賞に応募し、受賞しました。


コバルト短編小説新人賞は受賞すると、受賞作と選考過程が掲載されます。その選考過程を見て驚きました。

審査委員の三浦しをん先生が拙作を強く推してくれて、その他の編集の方はほぼ全員が、


「完成度は高いが、好きになれない」


で一致していたのです。これだけ編集部と三浦しをん先生の意見が分かれることは珍しいです。

幸い選考の基準が「一番よい小説」だったので受賞にいたりました。もし、「自分のレーベルで出版したい小説」だったら受賞できなかったでしょう。コバルト短編小説新人賞は即デビューではなく、担当がついてデビューを目指す賞だったので助かりました。

どんな出版社、どんなレーベルでも出版してもらえる小説というのは、おそらくほんとんどなくて、作品の内容やジャンルと出版社、レーベルが合っていないと出版してもらえません。


そのレーベルに合った小説というのは出版の特に重要な条件になります。逆に言うとレベールの特性をあらかじめ理解していないといけません。しかしそんなのは会社や事業部の方針や編集長が替わると変わります。70作も送っていたら、いちいち調べてられない、と思って私はやりませんでした。でもちゃんと調べた方がよかったと今では思っています。なぜなら文學界ではそのせいで最終選考で落ちた可能性が高いからです。


「売れる小説」はベストセラー作家の書く小説です。売れている作家が書くと、その名前で自動的に高い確率でよく売れます。それ以外の人が書いた本は売れる確率が下がります。しかし新人賞にベストセラー作家が応募することがまずないので、新人賞応募作の中から将来「売れる小説」を選ぶのは至難の技というか無理です。編集者がみんな「売れる小説」を見極められて日本の全ての新人賞の受賞作が20万部売れたら出版市場は活況を呈するでしょう。でもそんなことは起きていませんし、これからも起こらないでしょう。

なにが言いたいかというと……


完成度の高い小説を書いても、レーベルに合わなければ受賞できない。レーベル=編集部の方針は編集長の交代などさまざまな要因で変化する。


つまり「よい小説」「売れる小説」を見極めることは無理というのが確認できたわけです。少なくとも商業作家デビューを目指す者にとっては考えてみしょうがないことだと思います。

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