第26話 転生者Rui

昨日は小学校の卒業式だった


この世界では学校に入学する時と


卒業する度に


俺からすると大袈裟な式が


どうやら行われるらしい





この大袈裟な式に


まんまと引っかかっていたのが俺の母親


式の間中、何がそんなに悲しいのか


ひたすら泣いていた


正直恥ずかしかった


誰よりも泣いていたと思う





俺の母親は俺とは違って感情が豊かだ


嬉しくては泣き、喜んでは泣き


次の瞬間は何もなかったかのように


大笑いしている


一度母親の脳内をのぞいてみたいもんだ


あっ、でも悲しくて泣いてるっていうのは


もしかしたら一度も


見たことがないかもしれない





中学は家庭の事情もあり


地元の中学に進学することにした


まっ、俺はどこでもいいんだけど


特に将来の夢もないし


どこに行ったって


俺の能力が下がるわけではない


反対にどこに行ったって


苦手な国語の成績が上がるわけでもない





今日から春休み


明日から母親と久しぶりに


旅行に行く予定だった


はじめは母親と二人で旅行なんて


楽しくないし


どうせいつも二人でいるわけだし


留守番するつもりだったが


今回の旅行は絶景の星空が見えるスポットを


周るらしい


それを聞いたら、星好きの俺が


行かないなんて選択肢は、あり得ない





別に母親と旅行に行きたいわけではない


あくまでも天体観測がしたいだけ





「Rui、天体望遠鏡持ってこ」


「あんな大きいの持ってくのかよ」


「今回持って行かなくて


いつ持っていくのよ」





確かに


望遠鏡も家や近所の星だけじゃ


飽きただろうな


持っていくか





「分かった


俺、荷物準備できた」


「あんた、たったそれだけ?


何泊すると思ってるの、7泊よ」


「知ってる、何とかなる


それより母さん荷物多すぎだよ


何日分だよ、それ」


「だから7泊だって行ってるじゃない」





「いやいや、ざっと見て


2週間分はあるだろ


一回荷物開けて、不要なもの出して


置いていった方がいい」


「えー


この荷物の一つ一つは、ママからしたら


不要なものは一つもないの」





「じゃあ、これは?」


「これ?


これはRuiがお腹痛くなった時


風邪をひいた時、熱が下がらない時


それから.....」


「俺、子供じゃねぇよ


それにたかが1週間でそんなことには


ならないから、却下


これは?」





「これは大事よ、ママのドライヤーと


髪の毛を巻くヘアアイロンよ」


「そんなの旅館にあるから、却下


ほらな、やっぱり不要なものばっかりだ」





結局いつものやりとり


正確にいうと


母親と長期旅行に行くのは


はじめてのシチュエーションだから


もし普段の俺らが長期旅行に行くことに


なったらバージョンということになる


その結果がこれだ





結局1時間くらいあーだこーだ言いながら


荷物を作り直した結果


半分以下にまで減った


これでも俺からすると


かなり母親の意見を尊重した





「随分と軽くなったわ」


「半分以下になったからな」


「まっ、軽いのは軽いのでいいわね


Rui、ありがとう、旅行楽しみー」


やっぱり最後は


いつものお気楽な母親に戻る





母親はこの性格から


周りからの援助もあるし


何より愛されている


ほんとに俺とは反対だと思う





俺の父親はどうしてこんなに明るい母親を


手放したんだろう


そもそもの別れた理由を知らない


まぁ、いいか


母親と二人、特に不便はしていない





「そうだ、Rui今回はこの電車に乗って


行くからね」


「えっ、これって」


「そう、夜行列車」


「えっ、もしかして電車の中で


夜を過ごすの?」


「そう!


天体望遠鏡持って夜行列車で旅行なんて


歌の歌詞にでてきそうじゃない?」





正直いうと


旅行先に行くのにそんなに無駄な時間を


かけて行くなら


最短時間で俺は行きたい


その方法しか行き方がないなら


それを選ぶけど





むしろ夜行列車より


もっと効率的な手段がたくさんある中


あえてこれを選ぶとはさすが母親だな





あくまでもお金を持っている母親に


決定権があるわけだから仕方がない


はぁ


夜行列車か


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