第39話 停電の夜

ある夏の事だった。

ようやくあたりも暗くなる20時前。

夏場は日中暑いのでお客さんも少なく、午前中の早い時間帯と夜間に忙しくなる。

20時は夜のピークだ。

あと2時間で閉店だ。

ラストスパート。

2台あるレジもお客さんの列ができ、バイトがさばいている。

そんな時、突然店内が真っ暗になった!

停電か?

停電だ!

お客さんのどよめきが聞こえる。

レジも停止し、バイトも慌てている。

急いでバックヤードの配電盤を確認し、落ちているブレーカーを戻すがすぐに落ちる!

店長は自分の携帯電話で本部に電話したが、もう誰もいない。

本部の部課長クラスの緊急連絡先を探す。

店舗管理や設備担当の課長の携帯電話に電話しても出ない。自宅に電話したらようやく繋がった。

緊急事態の連絡なのに邪魔臭そうな返答。本部の奴なんて店舗で仕事したことのない奴ばかりで、店舗が深夜まで営業していようと奴らにとっては18時以降は退勤してプライベートな時間なのだ。

電力会社や店舗の工事を請け負っている業者に連絡して来てもらっても時間がかかる。

今夜は臨時閉店とすることにした。

店内のお客さんを外に誘導し、帰ってもらうしかない。

買い物途中で停電し、無駄足になったお客さんの中には、「レシートは要らないから、金払うから買い物させろ!」と不満をもらしゴネるお客さんもいた。

エアコンも停止し、汗だくのバイト二人に店頭の商品ゴンドラを真っ暗な店内に入れてもらい閉店とした。

暗闇でPOP用紙の裏に「お詫び」の文言を殴り書きし、ドアに貼る。

あと2時間仕事するつもりでいたバイトの二人には申し訳ないが帰ってもらった。

暗闇で業者を待つしかない。

エアコンが停止して蒸せるような暑さだ。

大きな冷蔵ケースに入っているアイスクリームや冷凍食品はこのままでは売り物にならない。

大きな企業のチェーン店ならバックアップの自家発電機もあるが、中小企業のチェーン店にはそんなものは無い。

停電による売り上げの損失と商品の損失、復旧工事費の負担など、悪いことばかりだ。

半年前にこの店がオープンして順調に営業できていたのにな。

あまりにも店内が蒸し暑いので、お店の入り口の前で業者を待つことにした。

外の方が風がある分暑さがマシだ。

ふと、お店の周りの民家や他の店を見ると灯りがついているじゃないか!!

停電が復旧したのかとバックヤードの配電盤のブレーカーを確認するが、やはりすぐに落ちる。

ブレーカーが落ちている時点で停電しているのはウチの店だけなのだか、混乱してそれを考える冷静さも無くなっていた。

停電しているのはウチの店だけだ!

これは電力会社の問題ではないんだ!


2時間後、お店を建設した業者の担当者が駆け付けてくれた。

お店の屋根に箱状の大きな電気設備が乗っている。業者の担当者がそこを開けて確認していた。


困ったな。

帰るのも遅くなるな。

何時に帰宅できるのだろう。


作業に時間がかかるようで、翌日に持ち越しになった。


明くる日は午前中は臨時休業。

業者の担当者や電力会社の人が屋根の上で作業している。

薄暗い店内でダメになったアイスクリームや冷凍食品を処分したり。


停電の原因が判った。

このお店を建設し、電力会社から電力を引くときに、消費電力が低く割安な契約をしていた為に、夏場になりそれ以上の限界を越えた電力を使用した為に電気設備が停止したようだ。

本部が店内営業に必要な通常の電力契約をせずに、経費をケチって安く上げようとした為に起こった人災だった。

改めて消費電力の契約をし直して、今は何のアクシデントもなく営業できている。

ケチるなよ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る