第40話 みなさん薬物中毒なのね!
あるドラッグストアの話。
チェーン店であるがさほど広くない売り場面積で営業している。
ドラッグストアといえば薬品はもちろんのこと日用雑貨やコスメ関連も充実し食品も揃えている100坪以上のお店を想像するが、このお店は昔ながらの街の薬屋さんのイメージだ。
どこのドラッグストアも万引きに悩まされている。
このお店も同じこと。
万引きGメンを雇えるほど儲かってもなく、また、店内を万引きGメンが巡回するほど広くもない。
お店の防犯カメラでは万引きの常習犯が確認されている。
カメラに映っていても現行犯でないと警察に連絡してもなかなか逮捕まではならないようだ。
このお店の常習犯は咳止め薬ばかりを狙ってくる。
その咳止め薬は飲み続けると習慣性ができ、ある種の中毒になるらしい。
また、1度に瓶1本飲んだりすると、精神的に高揚感などが起こり、麻薬のような使い方をする人もいるようだ。
業界などではお店にお客一人に対しての販売本数を制限してる。
お店によっては売り場に出さずに、ガラスケースに入れたり、店の奥に保管しているところもある。
咳止め薬中毒の万引き常習犯は、見た目もラリった雰囲気で、現行犯で捕まえても抵抗され反撃され怪我を負わされる危険もある。
ある時、現行犯で捕まえたことがあった。やはりラリった雰囲気で、お店の従業員の目の前で無造作にズボンの両方のポケットに詰められるだけ詰めて逃げようとした。その時点でかなりヤバい。従業員は引き止めようと声をかけると、棚の商品を掴んで投げつけ走り去ろうとし、足元がふらつき入り口近くの陳列棚にぶち当たり転げた。
従業員はその隙に取り押さえ、110番通報。
その犯人40代後半の男で、痩せこけ、目つきが濁流のようで、すごい体臭だった。
従業員の目の前でポケットに詰めこむ事自体がかなりの中毒でラリった状態だったようだ。
警察が駆け付けて犯人をパトカーで護送した後も、黄色い立ち入り禁止のテープが店内に張り巡らされ、お店の営業どころじゃない。
犯人が現場検証に連れられて来た時も同じこと。
一人の万引き犯人によって店は多大な損失を被っている。
警察によると犯人は他の店でも同じ咳止め薬を万引きし続けている常習犯。何度も取り調べたことのある男だという。
今後の事は本部と委せることになった。
数日後、犯人の家族を名乗る数名の人がお店にやってきて、どうか示談にしてほしい。裁判などにしないでほしいと懇願した。
そんな事、知った事か!
この件については本部に委せていると追い返した。
その事件以来、本部の指示で全ての店舗でその咳止め薬は店の奥に保管する事になり、陳列棚にはダミーの箱が置かれるようになった。ほしいお客さんはカウンターで従業員に告げ、2本までの販売となった。
ある日、スーツを着た若い男がその咳止め薬を20本ほしいと言ってきた。
店長は拒んだが、スーツの男が名刺を出し、20本買えないと都合が悪いと何度も低姿勢で要望した。
お店も暇で、まとまった売り上げがほしかった店長はその男に20本売ってしまった。
本部に内緒で、大量販売の履歴が残らないようにレジを打った。
その若い男の名刺には、大手のコンサートイベント会社の名前があった。
お店の近くには、大きなホールがある。有名な歌手やバンドもそこでコンサートを開いている。
その日のホールのイベントスケジュールを調べたら、誰もが知っている超のつくほどのメジャーなロック歌手のコンサートだった。主催はその男の名刺の会社だった。
店長が売った咳止め薬は、そのロック歌手やバックバンドのメンバーが飲む為のものだったのだろう。
喉の調子が悪いなら1本でいいはず、きっとコンサート前に大量に飲み、ハイな状態で演奏する為のものだったのだろう。
麻薬よりましか?
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