第19話 問屋が潰れた日に怒鳴られたのよ!!
問屋さんの話。
現在はどのカテゴリーを扱う問屋も小さい企業から吸収合併されてゆき、それがどんどんより大きな企業に吸収合併されて大手の企業が数社のみ残り、それまで独立独歩で営業していた地方の問屋もどこかの大手企業の傘下に入らねば生きて行けない時代である。
その過渡期には大手の企業の傘下にも入れず淘汰される問屋もあった。
三大都市圏のひとつに地盤をおき、営業していた問屋があった。そのエリアの小売チェーンの何社とも取り引きし、順風満帆とは言えないまでもそれなりに企業として存続できていた。セールスも取り引き先のバイヤーのみならず店舗の店長や売り場主任とも親密な関係を築き信頼もされ、小回りが効き取り引き先からも重宝がられていた。その時代の中規模な問屋は、チェーン展開している企業には決め細かな営業活動をするが、街の個人店には取り引きの上で高飛車な所も多かったようで、個人店が商品を仕入れるに際し、一回の納品は下代(納品価格)で10万円以上などと縛りをつけていたりも。もちろん、取り引き関係を築く前には保証金も個人店から取っている。
よほど繁盛している個人店でないとそんな条件はなかなか飲めないので、頻繁に新しい商品を仕入れられず、街の個人で営んでいる雑貨店(昔で呼ぶなら荒物屋)などでも、いつまでも色褪せた、埃の被った、古めかしい商品が並んでいたのは、そういう取り引き条件が理由でもある。
しかし、個人店に対して高飛車な態度をとっていた中規模企業も大手の攻勢の波にのまれるてゆく。
チェーン店は、大手の企業から安い納品価格の提案が持ち込まれ、メーカー別などに分けて、今まで取り引きしていた中規模企業からの仕入れを大手の企業に変えてしまう。数社の大手の企業から納品価格の値引きや様々な販促提案を受け、どこの小売チェーンも徐々に馴染みだった中規模企業から大手の企業へ仕入れを変えてしまう。
個人店に高飛車な態度をとっていた中規模企業は大手の企業の攻勢により、時間をかけて緩やかに緩やかに首を締められてゆく。
ふと気づいたときには、倉庫に搬出されない在庫商品が過剰に残り、メーカーへの支払いも苦しくなり、金が回らなくなり資金ショート。
ついに不渡りを出してしまう。
ある日のこと、その日は定例の商品納品日であった。
オンラインで繋がっている問屋から発注した商品がいつものようにトラックで運ばれるはずだった。
しかし、ある問屋のトラックが遅い!
問屋のトラックの納品時間はルートが決まっているのでだいたい同じ時間に到着する。
いつもの時間にから五時間も遅れてるから、事故でも起こしたのか?
オンライン発注のデータは残っているから、データ上のトラブルはない。
あまりにも遅いので、その問屋に電話してみた。
すると、なかなか電話が繋がらない。
話中であったり、コールしたり。
何十回とコールして、ようやく繋がった。
いつもは愛想のいい受付の女性なのだが。
「もしもし、お世話になっております●●店の◎◎ですが、昨日発注した商品がまだ届かないのですが?」
と尋ねると、
「何よ!何の用なの?今、それどころじゃないのよ!」
と怒鳴られ一方的に電話を切られた。
なんだろう?その言い方も腹が立つ!もう一度電話してみた。
すると、また
「いい加減にしてよ!それどころじゃないって言ってるでしょ!!対応できません!!」
と、また一方的に切られた。
いい加減にしてよは、こっちの台詞だ!何だ!商品も届けずに!
あまりにも対応に腹が立つから、その問屋の担当セールスの携帯に直接電話してみた。
通話中がつづいたが、一時間ほどしたとき、担当セールスの方から電話が店へかかってきた。
「どうなっんの?おたくの会社は?」
と語尾を強めて尋ねてみたら
「申し訳ないです。受付の女の子も失礼なことを言っていたようで。実は、今朝、朝礼の時に社長から会社が倒産してしまったと話があり、それから社内は大混乱だったんですよ。恥ずかしい話で申し訳ありません。今日から納品も何もかもありません。これからのこともわかりません。」
という返答が。
会社の幹部にとっては倒産するのは目に見えていただろうが、一般の従業員や配送センターの人々には、突然、連絡されたようだ。
今となっては、受付の女性が怒鳴ってきたのも、心情的には理解できたが。
その問屋はどこの大手企業の傘下にも入ることなく負債だけが残り消滅した。
その問屋のセールスだった人の中には運よく別の問屋に再就職できた人もいたが、ほとんどの人々はしばらくは路頭に迷ったようだ。
会社なんて突然潰れるものなのよ!!!
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