第4話 一章 二月三日 水曜日
あんな事があった次の日のことだ。
「おはよう」
目を見開いて固まるコイツに僕が笑顔で挨拶すると、コイツは視線だけをこちらに向けた。コイツは僕を冷たく見るだけで、今日もコイツは答えない。
だけど、コイツが僕になんの関心も寄せていないなんてことはないだろう。きっと大いなる関心を持っているに違いない。なにせ、昨日の僕はとても頑張ったのだから。だから僕は、もう一度コイツに呼びかける。
「おはよう! 諸星!」
コイツはまるで信じられないモノを目にしたかのように呆けた表情のままだった。丸く開かれたその口からかすかな言葉が零れ落ちる。
「……お前、バカなのか?」
「バカはお前だ。おはよう、諸星」
僕はコイツを真っ直ぐに見据え、返答を待つ。……どうだ? 今日もダメ、か?
「……お、おはよう」
言った。言いやがった。顔を逸らし、うつむいて。そして消え入りそうな声で口にしたんだ。
「うん、おはよう! 言えるじゃないか。諸星ならきっと言ってくれるって、信じてたよ。諸星は見た目ほど悪い人間じゃないと思うから」
「……」
コイツは顔を上げ、ただただ呆然と目を丸く見開いて僕を見詰めていた。
「挨拶が帰ってくるととても嬉しいんだ。今日は朝からとても良い気分になった。今日はきっと良いことがあるに違いない。ありがとうな、諸星」
「……」
僕はコイツが話を聞いてくれたことが嬉しくてたまらない。
「でさ、諸星。せっかくなら、もっと大きな声で言ったが良いと思うんだ」
「……っ」
あれ? コイツ、急にどうしたって言うんだ? コイツは小刻みに震え始めた身体を押さえ、地の底から染み出すようなうめき声を出し始めた。
「え?」
「……ざい」
「なんだって? ごめん、聞こえないよ諸星」
「ウザイんだよ、テメェは! いい加減、黙れよ!」
瞬間、轟音が教室に響き渡り、教室に沈黙が訪れる。僕の目の前で、コイツが近くにあった椅子を蹴り飛ばしたのだ。教室中の視線が集まり、そして皆が一斉に目を逸らす。きょ、今日はこのくらいにしておこう。どうやらコイツは機嫌が悪そうだ。
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