第158話 貴族VS貴族

「ということでよろしくでござる」


「帰ってきてそうそうバカ言わないでよー」


バンクーバーから帰ってきて我が家のリビング。時差ボケを治しつつ、リーシャさんのご両親に約束したことをそのまま話す。


「あのねえ、この子は自然に直接介入出来るのよ? どんだけ貴重な人材か分かる? それをメンバーから外せって」


珍しく三人だけのリビング。忙しいところをなんとか繋いでもらっているレイミさん。吾が輩の膝枕で寝ているリーシャさん。


「まあまあ、ここはお土産のオーガニックコスメでなんとか…」


「あんたねえ、私らも超人だってこと忘れてるでしょっ。バンクーバーはこっち寄りなんだからその気になれば5分で着くっつーの」


とか言いつつありがたそうに拝んでバッグにしまっているでござる。


「だいたい副会長の件どーうすんのよーう。まだ見つかんないんだけど!」


「行く前にも言ったけど、それならアタリがあるでござる」


膝に抱きついてくるリーシャさんをなんとか離してアタリのところにレイミを案内する。


「こんちゃーす、でござる」


「こんにちは~…。ここが妖狐さんち?」


「おお、来たなバカ弟子。意外と遅かったじゃないかい」


「先に用事があったものでして」


久々のお師匠さまのログハウス。森の中にあるので車は出さす、走って移動。


「女の子、来てるでごさる?」


「ちょっと待って。玄関に靴は無かったわよ?」


「靴くらいその辺に隠せばいいのう。ボイン娘、術は使えるくせに目に見えるものしか頼らんのか?」


「ボイ?!」


こたつでくつろぐ、というか真っ昼間から酔っぱらっているお師匠さま。くっさ。


「なんつってなー、買い物に行かせておる。そろそろ帰ってきてくるじゃろ」


「ただいま戻りました…、あら? くませんせー…、副学長…」


「おっとグッドタイミングでござる」


お師匠さまにパシられていた生徒会副会長の金髪縦ドリルさんが帰ってきたでござる。やはりここにいたでござるか。


「えっと、あの…」


困惑してる金髪縦ドリルさん。名前なんだっけ。いや聞いたっけ?


「さあ戻るわよ! さあさあさあ!」


「嫌です! わたくしはもう家には帰りません!」


「あのね! あなたの実家からどんだけ圧力が掛かってるかってぇーの!」


「まあまあ、ここは1つお土産のキャンドルで…」


「ちっ」


事を察したのか、強烈に拒絶反応を示した金髪縦ドリルさん。それに食ってかかるレイミを宥めて抑える。


「くませんせー、なぜこちらにわたくしがいると…」


「前に一悶着あったとき、吾が輩セクハラを働いているでござる。そのときに知ってるケモノ臭がしてたから妙だな…と。生徒会室で相談もらったときに合点がいったでござる」


「どーせケモノですよーだ、ひっく」


今のお師匠に火着けたら景気良く燃えるかな? イケメン君こと京介くんと試合をして、その結果に納得がいかないと口を挟んできた彼女。体操服の上からでも分かるFカップを堪能したときに、何故かお師匠さまの匂いがしたでござる。


わたくしは政略結婚の道具などではありません」


「ええ、そうでしょうとも。おおかたお師匠さまが焚き付けたでござる。それも暇潰しに」


「うぇーへっへっへ、はい正解」


「ちょっと! はい正解じゃないわよ! クレーム着けられる身にもなってよ!」


「ついでに見るか? お見合い相手じゃと」


お師匠さまが投げてよこした写真を見ると、それはそれは見事な美形青年が写っていたでござる。


「政略結婚でも損することがなさそうに感じるでござるが…」


確かクレームを着けているのはイギリス貴族だったと聞いたでござる…。そんなところと政略結婚って金髪縦ドリルさんも相当な御身分でござる。


「間違っています、くませんせーは間違っています」


「ま、あたしも散々お見合いさせられたから気持ちは分からないでもないけど…」


「いいえ副学長、それだけではありませんの。この男、裏の顔がありますの」


あれ? 一筋縄じゃいかなさそうでござる?


「お見合い相手に裏の顔でござるか?」


人数分の芋ようかんとお茶。出しっぱなしのこたつを四人で囲って改めて話す。


「誰も信じてくれませんが…」


「はあ、また面倒なことになりそう…」


もむもむ食べながら溜め息レイミさん。まあしょうがないでござる、物事を揉み消す潰すなかったことにするのに一番ベストなポジションだし。


「ちなみにお見合いするのはどんなヤツか聞きましょう」


「…お師匠さまが焚き付けたんじゃないの?」


「ああ、うん、面白そうだったからの」


この年増狐…!


「ボストンバッグを持って溜め息つきながら歩いてたら声を掛けられまして…」


「1つ間違えば事案でござる」


何も知らないけど面白そうだったから突っついたと。わざとケモノ臭残したのも面白い方に転がったらいいなー、くらいにしか考えてなさそうでござる。


「話を戻して、あなたのお見合い相手って同じイギリス貴族じゃなかった?」


「レイミさん知ってるでござるか」


「はい、ここ10年ほどで急速に勢力を伸ばしてきた片隅の貴族の嫡子です。貴族といっても名ばかりでほとんど一般市民と変わらぬ末端の者です」


「もう胡散臭いでござる」


「理由がなければたかだか10年で名が挙がるなんて無理だからの」


「金髪縦ロールさんちってどんな貴族でござる? というか名前聞いてないですしおすし…」


わたくしの名はダリア・イベリスと申します。我がイベリス家は【円卓の騎士団】の序列にあり、主に運輸を司る一族ですの」


「イギリス貴族【円卓の騎士団】って王室付きのめっちゃ偉い貴族…でござる…」


なんで日本にいんの…?


「その顔、あんたも何も知らなかったのね」


うんまあぶっちゃけ、金髪縦ロールさんの本名聞くのもこれが初めての気がするでござる。というか本人からも自己紹介された覚えないし。


「むしろ武蔵野学園が化け物でござる」


イギリス貴族がいてフランス貴族のカレンさんがいて、確かトモミンも武蔵野学園大だからたぶん高校からエスカレーターしてるだろうし…。貴族のデパートかな?


「あくまでも内々の調査ですが…、その…、彼の者は裏で人身売買を営んでいると…」


「ぶへえ」


いくら末端の貴族でも人身売買はやばいでござる。


「一度ドイツから『確認した中東の難民船と上陸した人数が合わない』と連絡があったのです」


「その男、おおかた中東から逃げ出している難民に手を出しているがゴムボートじゃ足が着き始めたんじゃろ。今度はコンテナにでも積もうと言うのかの」


「そのためには運輸関係のイベリス家を押さえる必要がある、というわけね」


「んでんでんで、船積みしたコンテナごと難民をちょろまかしてどこぞに売り付けようということでござる?」


「はい。ここまでたどり着くまでにも密偵が何人か帰らず…」


「それはおかしいでしょ。【円卓】のに手を出して音沙汰ないなんてそんなアホな」


音に聞こえし【円卓の騎士団】。元を辿るとアーサー王に繋がる由緒正しき存在。いくら密偵でも生かして帰さないとは穏やかではないでござる。


「…髑髏十字、と言うとお分かりでしょうか」


「!」


カラミティ…! 我が母校にして妹君の通う中学校の旧校舎で人体実験をしていた、あの…!


「…チッ、お師匠さまの好奇心カンもまだまだ衰えを知らないでござるな」


「万年妖怪舐めんじゃないよ」


ずず、とお茶を啜る音が苛立ちを煽り、耳に障っていた。

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