第149話 うほっ イイおケツ

裸の男三人、初めて揃うメンツに話が弾むでござる。


「どうして軍曹と刑事さんまでここに?」


「俺達も仲間入りしろってことさ」


「要は買収だよ、買収。武蔵野は裏でこうやって声を掛けて回ってるのさ」


なるほどなるほど。それに二人は吾が輩達と直接会ってたり戦ってたりしてるから特別ご招待ってあたりでござる。


「もちろん不満はない。俺は家庭もあるし、給料が増えるということは俺の小遣いが増える」


「軍曹は突然少佐まで昇格したら何か疑われるのでは?」


「誤魔化さなきゃいけなかったのはカミさんだけさ。姐さんとは付き合い長いからいつかはこうなる運命だった」


「へー、リエッセさんと?」


付き合いがある、というか恐らくリエッセさんのことだからきっと軍曹をアゴで使っていたに違いないでござる。海兵隊は大きいからなんでも出てきそうだし。


「元々はみ出し者だった俺は海軍でも腫れ物扱いだったのさ。おかげで新兵時代からいきなり『何も言わずにこの人に付け』ってな」


「僕はこの間の一件が決め手になったんだって。前から目をつけられてたみたいだけど」


「刑事さんはどういう異能なんでござる?」


「異能なんておおげさなもんじゃないよ。他の人よりちょっと目が良くて速撃ちが上手いだけさ」


「弾丸に弾丸ぶつけるなんて並みの芸当じゃないでござる」


しかも一撃必殺、【二度撃ち要らず】とアダ名が付くほど。この刑事さんも大人しそうに見えて相当バカスカ撃ちまくってるでござる。そう、この間のフランスのとき。カレンさんの実家でカラミティの連中とやり合い、その時この刑事さんは一発かと思いきや跳弾に跳弾を重ねて三発ほぼ同時に当てていたでござる。この刑事さんはリボルバー。跳弾させて当てたのは三発、その三発を追いかけさせたのも三発。一瞬にして六発を発射していたのだ。


「ほう、それは拝見したい」


「マジか? マジか? 海軍来るか?」


「それは遠慮するよ」


食いつきいいでござる。この刑事さん一見して普通の人にしか見えないからそれも無理はないかも? まさか普通の人であんな芸当は出来ないでござる。


「そういえば姐さんいないな。どうしてる?」


「晩御飯担当でござる」


「これからが大変だな少年。結婚は人生の墓場だぞ? だがまずはおめでとうと言っておこう」


「若いっていいねえ」


この日はこのままウホッ男だらけの混浴大会になり夜更けまであれこれ語り合っていたでござる。


「ただいまー」


「でござるー」


「おかえりなさい二人とも。早い決着だったわね」


翌朝家に帰ると相変わらず母上はゴロゴロしていたでござる。平日くらい買い物行こうよ…。いや、この人の場合土日も平日も関係ないか…。


「向こうから出てきてくれたでござる」


「なんかお守りかなんか買ってくれば良かったんですけど」


「いいのよそんなの気にしなくて」


「吾が輩がフランス行ったときはお土産お土産言ってたのにこの扱いの違いはなんなんでござるか」


結局穴埋めにデパート行ったらバーベキュー大会になるし、全然お肉食べられなかったし。


「えー、なんも買ってこなかったのか?」


「いやーアレコレ解決してたらすっかり忘れてまして」


アレコレというかイチャコラと言いますか。行きとは打って変わってカレンさんの機嫌がめちゃくちゃ良くなってずっとくっついたままでJKの柔肌もいいねって。


「ないわー。今から飛んで行って買ってこいよ、いやお前なら一番速いから午前中に帰ってこれるだろ?」


「いやいやいやいや」


「勝手に行ったり来たりしたら怒られるんじゃない?」


「大丈夫ですよ、アタシら顔パスだから警察が来ようが戦闘機が来ようが平気です。来たって落とすし」


「それもそうね、ということでタケちゃんGO!」


なに言ってんでこざるかこのニート。そんなに欲しいなら自分で行って、どうぞ?


「どうでもいいけど主が帰ってきたというのにあの腐れ巫女二人はお出迎えもないでござるか」


「今度はガーディアンやってるって」


まったくあの不良娘達は懲りないでござるな。そろそろパスワード掛けるでござる。


ドキッ! 男だらけのぶらり日本一周の旅!



「はい残念でしたー! 三人だけだと思った? ボクもいるんだなーこれが!」


「オレもいるんだよなー。なぁなぁ今どんな気持ち? 今どんな気持ち?」


羽田空港国内線ターミナル。武蔵野グループ入社記念? に日本一周をプレゼントされたリーマン魔術師、軍曹改め少佐、フランス人刑事。その前に現れたスーさんズ。


「ちくしょう、俺達はベビーシッターかよ」


「遊んで回るだけだからいいんじゃないかい?」


「ならばMr.ホランド、あとよろしく頼む」


「フグ田くぅ~ん、それはないでしょう」


「はいレイミから手紙」


『諸々の事情と大人の都合で学校が休みになったけど構ってられないからよろしく』


一枚の白い紙に走り書きが一行。丁寧に書こうとした形跡はなく完全に書き殴っているでござる。


「ちくしょう、やっぱりベビーシッターじゃねえか」


「この日本一周が終わったら早速仕事だと言うのに」


「仕事って言っても研究所が作ったっていうゲームのテストだろう? 僕らがやらなくても所員でやればいいんじゃないかな」


「仮想世界と現実を繋げる新しいゲームだそうだ」


「具体的には?」


「少佐、少佐はパワーレンジャーは知っているか?」


「この間の劇場版は10回観に行った」


「アレになれるぞ」


「ジョークだろ?」


「さらにゲーム内での強さ、現実での強さがリンクする」


「おお?」


「そしてゲーム内での魔法を現実で使えるようになるそうだ」


「それもうゲームじゃないだろ」


「フルダイブMMOとARMMOを融合させた『質量のある投影』とかなんとか」


「ついに俺もジェダイの騎士になるときが来たか…」


「変身ヒーローがロイヤルセブンの専売特許でなくなる時代が来るんだね」


「じゃあオレら遊び放題じゃねえか」


「ということで沖縄だだだだー!!!」


五人は一路沖縄へ!


「いやっふーい!」


「おらっしゃああああ!!!」


「前フリなんかいらないんだー!! Fuuuuuuuu!!!」


ホテルにチェックインするなりビーチに向かいすぐさま飛び込む三人。それを冷ややかに見ながらシートを敷いてパラソルを立てる二人。


「マクドナルドに行きたいとは思わないか?」


「ああ。少佐は泳がなくていいのか?」


「アメリカにも綺麗な海はあるさ」


「そうか。私もまだ病み上がりで激しい運動は出来ない」


「あのフランス野郎はノリ良すぎだろ…」


いい歳した大人が海で子ども二人とじゃれ合っているでござる。


「だいたいだ、この間殺したいだの殺せなかっただの言ってたヤツが海ではしゃいでるのはどうなんだ」


「もうあの世界なんか知るかよ。まったくディストピアなんかさっさと忘れてとっととこっちに来ればよかったぜ」


「オイシイ話は素直にもらっておくべきだよ」


「いやまったくだよ。もっと深くに潜ろう! どこまででも潜れる気がするぞ!」


「次は首里城だな」


モノレールに乗って首里駅で降り、守礼門前。


「これが守礼門か」


「思ったより小さいんだねえ。凱旋門の何分の一もないじゃないか」


パンフレット片手にぶらり多国籍軍の旅。明らかに他の観光客から浮いて見えているでござる。言うてたいていの日本人にはアメリカ人もフランス人もパッと見で分かる人は少ないと思われ。


「ねえ少佐、アメリカ軍の基地あるんだから車借りようよ」


「俺は国際免許証を持っていないし、遠いだろ」


「こんなときこそトヨタレンタカーだ、と言いたいところだが残念。モノレールの駅からは逆方向に離れている」


「そういえばおっさん日本人だもんな。日本の免許でいいのか」


「おっさんではないお兄さんだ!」


「平均30代だろ? おっさんじゃねえか」


「マクドナルド行きてえ…」


首里城の近くにマックはないぞ少佐。


「なにっ?!」

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