第99話 人が産み出したもの
口裂け女の正体も分かって解決、とまではいかないけどひとまずの一段落。現実的な問題は山積みでござる。まあ手はあるけど。そして杉田さんの手当ても終わる頃。
「ところでこの鍵って何の鍵なんでしょう。この日記も書いた人間の名前はないですし、この人体実験をしていたという人物なのかも書かれていません」
「それなら校長室だと思う…」
しばらく泣いていた口裂け女さんが落ち着いたところで話し始めると、どうやら心当たりがあるようでござる。校長室までの廊下で、クラスメートだったのか白骨死体達が再び襲いかかってきたがそれを口裂け女さんが制した。
「もういいの」
少し寂しそうに言うと白骨死体達は間を置いて見つめ合っていた。やがて一人の白骨死体が頷くと誰も襲ってこなくなった。口裂け女さんの案内で校長室に入る。妙に他の部屋よりも広く作られているでござる。
「この鍵穴に使うと思う」
言われたところに懐中電灯を照らすと確かに鍵穴があった。校長室の机を押すと横にスライドして、その下の床板を叩くと開いて鍵穴が現れたでござる。
「よくこんなの見つけたでござるなあ。あれ?今思ったんだけど、口裂け女さんってずっとここにいるのにどうやって外とここを出入りしてるでござる?あの鋼板ぶ厚かったのに」
「ナイショ」
「回します」
七条さんがゆっくり鍵を回すとゴウンゴウンと歯車の動く音がした。
「!おっとあぶねえ」
「えっ?あっあっあっ、ぶべらっ!」
「何やってるんだキミは」
今度はその場の床が自動ドアよろしく左右にスライドし開くと中から石盤が現れた。吾が輩は気付かないで盛大にずっこけたでござる。だって足下が動くなんて聞いてないもーん!
「なんだこれは」
石盤はレリーフが何枚か並べられていて、なにやら絵柄をかたどっているように見えるがまったく繋がっていない。それに一枚足りないようでござる。
「パズル…でござる?この石盤の枠の中で完成させればいいの?」
「完成させたら足りない一枚を嵌めろってことか」
「足りない一枚なら持ってる…。理科室で見つけた」
口裂け女さんファインプレーでござる。幸いにもそれほど多くないレリーフを並べ替えて一枚嵌めると十字架に刺さった髑髏の絵柄が完成した。
「気味が悪いな…」
「このドクロ、額に目がついてますね。写真を撮っておきましょう」
「…サード・アイ?」
突いて出た言葉は想像するに難しくなかった。この世界で第三の目を語っている組織は一つしかないでござる。
「まさか、サード・アイってその『サード・アイ』か?だがヤツらのマークと違うぞ」
「しかし第三の目と言ったら彼らしか考えられないでござる…」
不気味なレリーフに気を取られていると第三の目があった部分が凹み、代わりに埃にまみれた円柱状の容器がせり上がってきた。
「なんなんでござる」
「またなんか出てきたな…、これは注射器か?」
開けてみるといかにも毒物や劇薬ですと言いそうな、蛍光の緑色と紫色の液体がどろどろとする注射器が出てきた。今の注射器とはずいぶん形が違う上、針は献血針より太いでござる。
「うええ、こんな極太ので何を打つでござる…」
「どんなものが入っているか分かりません。容器に入れたまま持ち帰りましょう」
概ねの用事が済んで地上に出ると真っ赤な赤色灯をずらりと並べたパトカーの大群に囲まれていた。沢山の制服警官が拳銃をこちらに向けている。
「あなた達を逮捕します」
「なぁにぃ?」
「(゜д゜)ナンジャコリャ」
解体工事の始まった木造旧校舎に降って湧いた都市伝説を解決してきたら今度は警察に取り囲まれたでござる。うっすらと浮かぶ朝日よりもまぶしいパトカーの赤色灯が目に刺さる。
「学校を封鎖しろ。敷地に誰も入れるな」
「ハッ」
呆気に取られてポカンとしている間に門や校舎に規制線が張られていく。中学校の敷地を車両で取り囲みアリ一匹出入り出来ないだろう人数の警察官が配置された。
「では、署までご同行願います」
「何を言ってるんだ、ふざけないでもらおう」
「連れていけ」
「おっなんだこの離せ!やめろ!その子に触るな!」
「なにするだ!吾が輩は一般人でござる!」
無理矢理パトカーに押し込まれ連行される。ああ、まさかタイーホされることになろうとは。だいたい七条さんが無茶するのがいけないでござる。いくら本部長がって言ったって拳銃勝手に持ち出したり深夜に勝手に学校入ったり…。
「くっ、レイミさんに連絡が取れれば…。せめてサロンの誰かに…」
「呼んだ?」
……………。
「本部長の様子が少しおかしかったのは圧力か何かか…。ならコレは外部に渡さなければ警察では握りつぶされてしまうだろう」
「じゃあこのまま持って帰っていいですか?」
……………………。
「杉田さんと口裂け女さんが心配でござる」
「ああ、そうだな。口裂け女さんには色んな容疑も掛けられているし杉田さんは怪我しているし警察手帳は不携帯だ…」
「警察手帳は本部長のところに啖呵切って置いてきたって聞いたわよ?」
…………………………………………。
「おかしい、この方向は署を通りすぎてもう反対方向だ。おいこの車はどこに向かってるんでござる!」
「武蔵野学園都市ですけど…。ウチの特区だからこっちの圧力とかそういうの無いし…」
………………………ヲイ。
「どぅえはっ!あっつぅ!一回このマスクやってみたかったけど制服といいサラシといい暑くてたまらないわね!」
「んんっしょ。『やった! ル○ン三世ごっのできる!』ってはしゃいでたのレイミさんじゃないですかー。はっー、あっつい」
…………………。アーアーキコエナーイ。
「…どこからでござるか」
「んー、強いて言うなら七条さんがござるくんち行ったところからかなー」
「最初っからじゃないですくぁ!」
聞き間違いだと思いたかった。いや幻聴だと思いたかった。今パトカーの運転席と助手席に見える二人は幻覚だと思いたかった。ル○ン三世ばりに取ったマスクの下から現れたのはレイミさんとリーシャさんだった…。やられたでござる…。
「すまないござるくん。実は俺とは別に本部長が彼女らに相談していたそうだ。一週間前に裁判所へ行って中学校の捜査令状を取ろうとしたら何故か却下されてね、その帰りに俺にも接触があったんだ。まあ敵を騙すにはまず味方からと言うしな」
「…姉上にチクってやる」ボソッ
「?!ちょっと待ってくれ、何が望みだ」
「オンドゥルルラギッタンディスカー!」
くそー!くそー!なんも知らないで踊らされてるのは吾が輩だけじゃないですかやだー!
「じー」
「ナズェミテルンディス!」
「まんまとひっかかってやんのwwwバーカバーカwwwこの子チョー間抜けヅラしてるんですけどwwwプークスクスwww」
助手席からこちらを見て爆笑しているレイミさん。子どもかアンタは!
「オレァクサムヲムッコロス!」
「まー、似たようなパターンに何回もハマるキミもキミだよねー」
ウゾダドンドコドーン!
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