第82話 目覚めのとき


「…先、行ってます」


「うん」


変身し、一人神剣を携えて飛び立つローズ。


「私も加勢に行かなくちゃ」


鳴りやまない警報。握りしめたICレコーダー。止まらない涙。死んでも守るなんて、そんなのってないよ。


「あなたは、あなたにとってはなんともないことだったのかもしれない。なんにも考えてなかっただけかもしれない。でもそれが私達には嬉しかったの」


彼女は両肩に手を添え、優しく微笑む。


「皆ね、あなたが来る前はちょっとギスギスしてたの。それをあなたが引っ掻き回してくれたから今は毎日が楽しくってしょうがないわ。あなたといると退屈しないもの」


手を離し、静かに背を向ける。


「だから見守ってて。負けないように、死なないように」


その姿を現す白亜の雷帝、ターミガン。


「機動兵器は私とローズでやるから行ってあげて。まだ少し、時間があるから」


軍曹と二人。


「俺もそろそろ持ち場に戻る」


「なんでこんな男のために……。なんで、なんで…」


自分の価値は自分がよく知っている。自分の命なんか世界一つ守る理由にならないことぐらい、考えなくても分かっているつもりだ。


「甘ったれんじゃねえ!」


胸ぐらを捕まれて壁に叩きつけられる。


「お前にも守るもんくらいあんだろう!お前にも失いたくないもんがあんだろう!テメーの存在を掛けても惜しくない人がいんだろう!!テメーの存在を失っても惜しくない人がいんだろう!だから戦ってんじゃねぇのか!!!!あの女達にとってお前がそんな存在だから戦ってんじゃねえのかよ!!!」


こんなに胸がいっぱいになったのはいつぶりだろうか。こんなに嬉しかったのはいつぶりだろうか。こんなに世界を愛しく思ったのはいつぶりだろうか。


(いるよ……、軍曹。守りたい人が、たくさん、たくさんいるよ………)


いつも優しい父上や母上、いじめっこから守ってくれた姉上、唯一血が繋がっている妹君。いつも可愛がってくれるお師匠さま、ロイヤルセブンの面々、今までお世話になった人達。もし、あっても意味のない力だったら鍛えたりしなかっただろう。


「皆平和で、幸せでいて欲しいんだ。なんにも知らなくていい、ただ笑ってくれてたらそれでいいんだ。こんなことを軍人が言ったら笑われるかもしれねえよ。けどな、俺はそのためにここにいる。お前はなんのためにここにいる?」


「俺は、俺は……!」


『私の力は心から湧く力、地を照らす温かな光の力』


朱色の光が天に伸びる。


「おおっ?!」


「おおおおああああああ!!!!」


「ぼっ、坊主お前…?!っ!…いない」


――――中心 原子力空母エンタープライズ・飛行甲板


「! なんだ今の」


大型の魔方陣の描かれた中心に大型の発射台。垂直に建つその銃把を握り、仰向けに寝る台座でその瞬間を待っていた。


(ダメだ、集中しねえと)


巨大な力のうねりを感じ一瞬気が逸れる。


(なんだったんだ今の……)


「よう、やってんじゃねえか」


「! てめえ!」


「まさかアタシらが来ないとでも思ったか?」


「ふ、ふざけろ……。機動兵器は囮かよ」


どこからともなく現れたもう一人のシューティングスター。自分の『オリジナル』。


「くそ…」


「今日は俺もいるぜ」


「!」


もう一人現れた見覚えがある真っ黒い鎧の少年。


「テメー、ふざけんなよ!」


「おいおいそんな格好のヤツがイキってんじゃねぇよ」


嘲り笑うその姿は世界でただ一人認めた男の、その『オリジナル』。世界で一番気に食わない男。


「まさかこんな簡単に命を捨てるとは思わなかった。来て正解でしたね、『リエッセさん』」


「ああ。だがこんな間抜けな格好じゃ簡単に殺されちゃうぜ、『ござる』」


奴が対物ライフルを構え、狙う。


「バッ…!」


バカヤロー!そう叫ぼうとしたときだった。


「誰に向けてんだよ、これ」


声がする。どこだ?どこからだ?まともに動かせるのは首だけ。視界いっぱいぐるぐると声がした方を探すが誰も見当たらない。


「おおい、マジかよ。見えなかった」


「どっ、どこだよ!」


「あなたのそばですよ、『コピー』さん」


「えっ?」


そば?見るとオレンジ色に淡く光る『ヤツ』がいた。視線に気付くといつの間に奪ったのか、対物ライフルを投げ捨てた。


「オレンジではないです、リエッセさん。あかです。日本では朱色って言うんですよ」


どうなっているのか。元々真っ黒だった鎧は先日、白いベースの青いラインが入ったカラーリングに変わっていた。またカラーリングが変わってやがる…。今度は太陽みたいな色だ。


「リエッセさん、これはお返しします」


「お前、これ…」


「こんなのが最期だなんて言わないでください。寂しいじゃないでござる」


ICレコーダーを差し出してきた。


「お前聞いたのか…?バカヤロウ!!!ここにいたらお前が危ねえだろ!なんのために引き離したと思ってやがっ」


「ここに置いときますね」


怒鳴り声を無視し、歩き始めた。


「俺が相手だ」


「上等。色が変わったくらいでガッ! アアアッ!」


「なに?!!」



一瞬で拳が腹を貫き、『オリジナル』はくの字にうずくまった。


「機械……」

拳が引き抜かれるとバラバラと破損した部品やコードが散乱した。


「『俺達』はまだこの世界に生身では来れない。だから機械の体を使ってここにいる」


「なら手加減しないで済む」


「手加減だと…?!アッ、ブフッ!アタシがァ、こんなガキにィ!」


向こうが見える腹のまま『オリジナル』は殴りかかった。が、その拳が届くことはなかった。無かった。


「この野郎! 調子乗んなよ!」


今度はござるの『オリジナル』が殴りかかった。ござるはその拳を受け止めると、燃やしてしまった。手の光が膨張し、その光に触れた『オリジナル』の機械の手は燃えてしまった。


(すげえ…、アイツあんな強かったか……?

まるで別人じゃねぇか…)


「ありがとうなござる、最期にお前が見れて嬉しかった。そんだけ強けりゃ、もう大丈夫だよな」


「リエッセさん!!!」


静かにゆっくりと、そして確実に引き金を引いた。消える、たった一つしかない命が。光に包まれて消えていく。


(でもなんでたろう、死ぬっつーのに全然恐かねーや。それどころかほっとしてやがる。置いていっても心配じゃねーからかな。なあ? ござる……)

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