第81話 開戦


「じゃ、そろそろ行きましょうか。暗いからちゃんとついてきてね?」


「イエス、マム」


「はい」


PM20:00。水着にライフジャケットを着て水上バイクで発進する。合流ポイントまではレイミさんの案内。しばらくするとお迎えの巡洋艦が待っていた。


「よく来たな坊主。お前が八人目だって? とてもそうには見えないな」


「例えば何に見えるでござる?」


「バイキングに並んでるローストビーフか、もしくはボンレスハム」


「加工済みどころか食される直前」


「食べるのは私です」


巡洋艦でまたしばらく移動した後、太平洋艦隊と合流する。具体的なポイントについては機密だそうな。しかしアメリカ海軍太平洋艦隊まるごと展開なんて機密にしなくてもバレそうでござる。


「ほーら見えてきたぞ、あれが太平洋艦隊だ」


「ヒエッ、見渡す限り軍艦でござる。軍艦の海でござる」


「改めて見ると壮観ねぇ」


「鋼鉄の海…」


数百隻の艦艇が一帯の海を埋め尽くす。ぐるぐる見渡していると巨大な緑色の発光が起きた。


「始まったわね」


「あれは敵襲ではないんでござる?」


「敵襲ならとっくに警報が鳴ってるわ。あれは中心にいるリエッセさんの儀式よ」


「儀式?」


この22世紀において儀式?まさかそんなオカルトで隕石を撃墜しようなんてこと考えているワケではないでござる?


「結局PDAに目通してないのね。いくらリエッセさんが全力を出しても大気圏外までは届かないし威力も足らないわ。なら、どうすると思う?」


「出力が足らないなら何か別の方法を取るしかないでござる」


「近いようで遠いわね。正解は、11隻の原子力空母で発電する電力を魔方陣で増幅して直接本人に送ってるのよ。そして全てのエネルギーを放って隕石を撃ち落とす」


ニミッツ級10隻で組む二重の五芒星。その中心にエンタープライズを置き、展開位置によって描かれた魔法陣を艦船の円運動によって回転させる。回転している魔法陣にエネルギーを送り込んで増幅、それをエンタープライズ上にいる一人の人間に一極集中させ叩き込んで発射する。


『オオオオオオオオオオオオオオッ!』


「なっ…、バカ言っちゃいけないでござる!あの発光が全て原子力空母なんでござろう?そのエネルギーを増幅してたった一人に集めるだなんて、そんなんしたら人間なんかまばたきもしない内に消滅するでござる!!!いくらなんでもやらせていいこと悪いことが!」


「やっぱり反対しましたね」


「ね、あなたなら必ず反対すると思ったわ。私だって反対だし。でも本人がどうしてもって言ったことだから」


「だからってぇ!!!」


「坊主」


「なんですか!」


激昂する吾が輩に、先ほど迎えてくれた軍曹がICレコーダーを差し出した。


「伝言だ。本当はこんなことバレたら俺はクビが飛ぶ。だが録音するときに聞いちまったんだ。渡さずにはいられない」


黙って受け取り、ICレコーダーを再生する。


『あー、あー。おい軍曹、これってもう喋っていいのか?』


『はい、どうぞ』


『ようござる、これを聞いてる頃アタシはもうこの世にいないかもしれない。遺言として聞いてくれ。この作戦はアタシが考えたんだ。ぶっちゃけいくらアタシが頑張っても成層圏が限界で大気圏外には届かない。届いたとしても威力が足りない。それだけ隕石もデカいんだ。だから外から付け足して持ってくる必要があったんだ。こんなの甘ちゃんのお前はきっと反対する。だから直前まで知らせないで、アタシのところにも連れてくるなってレイミに言ってある。責めないでやってくれ。お前には役割がある。アタシにも役割がある。アタシがたまたま危ない橋になっただけさ。隕石は心配すんな、きっちり撃ち落とす。ただその時アタシは生きてるかどうか分からねえ。どんなに超能力者で、どんなにバケモンの体になってもこれだけは分からねえ。人の形を保ってるかも分からねえ。

でもな、それでもな?守りたいんだ、この世界を。お前を。ロイヤルセブンにいる連中はどいつもこいつもバケモンだって後ろ指差されてきたヤツばっかだよ。でもお前はそんなことしなかった。普通に接してくれた。お前と初めて会って話したとき、久しぶりに自分が人間なんだなって思えた。嬉しかった。だから例え死んだとしても、そんな甘ちゃんこお前がいるこの世界を、地球をダメにされるワケにはいかねーんだ。死んでも守り通す。最期だから言っておきたいんだけど、なんつーかその…えーとだな…、だーっ! もうアタシらしくねぇな!好きだよ、愛してる。お前のこと、大好きだよ。なんだかんだ弟みたいで可愛いしな。いやお前姉貴いたっけな。……長くなったな。アタシの葬式にはちゃんと出ろよ!以上!!じゃー軍曹あとよろしく!!!』


『はい、必ず』


涙が止まらなかった。まさかこんなに自分が大切にされてるなんて思ってなかった。まさかこんなに自分が愛されてるなんて思ってなかった。握りしめたICレコーダーに溢れた涙が落ちた。





「さあ、ブチ落とすぜぇ。この世でアタシが愛してるのはただ一人。死なせねーよ?」




警報が鳴った。

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